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『ファインディング・ドリー』上川隆也が語る、吹替の難しさと作品の凄み 「大人も勇気付けられる」

リアルサウンド 7/28(木) 11:35配信

 2003年に公開され、日本をはじめ世界で大ヒットを記録した『ファインディング・ニモ』の続編『ファインディング・ドリー』が、現在全国で公開されている。忘れんぼうのドリーが家族を探すため、ニモやマーリンとともに人間の世界へ冒険に出る模様を描いた本作。日本語吹替版には、前作に引き続き、室井滋がドリー役、木梨憲武がマーリン役を続投するほか、タコのハンク役の上川隆也、ジンベエザメのデスティニー役の中村アン、本人役で八代亜紀らが参加している。リアルサウンド映画部では、アンドリュー・スタントン監督とアンガス・マクレーン共同監督のインタビューに続き、ハンク役の声優を務めた上川隆也にインタビューを実施。普段の演技との違いや、ピクサー作品に対する思いなどについて、話を訊いた。

■「声のみでキャラクターの心情に寄り添っていく」

ーー上川さんは昔からピクサー作品が大好きだったそうですね。今回初登場となるキャラクター、タコのハンク役のオファーを受けたときの心境を教えてください。

上川隆也(以下、上川):もともと子供の頃からアニメーションが好きで、ピクサー作品も全てではないにせよ、よく観ていたんです。ただ、自分がピクサー作品に関われるとは夢にも思っていませんでした。最初はオーディションのお誘いだったのですが、落ちても構わないからとにかくやれるだけやらせていただきたいという気持ちでした。決まった瞬間は冷静を装ってはいたのですが、心の中では「よし!」と、小躍りしておりました(笑)。

ーー前作の『ファインディング・ニモ』は世界中で大ヒットを記録し、今回の『ファインディング・ドリー』もアメリカと日本で記録を塗り替えるヒットになっています。そんな作品で重要な新キャラクターのハンクの吹替を担当することにプレッシャーは感じませんでしたか?

上川:そこはあまり考えていませんでした。むしろ、主人公がニモからドリーに変わって、そのドリーの過去を追っていくというストーリーに何よりそそられていましたし、僕はサポートキャラクターのひとりとして参加すると踏まえていましたので、特にプレッシャーは感じずに参加できました。

ーー本国版では、俳優としても活躍するエド・オニールさんがハンクの吹替を担当されていますよね。役作りは彼の声を参考にされたのでしょうか?

上川:最初はエドさんの台詞のニュアンスを踏まえて演じさせていただいたのですが、なかなかOKをいただけなくて、5分ほどのシーンに4時間もかかったんです。でもそれは、彼の声を模した演技ではなく、上川隆也という役者がキャスティングされたからには、「上川さんが演じてください」ということなんだなと受け止め直したんです。そこからは、少し解き放たれた感じになって、むしろガイドはガイドとして、自分の演技とは切り離す形で受け止めることができましたし、収録も早くなりました。

ーー実際に演じられてみていかがでしたか?

上川:過去に海外ドラマの吹替をさせて頂いたことがあるのですが、今回何が一番違ったかというと、ハンクは喋っていても、あまり口が見えないということでした。動きも人のそれとは大きく違いますし、タイミングをとる手立てはハンクの目の表情とエドさんの声のしゃべり出しの第一音、あとはキューのサインだったんです。それはすごく新鮮な体験でしたし、目だけでお芝居をするハンクに対して、どのように心情的に寄り添っていくかというのは、個人的には今回の大きな挑戦でしたし、ポイントだったと思います。得がたい経験ができて、楽しかったです。

ーー声だけの演技は、普段の演技とはまったく違うものなのですね。

上川:僕が普段やっている演技は、舞台にしても映像作品にしてもそうですが、五体すべてを使っての表現なんです。“声”ももちろん大事な要素ではあるんですけれど、その中のひとつに過ぎない。でも声のお仕事は、ほかの要素がすべて削ぎ落とされて、声のみでキャラクターの心情に寄り添っていかなければいけない。ある意味、制約の多い演技環境とも言える。ですから、僕は声のお仕事をやらせていただく時は、自分が持っている感情のさらに先に、何か目標や視点を定めてやるようにしています。普段の自分の想定より、大仰であったり誇張したりした表現が、うまくハマったりすることもあるので。普段のお芝居とは違うアプローチは、やはり難しい事ばかりですが、だからこそやっていて楽しいというか、自分が思ってもいないようなところでOKをもらえたりすることもあるので、その予測のつかない面白さが楽しみでもあるんです。

■「根幹にあるストーリーが実に巧みに作られている」

ーー『ファインディング・ニモ』もそうですが、この作品が多くの人に愛される理由については、どのように考えていますか?

上川:すべてのピクサー作品に言えることなんですけど、よくこんな話を思いつくなと。おもちゃの人形が動き始めて冒険をしたり、人を脅かすモンスターたちに大学があったり、そういった“着想の妙”。『ファインディング・ニモ』も、魚たちという限定されたキャラクターだからこそ、僕らが思ってもいない物語の自由度が得られるんだと思います。どこか可笑しみや可愛らしさが主軸にあるように思わせておきながら、実は大人が観てもしっかりと物語の中に没入できて、感動できて、何か考えさせられるようなことまでが織り込まれている。根幹にあるストーリーが実に巧みに作られているんです。画作りも当然妥協など一切していなくて、繰り返しの視聴に耐えうるように作り上げられているピクサー作品には、毎回感心させられるばかりです。表面上の間口の広さから入っていくと、実は奥が非常に深い。それが愛され続ける理由だと思います。

ーー今回の『ファインディング・ドリー』は映像もまた進化していますよね。

上川:そのせいもあると思うんですけど、観るたびに違ったところに目がいくんです。例えば、ちょっと引きの画になった時に、画面の上のほうに見えている水面のうねりや、そこから差し込む光、海藻のたゆたう様などが、ものすごく作り込まれているなと思うんです。あるいは、ストーリーが終わっても席を立たずに、エンディングまで是非ご覧いただきたいんですけど、ものすごい量の魚が出てくる。よく考えるとこれ、一匹一匹リアルな魚を取材して、生態を確認して、行動もしっかり再現して、その上でそれぞれキャラクターとしてデザインされている。非常に手間暇をかけて作り込まれていることが透けて見える、その情報量に圧倒させられてしまうんですよ。そんな風にちょっとしたことに気づいていく楽しみが、作品の中にふんだんに散りばめられているんです。『ファインディング・ドリー』と同時上映の短編『ひな鳥の冒険』もとんでもない映像で、感嘆するばかりでした。今後どこまでいくんだろう(笑)。

ーー確かに注目すべきポイントがいくつもある作品ですね。

上川:監督たちも大きなメッセージとして、作中に込められていると思うんですけど、『ファインディング・ドリー』のメインキャラクターたちは、みんなどこかピースが欠けているんです。誰もが何かしらコンプレックスやハンディキャップを持っている。『ファインディング・ドリー』は、そんな彼らが直面する困難に対してどう向かっていくのかを描いている作品でもあるんです。だから子どもたちはもちろん、きっと我々大人も勇気付けられる。僕は映画ってやっぱり、観終わって映画館を後にする時に、映画館に入る時とはほんの少し違う自分にさせてほしいと思うんです。『ファインディング・ドリー』は、そうした何かをちゃんともたらしてくれる作品だと思います。

宮川翔

最終更新:7/28(木) 11:35

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