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多様性に価値を見出す社会への変化を示唆する「LGBT」ブーム

Meiji.net 7/28(木) 18:31配信

多様性に価値を見出す社会への変化を示唆する「LGBT」ブーム
田中 洋美(明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授)

 LGBTという言葉を聞いたことがあるでしょうか。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を組み合わせた言葉で、さまざまな性的少数者の総称のひとつです。
 LGBTという言葉で現わされつつある中、少しずつ状況が変わってきているようです。


◇19世紀になってから形成された、異性愛/同性愛という区分

 長いこと、異性愛が“正常”であり、同性愛は“異常”と考えられてきました。しかし、異性愛/同性愛という二分法的思考が形成されたのはヨーロッパで19世紀になってからであることが歴史研究でわかっています。

 古代ギリシャには少年愛があったことが知られていますが、キリスト教の影響で生殖につながらない性行為を罪とするようになり、近代精神医学の発展に伴い、アブノーマルとする考えが広がったのです。
 同じようなことが、明治期以降の日本においても起こりました。西洋の近代的な考えを積極的に取り入れていった時代ですが、結果、多様よりも画一を押しつけるような社会に変わっていき、それは現代まで続いてきたといえるでしょう。

 じっさい江戸時代までは、稚児愛や衆道といった同性同士の性的な関係が知られ、また異性装にもそれほどの違和感はありませんでした。男色を題材とした物語などは室町時代からあり(たとえば、江戸時代には井原西鶴の「男色大鏡」)、異性装を扱った「とりかへばや物語」の成立は、平安末期から中世初期にかけてではないかといわれています。現代人の目から見ると、かつての日本は、多様なセクシュアリティをそのまま受入れていた社会であったように感じます。

 このように、人間のセクシュアリティやジェンダーの歴史を紐解いてみると、時代ごとに大きく変わっているのがわかります。いま、当たり前だと多くの人が思っていることも、何世紀か遡ってみると、当たり前ではないことがあるのです。
 生物学の観点とはまた違い、社会学では、何が普遍なのか、何が人間の本質なのかは、決めつけることはできないと考えます。
 いまの私たちにとってどんなに当たり前だと思えることも、今後また変わり得る可能性があるのです。そして、実際にいまが、性的少数者を取り巻く環境が変わろうとしている歴史的に重要な転換期であるのかもしれません。


◇「LGBT」という言葉の広がり

 「LGBT」という言葉はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取っています。この四つに収まらないものもあり、あくまで性的少数者の総称のひとつとして用いられています。この10数年の間に、日本でもマスコミが使うようになっています。この言葉に対しては批判的な意見もあります。

 L, G, B, T以外のセクシュアリティが見えにくくなっているという問題や、このような言葉を使うことで、L, G, B, Tの間の境界や、LGBTとそれ以外の人たちの差異がむしろ強調されてしまうという問題です。確かに、本来人間のセクシュアリティは多様であり、カテゴリー分けするべきではありません。

 ただ、「LGBT」という言葉が広く使われることで、多様な性のありようが認識されやすくなる、性的マイノリティへの理解がより深まるのではないかと、その言葉のポジティブな側面を重視する人もいます。特に若い世代には、「LGBT」という表現がキャッチーで親しみやすいと感じている人もいるようです。

 例えば、本学では、昨年(2015年)12月に「MEIJI ALLY WEEK」というキャンペーンを行いました。スローガンは、「誰もが自分らしく生きることのできる社会を目指して」。「LGBT」の理解者、アライ(ally、英語で同盟者の意)を増やしたい、誰もが誰かのアライになれるというコンセプトのもと、「LGBT」を考えるイベントや、自分らしさを表現するファッションショーなどを展開しました。

 企画した学生たちには、「性的少数者」という固い表現ではなく、同世代に届きやすい言葉である「LGBT」をあえて使いたいという思いがありました。実際、キャンペーンの反響は良く、5日間で1000人以上の参加がありました。
 「LGBT」に対して、「根本的には同じ人間で、思っていたより違いがないということを感じた。にもかかわらず悩み事が多かったり、不当に差別を受けているのは良くない」という声が、参加した多くの学生から聞かれました。
 学生たちが、そういう感性をもてるようになったことは、セクシュアリティだけでなくさまざまな差異や格差の問題への理解を高めるきっかけになると思います。


◇変化が現われた社会や企業の取組み

 最近は、マスコミによる性的マイノリティの取上げ方も変わってきたと感じます。以前は、女装のタレントは、オピニオンリーダー的数人を除けば、テレビのバラエティ番組などで面白おかしく取上げられるのがほとんどでした。

 しかし、性的マイノリティのタレントや一般の人がどういう風に暮らし、どんな悩みを抱えているのかを正面から取上げる番組も作られるようになってきました。視聴者の関心のあり方は様々でしょうが、性的マイノリティのメディア表象に変化が起きているのは事実です。

 「LGBT」への注目が高まった背景には、2015年4月に東京都渋谷区で施行された、同性カップルにパートナーシップ証明書を発行する条例が、テレビや新聞で大きく取上げられたことの影響もあったと思います。

 同じような取組みは、東京都世田谷区や三重県伊賀市など、他の自治体でも行われるようになってきましたが、こうした自治体は、男女平等や多様性を尊重する社会の推進のための取組みを以前から行ってきています。
 「同性婚」のところだけに関心が集まっていますが、これをきっかけに、多様性を尊重する考え方に理解が進んでほしいと思います。

 最近では、政府や企業もダイバーシティ(多様性)を唱えるようになってきました。経済産業省では、2012年から「ダイバーシティ経営企業100 選」を実施し、2016年度からは、「新・ダイバーシティ経営企業100 選」とし、働き方改革・女性の職域拡大等の分野を設け、より広く経営に効果のある事例を募っています。

 また人事採用や企業内研修、CSR等で、「LGBT」に関する支援や啓発等に取り組む企業も増えています。その根底にあるのは、企業競争力の強化を図ることでしょう。もちろん企業である以上、競争力を高め収益を上げることは重要な目標です。
 しかし、個を尊重し、ダイバーシティを目指すことには、多少コストがかかっても、差異を認め合える企業文化を創っていくという選択もあるはずです。
 自分たちの会社が拠点を構える社会全体を、もう少しリラックスした、緊張のない社会にしていきたい、そんな意図を持って営利活動に従事するのか、これからの企業はその選択が問われていくのではないかと思います。
 それは、私たち自身がどんな社会を目指し、いまをどう創っていくのかにつながることです。

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最終更新:7/28(木) 18:31

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