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自然エネルギーの開発に新たな視点の導入

Meiji.net 7/25(月) 13:49配信

自然エネルギーの開発に新たな視点の導入
末松 J. 信彦(明治大学 総合数理学部 専任講師)

 いま、クリーンで安全な様々な自然エネルギーの開発が進められています。大きな課題のひとつは、エネルギー供給力の向上です。
 そこで、設備のメガ化に走るのではなく、自然エネルギーの開発であればこそ、自然の摂理である効率化に学ぶ視点が必要ではないでしょうか。


◇自然エネルギーの変換効率をより高めるために

 2011年の東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故は、私たちに自らの科学力の未熟さを突きつけるとともに、エネルギー問題の観点から持続可能な社会のあり方を根本から願う起点となったといえます。
 社会の指向が、安全性に不安のある原子力エネルギーや、資源の枯渇とCO2の排出問題がある化石燃料エネルギーから、自然エネルギーに向かったのは当然のことといえます。しかし、自然エネルギーの中心的存在である太陽光発電や風力発電にも大きな課題があります。
 社会のエネルギー需要に応えられる供給力がないことです。そこで、供給量を上げるために設備を増やす、巨大化するという方策に傾きました。まさに力押しです。もっと、エネルギー変換効率を高める技術を開発する方策があっても良いのではないでしょうか。
 そのためのヒントは、自然そのものにあるのではないかと考えています。

 いま、自然エネルギーの技術のひとつとして注目されはじめているのが、人工光合成です。ここでも電力生産力の向上が大きな課題のひとつであり、そのために、様々な光触媒等が開発され、いかにエネルギー変換効率を上げるかが競われています。

 もちろん、光触媒の開発は大切ですが、私はここに新たな視点が必要ではないかと考えています。効率化を構築するには、自然の摂理である光合成の本質を捉え、その仕組みから人工光合成を再構築することも重要であると考えるからです。
 そこには、メガ化に頼らないヒントがあるはずです。私の研究分野である「自己組織化」には、自然が備えている効率化の本質を解き明かす可能性があります。


◇「自己組織化」の研究が目指しているもの

 私は、様々な生物の活動や行動において、一定の規則や秩序が自然に生じる「自己組織化現象」について研究しています。
 例えば、アジの渦巻き状の群泳、雁のV字編隊飛行など。それらは特定のリーダーの指示による行動ではなく、群れの中に自然に生じる秩序構造です。この生物が起こす自己組織化は無生物で再構成することが可能であり、それによって、その自己組織化の本質的な部分を抽出することを、私は目指しています。

 このような実験があります。ミドリムシの培養液を薄い容器に閉じ込め、下から強い光を当てると、培養液に緑色の斑点模様が現われます。
 ミドリムシの密集部分と、そうでない部分が極端にできるため、こうした斑点模様が現われるのです。これは生物対流という現象です。ミドリムシは強い光を避けるために、下から光を当てられると液の上に移動します。

 しかし、ミドリムシの身体は液より重いため、上に長くいることができず沈んでしまいます。すると、強い光を避けるためにまた上がっていきます。これを繰り返すうちに、自然に密集部分とそうでない部分が生じ、ミドリムシはその中を周期的に泳ぎ続けます。
 ミドリムシが集まるほど影ができ、強い光を避けやすくなります。つまり、彼らは周期的に変化する光環境を自分たちで作っていることになるのです。
 いま、斑点模様の形成が、一個体のミドリムシの生体反応とどう関係しているのかについてアプローチしています。ミドリムシの自己組織化現象が、彼らの光合成の効率を高める要因につながっていることがわかれば、そこから効率的な光合成の構造を得ることも期待できます。

 効率化というと、有用性を重視した非人間的なシステム化を想像しがちですが、自己組織化を研究する私にとって、効率化とは生物が生き抜くために、長い期間をかけて獲得したシステムのことでもあり、その意味でとてもナチュラルな現象です。
 ミドリムシの対流にも、彼らが効率的に生きるシステムが内在しているかもしれません。その効率的な存在の仕組みが、自己組織化を研究することで見えてくる可能性があります。そこから学び得たものを人工的に再構成することで、エネルギー問題に新たな答えを出すことが期待できるのです。


◇真に持続可能な社会を実現するために

 私たちは植物の光合成を学び、その仕組みをほぼ明らかにしました。しかし、一方でその本質を捉え得ているかは疑問です。
 例えば、植物の光受容器の配列には一定の規則性がありますが、その理由は解明されていません。植物が現代まで生き延びる術となったであろう、光合成に関わる自己組織化の本質に迫り、彼らが獲得した効率性に視点を向けることは、私たちにとって新たな可能性を見出す機会となるはずです。
 先行した自然エネルギー開発が力押しの方策に走ったことを反省点とし、ミドリムシをはじめ、植物の光合成の構造に学び、その効率性を解明して取り入れていくことはとても重要です。

 生物がもっている自己組織化現象は、私たちがようやく目を向け始めた、真に持続可能な社会を実現するための示唆に富んでいるのです。

※取材日:2015年8月

末松 J. 信彦(明治大学 総合数理学部 専任講師)

最終更新:7/25(月) 13:49

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