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andropはこうして“素顔”を見せるようになったーー初のベスト盤を機に、7年の軌跡を振り返る

リアルサウンド 7/29(金) 13:00配信

 andropが7月27日にベストアルバム『best[and/drop]』をリリースした。同作はバンド名の語源にもなっている「and」「drop」にちなんで、disc1=「and」盤、disc2=「drop」盤と名付けられた2枚組。収録曲は、インディーズ期から最新オリジナルアルバム『androp』までの全作品からセレクトされており、さらに、未発表曲「Hana」「Sayonara」、デジタルシングル曲「Kokoro」「Astra Nova」も聴くことができる充実の内容だ。

 andropは、デビュー当時から同時代の他のどのバンドとも類似しない存在であり、独自のやり方で進化を遂げてきた。顔を見せず、内澤崇仁(Vo・G)以外はメンバー名さえ出さずに匿名的な存在として活動を始めたandropは、いかにして人々の心に音楽を届け、共感を呼び、多くの支持を集めるようになったのか。

 ここでは、その理由をひもとくため、収録曲の中からバンドのターニングポイントとなった曲「MirrorDance」「Bright Siren」「Voice」「Missing」「Yeah! Yeah! Yeah!」、さらに未発表曲「Hana」と共に、andropのデビューから今に至るまでの7年間の軌跡を振り返ってみたいと思う。そこからは、音楽とリスナーに対する誠実さゆえ、変化し続けてきた4人の姿を垣間見ることができた。

・「MirrorDance」(2011年)

 andropの登場は鮮烈だった。当時、バンドの構成や経歴などのプロフィールはほとんど明かされておらず、“謎多き新人”としてシーンに現れた。それでも、ライブ映像をYouTubeやMyspaceに投稿し、純粋に楽曲の力とクリエイティビティのみでその名を広げ、ついにメジャーデビューに至った。

 「MirrorDance」は2011年2月にリリースされたメジャーデビューアルバム『door』のオープニングナンバー。緻密に構築されたサウンドデザインや壮大なスケール感を持って鳴り響くバンドアンサンブルのクオリティの高さに驚かされる。と同時に、その洗練された音像の随所から、この曲の孤独な主人公が、他者や世界とつながりたいと強く願っていることが伝わってくる。<愛を見続ける為の嘘で 君と歌いたいおいでどうぞ>――デビュー作のオープニングナンバーという、まさにandropのスタート地点が刻まれた「MirrorDance」で、内澤は音楽を信じる理由を、歌を生み出し続ける理由を、ステージに立つ理由を、<君>に向かってしっかりと描いており、これが今に続くandropの音楽に通ずる、不変のテーマである。

・「Bright Siren」(2011年)

 andropはその音楽世界を、楽曲だけではなくコンセプチュアルなアートワークでも伝えてきた。様々な仕掛けが施されたジャケットワークやミュージックビデオ、先鋭的な映像・ライティングを取り入れたライブパフォーマンスは、その匿名性と相まって、デビュー時から大きな注目を集めていた。

 「Bright Siren」はandropの映像世界を決定付けた作品だ。クリエイティブ・ラボ『PARTY』の川村真司氏がミュージックビデオの監督を務め、CGは一切使用せず、250台のカメラを置いてストロボの光をプログラミングによって制御し、光のアニメーションを演出。カンヌを始めとする国内外の数々のアワードを受賞し、川村氏は「Bright Siren」以降もandropのミュージックビデオの大半を手掛けることになる。

 andropの楽曲からは、“光と闇”というイメージが喚起される。未来、夢、希望を象徴する“光”と、孤独、傷跡、喪失を象徴する“闇”は、いつも一体となって楽曲に深く根付いている。そしてそのふたつはそのままandropというバンドのシンボルとなり、初期の映像作品にも色濃く表れていた。

・「Voice」(2013年)

 前述のように、andropはデビュー当時からそのアートフォームが定まっており、非常にコンセプチュアルなバンドであった。しかし、そこに変化の兆しが表れたのが、2013年8月にリリースした「Voice」である。

 同曲は、2013年に開催された初のホールツアー『one-man live tour “one and zero“』後に制作された。心拍数を上昇させていくようなリズムアレンジや、生き生きと跳ねるビート、幾度となく繰り返されるスタジアム級のコーラスワークには、そのライブの空気感が隅々まで入り込んでいる。今でも多くのツアーやフェスで演奏され、コーラス部分では何千人、何万人の声がひとつになって響き渡る。<どこにも代わりのいない君の 生まれた声で歌ってよ>という直接的な呼びかけは、よりフィジカルにリスナーと共鳴したいという切なる想いの結晶である。この「Voice」をきっかけに、andropは生身のコミュニケーションを強く望むことで、自分たちの表現をどんどんアップデートさせていった。

