ここから本文です

任天堂、「ポケモンGO」でも動じない。自由でお公家様な社風

HARBOR BUSINESS Online 7/23(土) 9:10配信

 アメリカをはじめ海外で大ヒットしている「ポケモンGO」が、ついに日本でもサービス開始となった。

⇒【資料】ソシャゲー各社の売上推移

 米Niantic社への出資を通じて、同ゲームを開発、リリース、アメリカのAppstoreで連日1位を獲得するなど大ヒットに導いた任天堂の時価総額は、ここ2週間で2兆円も増えた。

◆2週間でコマツ、京セラに匹敵する規模の成長

 時価総額2兆円というと、富士フイルム・新日鐵住金・コマツ・オリックス・京セラ、あたりの日本の名だたる企業1社分に等しく、DeNAとmixiとグリーとコロプラとガンホーという日本のソーシャルゲーム企業の雄たちの時価総額を足した額よりも大きい。

 しかし、10年スパンで見ると、任天堂の株価は長期的に低迷しており、ようやく全盛期の半分近くに戻しただけであることがわかる。

 任天堂の株価が最高値をつけたのは’08年。

 この年は「ニンテンドーDS」「Wii」を主力として、任天堂が国内国外問わず収益を上げまくっていた頃だが、ちょうど時を同じくして、ガラケーを主体とするソーシャルゲーム市場が盛り上がり、DeNAやグリーが急成長し始めている。

 ソーシャルゲームの主役は’12~’13年にガラケーからスマホに移り、ガンホーやmixi、コロプラがヒット作を従え、台頭してきた。

 ’15年度において、各社のゲーム事業の売上高を足し合わせると6000億円を超え、任天堂の年間売上高5000億円をも上回る。その間、任天堂が何をしてきたかというと、ガラケー、スマホ領域ではほぼ何もしなかった。

 任天堂がソーシャルゲーム事業に参入しなかった理由。

 それはユーザーを煽ってアイテムを課金させるソーシャルゲーム事業は、故岩田聡元社長が「そういうビジネスは絶対に長続きしないと信じています」と明言するなど、任天堂の企業理念に反すると考えたのか、手を出すことを忌避したからだ。儲からないからやらなかったのではない。やりたくなかったから、やらなかったのだ。

’13年、筆者は外資系コンサルティングファームのインターンの面接を受けていたが、そこで「任天堂はソーシャルゲーム市場に参入すべきか」という課題が出された。筆者は「上場企業の役目が利益を伸ばすことであることを考えれば、参入すべきなのは明白だ」と答えた。

 それが教科書的な答えなのは恐らく間違いないが、任天堂という企業は、時価総額がどうのこうのという問題をあまり気にしていないように見える。

◆株価9割減にも動じないお公家様な社風

 何もしなかった結果、任天堂の株価は一時期、全盛期の10分の1になり、時価総額は「パズドラ」が伸び続けていたガンホーに一瞬とはいえ抜かされた。時はまさしく市場がアベノミクスに湧き、日経平均が倍増しようというときだったが、任天堂はどこ吹く風で下がり続けた。

 逆に、任天堂が最高値をつけた’08年はどういう年かを考えてみよう。そう、リーマンショックが起きて市場が暴落していた年だ。つまり、任天堂は市場のマクロな動きを意に介さない会社なのである。

「ポケモンGO」のブレイクの恩恵を受け、7月21日時点で任天堂の時価総額はセブン&アイHD、キャノンに次ぐ、国内18位まで上昇した。しかし、その社風は日本を代表する上場企業というより、花札屋として創業した時から変わらず、マイペースで自由だ。

 今だに本社を京都に残していて、まさにお公家様のような企業である。

 同社の財務状態もそういった企業文化を反映している。

 ’15年度で5000億円の売上に対して、2500億円以上の現金を保有する一方、負債総額は1300億円程度だ。

 借入金などはもっと少ない。社員数はわずか5000人で、1人あたりの売上高が1億円もある。業績が悪化し続けても社員の給料はほぼ削られなかった。

 拙著『進め!! 東大ブラック企業探偵団』では厳しくてもチャンスが与えられ、変わり続けようとする会社をホワイト企業と定義しているが、業績が悪化し続けても社員が厚遇され続ける同社はまた違った意味で、「究極のホワイト企業」とも言えるかもしれない。

 そんな同社だが、昨年ついにDeNAと提携し、「Miitomo」というゲームを延期の末にリリース。スマホのゲーム市場に参入したのが、今年に入ってのことだ。それから間もなく、「ポケモンGO」の大ヒットである。最初に書いたように、時価総額の高騰に市場は湧いているが、一連の流れを見るに、任天堂にとって今回株価が上がったのはあまり興味のないことかもしれない。

 株価が10分の1になっても、やりたいようにやり続け、ようやくスマホゲームでやりたいことができる準備が整ったために参入。「ポケモンGO」は最先端のAR(拡張現実)の技術を使っており、3年前にスマホゲームに参入していてもできなかった。

◆マリオ、ゼルダ…豊富なIP(知財)が武器

 今年はVR(仮想現実)元年と言われている。ソニーやサムソンなどの大手メーカーやフェイスブック、マイクロソフトといったIT企業がこぞって、ヘッドマウントディスプレイという顔に装着するタイプのハードをリリースすると見られている。しかし、任天堂はこの動きにも便乗していない。恐らくやりたくなった時に始めるし、やりたくならなかったら永遠にやらないのだろう。

 マリオやゼルダ、そして今回のポケモンのような強力なキャラクターのIP(知財)を有している同社は、好きな時に新しいデバイスに対応すればいいという余裕を漂わせている。

<文/大熊将八>

【大熊将八】

おおくましょうはち○瀧本哲史ゼミに属する現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/23(土) 13:02

HARBOR BUSINESS Online

なぜ今? 首相主導の働き方改革