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『家政婦のミタ』から『はじめまして、愛してます。』へーー遊川ドラマの“方法論”はどう変化した?

リアルサウンド 7/28(木) 18:10配信

 『はじめまして、愛してます。』(テレビ朝日系)第二話では、育児放棄された男の子(横山歩)の里親になるために特別養子縁組を申請した梅田夫婦をとりまく複雑な親子関係が描かれた。二人が特別養子縁組を申請して3カ月が経った。梅田信次(江口洋介)と梅田美奈(尾野真千子)は、里親の資格を得るために研修を受けてきた。その過程で二人は児童相談所職員の堂本真知(余貴美子)から、身辺についての質問を受ける。お互いに対する長所や短所についてや、子育ての際に家族が協力してくれるかについての質問に答えていくうちに、今までお互いが触れることを避けてきた心の傷が少しずつ明らかになっていく。

 信次は父と兄を交通事故で亡くして以降、大学を中退して不動産屋に就職。妹と弟の父親代わりを果たしてきた。しかし、母親はアルコール依存症になり信次とは不仲となっていた。周囲の人々に明るく話しかけ、困っている人がいるとほっとけない信次だが、母親に対してはよそよそしく、病院へのお見舞いにも中々行こうとしない。一方、美奈も、父の及川真美(藤竜也)とは、うまくいっていなかった。世界的な天才指揮者の父と比較されるコンプレックスもあってか、今では疎遠となっていたが、根本的な原因は母の死にあった。死ぬ間際に「このまま、いっしょに海に入っちゃおうか」と囁いたことから入水自殺したと美奈は思っていたのだが、その原因は父が秘書と浮気していたからではないかと思っていた。

 美奈の母親が入水自殺した真相が謎となっている展開は『家政婦のミタ』(日本テレビ系)を思わせる。また、信次の家族の複雑な人間関係は連続テレビ小説『純と愛』(NHK)以降繰り返されているモチーフだ。特に速水もこみちが演じる弟・巧の、定職に就かずに、無責任に女を口説いては夢ばかり追いかけている姿は遊川和彦のドラマではおなじみの姿で、今後ロクでもないトラブルを起こすのだろうなぁという不安が早くも漂っている。

 その一方で新機軸となりそうなのが、虐待されていた男の子の描写だ。男の子は第二話に至るまで言葉を発しておらず、感情を表に見せない。そんな、男の子の心を開く唯一の手段が、美奈のピアノという言葉の外にあるものだ。

 遊川和彦の脚本は論理的だ。台詞もキャラクターも、万人に伝わるように記号化されており、すべてが言語化できる記号的なわかりやすさが遊川作品の人気につながっていた。その集大成が大ヒットした『家政婦のミタ』だったのだが、『純と愛』以降は自身が切り開いてきた方法論を意図的に壊そうとしている。その影響で、『○○妻』、『偽装の夫婦』(ともに日本テレビ系)と後味の悪い作品が続いており、それ自体は迷走にも見えるのだが、そんな試行錯誤の中で、「運命」や「奇跡」と言われるような、言葉にすることが難しい領域に、肉薄しつつあるのが近作の傾向だと言える。

 美奈の父親はロダンの言葉を引用して「実は私達はたくさんの美しいものにそばで生きているんだ。ただ惜しむべきはそれに気づく人が少ない」と言う。この台詞は音楽の仕事に没頭して、美奈のことが見えていない父親の鈍感さを逆説的に伝えた皮肉な台詞に見えた。しかし、動物園で迷子になった男の子を呼び戻すために広場にあったピアノを弾いた美奈が思い出すのは、幼い時に父にピアノを教えてもらった思い出だった。美奈は、男の子がピアノに引かれるのは、何もないアパートにいたから、ピアノの音色という「美しいもの」を求めたのではないかと思う。

 里親の資格を得たことで、来週は、いよいよ梅田家に男の子が同居することになる。音楽を通して奇跡を描くという難題に本作は立ち向かおうとしている。

成馬零一

最終更新:7/28(木) 18:10

リアルサウンド