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経済のサービス化の意味 ―求められるモノからコトへの構造転換―

Meiji.net 7/26(火) 14:02配信

 「モノからコトヘ」と言われて久しい。一見、これは第三次産業(サービス業)へのシフトを謳ったように思えるが、実は日本経済全体への警鐘を鳴らした言葉である。
 経済活動はすべてサービスであり、「モノを伴うサービス」と「モノを伴わないサービス」があるとする発想の転換は、行き詰った日本の多くの中小企業にも、新たなヒントを提起している。


◇要請される経済のサービス化

―先生が研究対象とされている「サービス研究」「サービスマーケティング」とは、どのようなものなのでしょうか。まず、その解説からお願いします。

戸谷:「サービス研究」「サービスマーケティング」といった分野の研究は日が浅く、50年ほどの歴史しか経っていませんが、近年、大きく注目されるようになってきたのは、経済や産業の構造が変化してきたことと密接な関わりがあります。
 経済は成熟化するほどサービス化が要請されます。日本、欧米の先進国はその好例で、日本のGDPの約70%は第三次産業、すなわちサービス産業が稼ぎ出しています。

 しかしサービス化というのは、単に産業が第三次産業にシフトすることを指すわけではありません。重要なのは、経済活動そのもののサービス化を進展させることです。
 かつてサービス研究は、モノとサービスを二極化対比することで、サービス化の重要性を強調していました。しかし10年ほど前にパラダイムシフトが起こり、そこで登場したのが「サービス・ドミナント・ロジック」という理論です。
 モノとサービスを分けて経済活動をとらえようとしてきた従来の基本的な前提を見直し、モノとサービスを統合・融合して経営理論を組み直そうという考えです。マーケティングの世界で古くから使われている格言に、「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」という言葉があります。モノづくりの国として経済成長を遂げてきた日本は、ドリルの性能向上に注力しすぎたと言えます。

 モノの性能追求だけでは事業が成り立たない危機的状況にあることは、ここへきて露呈したモノづくり企業の苦境が物語っています。求められているのは、モノとサービスを融合させる「サービス・ドミナント・ロジック」を導入することであり、「ドリルではなく穴」を提供する経済のサービス化を推進することです。


◇価値を共創する

 ―経済のサービス化の推進とは、具体的にどのようなカタチを言うのでしょうか。

戸谷:従来、価値を創る主体は企業でした。企業は商品(モノやサービス)に価値を作り込み、その商品に対して顧客に多くの価値を認めてもらうことを目指してきました。顧客は、企業が作った商品に対して対価を支払い、消費する主体であると考えます。

 つまり、この交換価値を最大化することが経営のゴールであり、企業による価値生産と顧客による価値消費が分業される世界でした。そこではモノとモノ以外(=サービス)があるという前提があります。
 しかし、「サービス・ドミナント・ロジック」では、モノとサービスは深いレベルで融合します。顧客が、製品やサービスを使う過程において企業が行う活動や顧客が取る行動が価値を生み続けるという前提に立ちます。
 つまり企業と顧客が一緒になって価値を共創(Co-Creation)する、それによって、経営活動のゴールは交換価値の最大化に留まらず、その後の利用価値(Value in Use)を最大化することにつながっていきます。
 これがサービス化の推進の一つのカタチです。

 たとえば、アップル社が提供しているスマートフォン「i-Phone」。消費者はモノとしてそのデバイスを求めているわけではありません。自分の使い方に合わせてアプリケーションをダウンロードし、自分なりの使い方をしています。
 モノとサービスが融合した「サービス・ドミナント・ロジック」、サービス化のカタチです。またジェット機のエンジンの製造販売を手がけているロールスロイス社は、かつて売り切りの販売形態でしたが、現在はエンジンが稼働している時間にチャージするという方法に転換しています。
 顧客の使用状況に合わせて価値を提供していくというもので、それによって顧客情報を把握し、メンテナンスや効率的運行、オペレーションなど、顧客のビジネスに踏み込んだソリューションを提供しています。企業と顧客が価値を共創することによってwin-winの関係を築いています。


◇財務諸表に表れない企業価値

 ―先生は主に金融サービスを中心としたサービス研究に従事し、またコンサルファームを経営するなど実務家の顔もお持ちです。サービス研究に着目した経緯を教えてください。

戸谷:私は大学卒業後に都市銀行に入行し、8年間勤務しました。そこで感じたのは、顧客志向やマーケティングというものが、一切欠落しているのが銀行という組織だということです。ちょうど金融ビックバンの時代で、競争が始まると言われていた時期ですが、一向に銀行自体に変革の兆しはない。

 そこで外から銀行を変えたいと思いコンピュータベンダーに転職、日本の金融にデータマイニングを導入するというプロジェクトを担当しました。しかし銀行の顧客情報は最初と最後しかないのです。商品購入にいたる過程で顧客が何を感じ、何を思ったかなど、マーケティングに必要な情報は抜け落ちていました。
 金融業界を変えるには新たなアプローチが必要と思い、コンサルファームを立ち上げ、また大学院に進学。そこで出会ったのが「サービスマーケティング」だったのです。
私が金融サービスにこだわるのは、日本の企業や経済が再生するには、経済の血液であるお金を流通させる金融の持つ力が極めて重要だからです。
 銀行は顧客志向のマーケティングを実践し、変わらなければなりません。その際、企業と従業員と顧客、この三者のサービストライアングルのバランスが極めて重要です。それぞれが提供している価値を適正に評価する必要があります。

 たとえば銀行の顧客である企業の価値は、財務諸表だけに表れるものではありません。「Emotional Value」「Knowledge Value」など、感情や情報の価値を見極める必要があります。それが先に述べた「共創=Co-Creation」の実践につながっていくと考えています。
 サービストライアングルの中で顧客はリソースを提供し、高品質なリソースは高品質なサービス提供を実現する、その循環が「共創」を生んでいくと考えています。

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最終更新:7/26(火) 14:02

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