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ソフトバンク、史上最高3.3兆円で“英国の至宝”を買収した日本最大の「総合商社」

HARBOR BUSINESS Online 7/25(月) 16:20配信

 総額3.3兆円でイギリスの半導体設計会社・ARM社の大型買収を成功させたソフトバンク。ARM社はスマートフォンに搭載されるCPUの9割に同社の設計技術が使われているほどの超優良メーカーだが、ソフトバンクの孫正義社長はたった2週間の買収交渉で”金の卵”を手に入れた。

⇒【資料】ソフトバンク セグメント別売上高(10億円)

 ソフトバンクはニュースには事欠かない企業だが、いろいろやりすぎていて実態の掴みにくいのも事実だ。そもそも本業は何なのか。

 有価証券報告書から、手がけている事業別の売上高を調べても通信事業、スプリント事業、ヤフー事業、流通事業くらいしか出てこない。

 これだけだとただのイチ通信業者だ。しかし、ソフトバンク本体の保有資産を見るとその実態が明らかになる。

◆ソフトバンクの有価証券報告書を読み解く

 さて、ソフトバンク本体の保有資産はどうなっているのか。

 資産の大半を占めるのは現金などの「流動資産」や土地に代表される「有形固定資産」、商標権などの無形固定資産ではなく「投資その他の資産」だ。さらに、その内訳には「関係会社株式」が4.1兆円もある。

 ソフトバンクは大量の事業に投資して会社を作り、経営を担うことこそ本業にしている企業である。昨年リリースされた「Pepper」を皮切りにしたロボット事業や、人工知能の技術と絡めた自動運転の事業のように自分で子会社を作ってやる場合もある。

 一方で、アリババやガンホー、スーパーセルなどの外部の企業にも積極的に出資し、その後これらの株式売却で計3兆円を手にしたことも話題になった。今回のARM社大型買収もこれらが元手となっている。

 孫社長のビジョンは「情報革命で人々を幸せに」である。だが、よく考えてみれば「情報革命」の定義はとてつもなく広い。PCやスマホなどのハード、その部品、通信、ソフトウェア、コンテンツ、全く新しい技術。なんでも情報革命に関わっている。

 本体での経営・子会社の設立や出資、買収というあらやる手段を通じて、それらを全部やろうというのがソフトバンクである。

◆ソフトバンクが「総合商社」である理由

 そんなソフトバンクを筆者は「総合商社」であると定義したい。同社が創業時はソフトウェアの卸売をやっていたように、日本の総合商社もかつては卸売りを中心としていたが、現在は事業投資・事業経営で稼いでいることはよく知られている。

 ソフトバンクを三菱商事、住友商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅といった国内5大商社を比較することで、それぞれの実力を計ってみよう。

 まず、売上高や時価総額という指標で比較すると、ソフトバンクが圧勝していることがわかる。

 とりわけソフトバンクは成長スピードが早く、市場から期待されていることも相まって、売上高においては三菱商事や住友商事より20~30%高いだけだが、時価総額では2位の三菱商事にダブルスコアもの大差をつけている。

 それでいて従業員数は伊藤忠の半分程度で、それ以外の他社と同程度のため、社員一人当たりの売上高もソフトバンクが最も高い。

 「商社は人が最大の資産」と言われ、売上に比べて社員数が少ないため、社員一人一人がしっかり稼いでくることが求められる。その面でもソフトバンクが商社として「最強」であるといえよう。ただ、資産と負債(BS)に目を向けると違った事情も見えてくる。

◆資産と負債(BS)を読み解く

 さて、ソフトバンクの資産と負債(BS)を見てみよう。

 まずソフトバンクの自己資本比率は極めて低い。これは約20兆円もの資産のうち、12兆円弱という日本最大の規模で借金をしているからだ。

 現金も’15年度期の時点で2.6兆円を保有し、他の商社を圧倒している。

 さらにアリババ、ガンホー、スーパーセルといった大手IT企業の株を6月に売却し、2兆円を得た。それから前述のとおり、すぐにARM社を買収、追加で1兆円のつなぎ融資も行った。このように、ソフトバンクは躊躇なくお金を使うから借金は膨らむ一方なのだ。

 資金調達の方法は市場から集める(直接金融・株)か、銀行から借りる(間接金融・負債)のどちらかしかない。その点において、どちらも目一杯やりきって会社を伸ばしているのがソフトバンクといえる。それが高い時価総額のゆえんなのだ。

 ところで、総合商社といえば帰国子女やTOEIC・TOEFLの高得点者が多数在籍する、グローバルな会社というイメージがあるかもしれない。しかし、グローバル企業であるという点でもソフトバンクのほうが徹底している。

◆海外ベンチャー取材で筆者が見たもの

 今回、たまたま英国企業を買ったことを指しているのではない。

 筆者は昨年3か月間、ニューヨークのベンチャー業界を現地でリサーチしていた。地元の有力なスタートアップには必ずソフトバンクキャピタルという、ニューヨークを拠点とするソフトバンクのベンチャー投資ファンドが初期から投資していた。

 運良く、そのメンバーの1人にインタビューする機会があったのだが、そのときにソフトバンクキャピタルのホームページをみて驚愕したことがある。日本人が一人もいないのだ。

 別の機会に、インドネシアでスタートアップのリサーチをしていたときにもソフトバンクキャピタルの上海&インド支社の人材に出くわした。彼はハーバードを卒業後ゴールドマンサックスを経て、同社に参画したアメリカ人だ。性根からグローバル企業であるソフトバンクは、日本人を入れることに優位性がない領域において、無理して日本人に任せることをしない。

 それはかつてGoogle社が経営層の経験がありこれから伸びる新興国インド出身というアローラを後継者に引き入れ、あっさり国内の後継者候補を捨てた経緯からも見て取れる。

 拙著『進め‼ 東大ブラック企業探偵団』でも、グローバル化をチャンスと捉えて拡大する企業のみがこれからも生き残る「ホワイト企業」だとした。だが、それを突き詰めたとき、これからグローバル化に成功する日本企業が出てくることはあっても、日本人の社員が生き残るとは限らないという事実が浮かび上がってくる。

<文/大熊将八 photo by Kirakirameister via Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0>

おおくましょうはち○瀧本哲史ゼミに属する現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者

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最終更新:8/25(木) 18:16

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北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。