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エンジニア出身で「波のない街、神戸」に人工波サーフィン施設をゼロから作り上げた男

HARBOR BUSINESS Online 7/28(木) 16:20配信

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックで追加種目に検討され、注目を集めているサーフィン競技。

⇒【画像】神戸REYESの様子

 しかし、問題はサーフィンを可能にする「波」は自然の産物であること。もちろん、そうした自然の産物であるがゆえに、いい波をものにする「選波眼」や駆け引きが競技としてのサーフィンの面白さにもなっている。しかし、問題なのは肝心の波がまったくない時期も日本の、特にオリンピック開催時期になるであろう季節には少なくないことだ。

 そのため、注目されているのが「人工波発生装置」を擁するウェイブプールである。

 現在はドバイの『Wadi Adventure』やイギリスの『サーフスノードニア』などが商業的に運営されているウェイブプールとして有名だが、ここに名乗りを挙げた一人の日本人がいる。

 かつて、「雪のない時期にスノーボードのジャンプ練習ができる施設」という、誰も考えていなかったものを作り、いまや海外にもコピーされるほど知られる存在になった「神戸KINGS」の設立者である押部宣広氏だ。

◆サーフィンもスノボも未経験だった

「サーフィン、やったことないんですよ」

 開口一番、押部氏は笑いながらそう言った。

「でも、スノーボードのジャンプ練習用施設を作ったときもそうでした。もともと僕はスキーやっていましたから。スキーと言っても、サンデースキーヤーですよ」

 押部氏はもともと実家が鉄工所。さらに機械設計事務所に勤務していたエンジニアでもあった、その経験が活かされているという。

「プラント設備やコンベアなどの機械を、依頼を受けて設計から溶接、据え付けまでするような仕事をやっていたので、そのときから自分で何かを考えて作ることは慣れていたってのはあります。でもこういう業界に入ってきて思うのは、スノーボーダーやインストラクターの経験がある人とか、全日本チャンピオンだとかスポーツのキャリアがある人が作ろうとしても、設備や機械のことは無知じゃないですか。どうしてもよくわからない設計会社とかに頼んじゃって、設計費用から建設費用まで嵩んじゃう。僕の場合は、設計から据え付けまで自前ですし、重機も扱えるんでここの土地も全部自分たちで造成しています」

 もちろん、「未経験者」であるがゆえに、批判は少なくなかったという。

「批判、というか誰も相手してくれませんでしたね(笑)。KINGS(スノーボード練習施設)を作った時は。でも人工波施設のときは、むしろ応援してもらっています。スノーボードのとき以上に叩かれると思っていたんですけどね(笑)」

◆スノーボード施設での成功からの全投入

 サーフィン業界から「思っていたのと逆に応援してもらえた」というのは、もちろん「ド素人から始めたスノーボード練習施設」の成功にある。

「何しろ『雪のない季節に人工芝を滑ってジャンプ練習』なんて考えがまったくなかったですから。2002年に思いついて、一年で開業したけど、その後だんだんプロライダーやメダリスト、海外のナショナルチームなんかも練習に来てくれるようになって、いまはフランチャイズ展開は国内5箇所で韓国に一箇所、現在は札幌に建設中です。また、暖簾分けしたところも入れると11箇所まで定着してきました。これで実績があったから、サーフィン業界の人もド素人の僕を受け入れてくれたんじゃないかと思います」

 昨年神戸の本拠地が集中豪雨による崩落に見舞われ、閉鎖を余儀なくされたとはいえ、すでに「KINGS」事業は順調だった。敢えて、未経験で、さらにまだ日本ではバブル期に作られたものの撤退したところばかりのウェイブプールに参入したのはなぜなのだろうか?

「思いついちゃったから仕方ないって感じです(笑)。ピンと来た時には、予算のことなんて考えていなかったですね。いま? 現状で2億5000万円かかっています。仲間が手伝ってくれたけど、基本的にはスタッフ3人でやっています。設計も土地造成も全部自前なんで、2億5000万円は資材費分ですね。スノーボードが好きでうちに入社したスタッフにも全員溶接から重機操縦まで教えこみましたよ。スノーボードのほうだけでやっていれば、フランチャイズもあるんで正直のんびり暮らせていたんですが、すっからかんになりました」

◆ようやく開業。しかし課題も

 そうして辿り着いた7月27日のオープン。しかし、まだ課題は多いという。

「さんざん期待してくれたサーファーの人からしたらがっかりするかもしれないけど、当初は膝前後の初心者のサーフィン体験用ってことでオープンすることにしました。

 原因は明確で、弊社特許の『キャリー式造波装置』のポテンシャルに供給電力が追いつかなかったこと。供給電力を大きく、モーターをサイズアップすれば単純に解決しますが、なにせ社員3人の零細企業。2億5000万円すでに投資しており、資金力が限界になってきたことです。

 もちろん、単純に波のサイズだけ求めれば、頭サイズの波も出せたと思います。でもそれだとダンパー(いっぺんに崩れる波)に近くなり、ある程度の経験者ならばまだしも、初心者はまったく楽しめなくなってしまう。

 自分自身がサーフィン未経験者というのもあって、やっぱり『初めてサーフィンする人でも楽しさがわかる』ことを優先したかった。だから、これだけ注目浴びてる中で、たとえAフレーム(真ん中からきれいに左右に割れる理想的な波)だとしても膝サイズの小波だなんてどれだけ批判浴びるか……と悩んだけど、やはり波質を優先したわけです」

 確かに、現在造波装置から出てくる波は小さい。しかし、押部氏は極めて前向きだ。

「波質を維持したままサイズを大きくするためにやるべきことはわかっています。すでに技術提携などについてのお問い合わせも頂いており、事業としても収益化はそう先のことにはならないはずです。

 いまは『結局膝波かよ』と馬鹿にされるかもしれないけど、スノーボードのときのように結果を出せば自ずと評価もついてくると思っています」

 オリンピックの追加種目候補として注目を集める中、ウェイブプールにも注目が集まっている。しかし、先行者である海外のシステムを導入すると、それこそ桁が違う話になる。国産の人工波造波装置によるウェイブプールは、コスト面からも大きな注目を集めている。

 初年度は「ビギナー波です。サーフィン経験者の方には期待に添えず本当に申し訳ない!!!!!!!!!!」(押部氏ブログより)というスタートだが、スノーボード練習施設のとき同様、誰も手をつけていなかった分野に果敢に挑んでいる押部氏のチャレンジに今後も注目したい。

●神戸REYES(http://www.kobe-reyes.com/)

料金:2時間3200円~

ウエットとボードのセットは2000円でレンタル可能。

○ウェットスーツ着用義務(長袖・長裾)

○マリンシューズ等着用義務

○利用年齢制限:10歳以上

〒651-1252 神戸市北区山田町原野1-1 みのたにグリーンスポーツホテル敷地内

みのたにグリーンスポーツホテルのゲートを通過し100mのところを右折

<取材・文/HBO取材班>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/28(木) 16:30

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