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銭ゲバ経営者に聞かせたい!ーー 渋沢栄一の「道徳経済合一説」

BEST TIMES 7/27(水) 6:00配信

本当の経済活動は、社会のためになる道徳に基づかないと、決して長く続くものではない──渋沢栄一

 渋沢栄一氏について語るとき、必ずと言っていいほど持ち出されるのが、儒教の考え方に基づいた渋沢氏独自の価値観です。
 渋沢氏の代表的著作のひとつ『論語と算盤』に、次のような一節があります。
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 経済活動を行うにあたって、もしみなが、
「自分の利益さえ上がれば、他はどうなってもいいや」
と考えていたらどうなるだろう。むずかしいことをいうようだが、もしそんな事態になれば、孟子という思想家のいうように、
「利益のことなど口にする必要はない。社会のためになる道徳こそ大事なのだ」
「上にいる人間も、下にいる人間もともに利益を追い求めれば、国は危うくなる」
「もし、みんなのためのことを考えずに、自分一人の利益ばかり考えれば、人から欲しいものを奪い取らないと満足できなくなる」
 といった事態になるのである。だからこそ本当の経済活動は、社会のためになる道徳に基づかないと、決して長く続くものではないと考えている。
(渋沢栄一/守屋淳・訳『論語と算盤』より)
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 明治期以降の近代日本で、膨大な数の事業を起こした渋沢氏。その姿勢に一貫しているのは、「論語」に代表される儒教的な精神性でした。私利私欲だけにとらわれることなく、社会のため、他の人々のためになるビジネスを広めて、利益を還元していく。渋沢氏は生涯を通じて、そうした取り組みを実践し続けた人物なのです。
 そう聞かされると「きれいごとを言うな!」と憤る人もいるかもしれません。「当時といまとでは、環境が違いすぎる。昔は経済活動も、人々の考え方も牧歌的だったから実践できたのかもしれないが、現代においてはなかなか難しい」などと、時代や環境の違いに結びつけて、真剣に耳を傾けようとしない人もいるでしょう。

 その一方で、「そもそも金儲け自体がよくない」と経済活動そのものを乱暴にひとまとめにしてさげすんだり、「自分の幸せや願望などは捨て去って、ただ会社のために無心で働くべし」といった調子で個人の思いを軽んじ、ひたすら組織のために尽くせというような暴論を押し付けたりする向きもあります。 渋沢氏は、そのどちらも「違う」と諭します。先に引用した一節の続きです。
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 このようにいうと、とかく「利益を少なくして、欲望を去る」とか、「世の常に逆らう」といった考えに悪くすると走りがちだが、そうではないのだ。強い思いやりを持って、世の中の利益を考えることは、もちろんよいことだ。しかし同時に、自分の利益が欲しいという気持ちで働くのも、世間一般の当たり前の姿である。そのなかで、社会のためになる道徳を持たないと、世の中の仕事というのは少しずつ衰えてしまう、ということなのだ。
(渋沢栄一/守屋淳・訳『論語と算盤』より)
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 このような渋沢氏の考え方を「道徳経済合一説」といいます。道徳と経済はいわば両輪のようなものであり、どちらも大切。いずれかに偏ってしまうとうまくいかなくなり、いずれ破綻してしまう、というわけです。これは経済だけでなく、政治においても重要な視点であると渋沢氏は指摘しています。

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 わたしは普段の経験から、
「論語とソロバンは一致すべきものである」
 という自説を唱えている。孔子は、道徳の必要性を切実に教え示されているが、その一方で経済についてもかなりの注意を向けていると思う。これは『論語』にも散見されるが、とくに『大学』という古典のなかで「財産を作るための正しい道」が述べられている。

 もちろん今の社会で政治をとり行おうとするなら、その実務のために必要経費が必ずかかってくる。また、一般の人々の衣食住に関わる財務諸表が必要になってくるのはいうまでもないだろう。一方で、国を治めて人々に安心して暮らしてもらうためには、道徳が必要になってくるので、結局、経済と道徳は調和しなければならないのだ。

 だからこそ、わたしは一人の実業家として、経済と道徳を一致させるべく、常に「論語とソロバンの調和が大事なのだよ」とわかりやすく説明して、一般の人々が安易に注意を怠ることがないように導いている。
(渋沢栄一/守屋淳・訳『論語と算盤』より)
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 渋沢氏が、現在まで続くさまざまな企業、教育機関などの組織の設立に携わったことは前回述べたとおりなのですが、そうした取り組みは、渋沢氏の道徳経済合一説にもとづく公益重視の考え方が大きく影響しています。
 つまり、私的な利益の追求に固執することなく、富国日本をつくりあげて社会全体を底上げし、世界の先進諸国と渡り合っていくための体力、智力を養うことを第一に考えていたということです。実際、渋沢氏は会社を立ち上げて事業を軌道に乗せると、その会社を他の適任者に任せて自分は退き、また別の新しい会社を立ち上げることに専念しました。

 利益は独占せず、広く社会全体のために使う──そんなスタンスで精力的に働き続けた渋沢氏は、あるとき、三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎氏と激しく対立することになるのですが……。
 そのあたりの話は次回、詳しく解説していきましょう。

文/漆原 直行

最終更新:7/27(水) 6:00

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