・「Missing」(2013年)

 「Voice」に続くシングル曲として、3ヶ月後にリリースされた「Missing」は、サビ部分のファルセットが美しいバラード曲だ。開放的なマインドのもと新しい扉を開けた「Voice」から一転、「Missing」は音数が少ないシンプルなサウンドで、内澤が近しい大切な人を亡くした時の想いを書き記した、とても親密な雰囲気をまとった曲になっている。

 andropの楽曲で、これほど具体的な喪失を歌った曲は珍しい。それは、彼ら自身が、ポップミュージックの理想的なあり方として“普遍であること”を求め、メンバー個人のエゴを表に出さないことで、その普遍性を濁らせるものを徹底的に排除してきたからだ。そんなandropにとって、「Missing」は初めてパーソナルな経験と心情と向き合い、その胸の内を包み隠さず歌った曲である。匿名性や神秘性というベールを一枚ずつ脱ぎ、自分たちの素顔を見せることを恐れずにダイレクトに聞き手とつながろうとするタフさは、この頃から強固なものとなっていった。

・「Yeah! Yeah! Yeah!」(2015年)

 最新アルバム『androp』のリード曲であり、発売に先駆けて配信でリリースされた「Yeah! Yeah! Yeah!」は、『三ツ矢サイダー』のCMソング。andropがCMソングを担当するのは初めてのことで、CMのストーリーボードに沿って、監督とディスカッションを重ねながら制作された曲だという。

 夏を意識した爽やかな楽曲で、ミュージックビデオはCMと連動しながらも凝った演出はなく、真夏の空の下オーディエンスと共にライブを行うというとてもシンプルなもの。4人は音楽を鳴らすことを、そしてその空間にいる人々と音楽を分かち合うことを心から楽しむ、等身大な姿で映っている。<何度だって迷って大丈夫 それが自分だけの地図になる>と歌うストレートなメッセージソングに、明るく弾けたアレンジを大胆に取り入れたのは、より多くの人に曲を届けたいという一心だろう。バンドとリスナーをまだ見ぬ新しい場所へと導いていくようなポジティブなエネルギーに満ち溢れたこの曲が、andropが立つ現在地を明確に指し示している。

・「Hana」(未発表曲)

 「and」盤のラストナンバーとして収録されているのは、未発表曲「Hana」だ。androp結成前に内澤がデモを制作、バンド初期の頃にレコーディングされた曲で、ライブでも大切に歌い継がれてきた。先行配信されていたミュージックビデオ(こちらも川村真司氏が監督を務める)は、生花に映像を投影して、花が枯れるまでの期間限定で24時間生中継で公開するという実験的なものであった。時の移ろいによって変わってゆくものと変わらないもの、限りある時間で輝く命とその終わり。そしてそれでも止まることなく流れていく日常。ギターのストロークと共に伸びやかなメロディが広がるこの穏やかなミドルバラードには、andropの原点が刻まれている。

 7年前、andropは匿名的な存在として“何者でもない”ところから、その歴史をスタートさせた。そこには、フロントマンである内澤自身の、音楽は聴いてくれる人に向かって最大限に開かれてなければならない、という強い意志があったのだろう。だからこそ、楽曲に先入観を与えかねない情報は、すべて伏せたままであった。その楽曲至上主義的なピュアなスタンスは、2016年今現在も変わらない。しかし、楽曲を制作し、ライブを重ね、多くのリスナーと出会い、数々の経験を積んだことで、近年andropは“自分たちが何者であるのか”、その正体を音楽の中で少しずつ明かすようになった。“音楽で人とつながることができる”という実感そのものが、彼らを変えてきたのだろう。そうして2015年8月にリリースした最新オリジナルアルバム『androp』では、生身で自然体の自分たちを露わにして、今まで以上に巨大な優しさと包容力でもって、聴き手に手を差し伸べている。

 このベストアルバムのリリース後、夏フェスを挟み10月からは全国5都市を巡るワンマンツアー『one-man live tour 2016 “best blueprint“』を開催する。そこではきっと、この7年間で大きな変化と実りを得て新たなる季節へと向かい始めるandropと、出会うことができるはずだ。

若田悠希

最終更新:7/29(金) 13:00

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