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恐るべき孫正義、英ARM買収で「世界制覇」へ前進

JBpress 7/29(金) 6:10配信

 7月18日、海の日の月曜日、私は、ソファに転がって夜7時のHNKニュースをぼんやり眺めていた。すると、「ソフトバンクが英ARMを3.3兆円で買収」が報じられた。私は全身に電流が走ったように起き上がり、思わずソファに正座してニュースに見入ってしまった。

インテルとARMのプロセッサ売上個数の推移(グラフ)

 第一声は「何だってー!?」、第二声は「まさか!」であった。あまりのことに驚き、そんなことがありえるのかとにわかには信じられなかったのだ。

 しばし呆然としたが、数十分もすると我を取り戻し、孫正義社長の壮大な野望がじわじわと理解できるようになった。そして、「10年前から買収を考えていた」という孫社長が恐ろしいとすら感じた。

■ 市場も世間も理解できていない

 ところが、翌朝に日経新聞やネットの記事などを見て、市場も世間もこの買収をあまり評価していないことが分かった。特に、43%以上のプレミアを乗せて3.3兆円もの大枚をはたいたことに批判が集中している。

 まず、ソフトバンクの株価は、1日で11%下落した。これが、市場がこの買収を良く見ていない何よりの証拠だ。

 この株価下落について、SMBC日興証券シニアアナリストの菊池悟氏は、「ソフトバンクグループの既存事業とアーム・ホールディングスとの具体的な相乗効果が見えてこない。アーム株の買い付け価格は買収発表前の同社株価より4割も高く、ソフトバンクの株価が19日に下落したのは当然と言える」とコメントしている(日経新聞7月19日)。

 また、あちこちで指摘されているのは、「ARMは2015年の売上高は1791億円、税引き後の利益は578億円と優良企業だが、この利益で3.3兆円を回収するには50年以上かかる」という批判である。つまり、孫社長の独断の無謀な買収であるとう批判が多かった。

 国際技術ジャーナリストを名乗る津田健二氏に至っては、Yahoo! ニュースで「なぜソフトバンクはARMを買うのか。はっきり言って、ソフトバンクにとって成長していけるのか疑問が多い。」と疑問を呈し、「AIに力を入れる以上、独自の半導体プロセッサを欲しくなるのは当然である。しかし、ARMは半導体メーカーではない。ソフトバンクはARMの実情を本当に知っていたのだろうか」「ARMを買収して、半導体を作ってもらおうとするのか。残念ながら、AI用の半導体を作りたいのならARMは適切ではない」とまで酷評している。

 しかし、私はこれらのコメントや批判にまったく賛同できない。市場も世間もこの買収の意味をまるで理解できていないと考える。津田氏の酷評についてはまったく的外れであり、津田氏こそARMの実情を分かっていないのではないかと思う。

 本稿では、簡単にARMとはどんな会社かを説明した後、この買収に込めた孫社長の野望を論じたい。結論を先取りすれば、それは「世界制覇」ということである。私は、3.3兆円は実にお安い買い物であると思っている。

■ ARMとはどんな会社か

 スマホ等に使われるプロセッサなどの半導体は、「設計→プロセス開発→製造」の順でつくられる。設計は、「基本設計→論理設計→回路設計→レイアウト設計」とさらに細かく分かれている。

 ARMは、このもっとも上流の基本設計のアーキテクチャ(設計思想)を「IP(Intellectual Property)」として提供する企業である。

 例えば、アップル、サムスン電子、クアルコム、メデイアテックなどのスマホメーカーやファブレスは、ARMからIPをライセンス供与してもらい、このIPを基にスマホ用プロセッサを設計している。そしてこれらのプロセッサは、TSMCなどのファンドリー(生産工場)が製造する。

 スマホは現在、年間で約15億台出荷されているが、そのうち、約90%がARMのIPを使っている。これに伴って、ARMには、次のような収入が入ってくる。

 まず、アップルやクアルコムなどからライセンスフィーが収入として入ってくる。次に、ARMのIPを使用したプロセッサが搭載されたスマホが売れるごとに、スマホメーカーから「1個いくら」というようにIP使用料が入ってくる。

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最終更新:7/29(金) 8:30

JBpress

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