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護憲派も改憲派も、まずは「知憲」から始めよう!谷口真由美『憲法ってどこにあるの?』

GQ JAPAN 8/1(月) 18:02配信

大阪大学でベストティーチャー賞を4度も受賞した谷口真由美さん。身近で、わかりやすい「日本国憲法」の講義で人気を博した。そんな谷口さんに憲法に対するスタンスを訊いた。

【知っているようで知らない「憲法」、画像はこちらから】

先の参議院議員選挙のときには、インターネット上で「護憲派」vs「改憲派」のバトルが白熱していた。けれどもこの議論、サッカーチームとラグビーチームが試合をしているようで、いまいち噛み合わない印象がある。なぜだろう?

大阪国際大学准教授の谷口真由美さんの新著『憲法ってどこにあるの?』(集英社)を読んで、モヤモヤが晴れた。

「護憲派」vs「改憲派」のバトルは多くの場合、日本国憲法について論じているのではなく、日本国憲法を好きか嫌いかという感情をぶつけあっているのに過ぎないのだ。

モヤモヤが晴れたのと同時に、赤面した。憲法について知らないことがたくさんあることに気付かされたからだ。

谷口さんは本書のなかで、以下の3つの質問に正確に答えられないのに改憲・護憲の議論をするのはいかがなものかと書いている。

憲法は何条までありますか?
アイドルグループなんかで推しメンっていいますが、推し条文ってどれですか?
憲法を尊重して守る義務があるのは誰ですか?
答を知りたい方はぜひこの本を手にとっていただくとして、このタイミングで「改憲・護憲の前にまず『知憲』というのが、私の立ち位置です」と主張する谷口さんに話を訊くのは大きな意味があると考えた。

──「護憲派」と「改憲派」のバトルが噛み合わない理由がわかりました。議論ではなく感情論なんですね。

キャンキャン怒ってる人には近づきたくないのが人の常じゃないですか。ちゃんとしたことを言ってらっしゃる人もたくさんいてはるんだから、議論の中身をもうちょっと詰めない?とは思いますね。

──憲法に対する理解が低いというのは、どんな場面で感じますか?

あちこちに講演に行きますが、日曜日の昼下がりに「憲法」ってタイトルが付いた講演会に来る方って、かなりマニアックじゃないですか。それなのに「日本国憲法は何条まであるかご存じですか?」と尋ねると、「9条!」とかね。

聖徳太子の時代でも17条ありましてんで、世の中それより複雑になってますよ、なんで減んねん、と(笑)。

──憲法を語る時に、第9条だけに注目が集まることにも疑問を呈していますね。

異性とお付き合いするときに、たとえば「年収」というスペックひとつだけでは決められませんよね。9条って憲法のひとつのスペックなんです。だからここだけ取り出して議論しても、なんにもならない。

あと、9条を理解しようとしたら前文を読まないとダメだと思うんです。9条だけを読んで平和主義だと判断するのは間違いだと思うし、9条を変えるとなると前文が変わるはずなんですけど、あの前文がいいか悪いかという議論は誰もしないんですよ。

──みんなが機嫌よく暮らせるようになるなら「改憲もしたほうがいい」と書いています。

日本ではあまり報道されませんでしたが、2014年のソチ五輪の開会式をオバマ大統領をはじめとする各国の首脳が欠席したんです。あれはロシアが同性愛宣伝禁止法を制定したから。

日本はどうかというと、日本国憲法24条に『婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を……』とあります。両性といった時、男性と男性、女性と女性という解釈はダメかな、夫婦は夫夫、婦婦と読み込めるかもしれない、と提示することが学者の仕事だと思うんです。

でも最高裁で裁判してダメやってことになったら、じゃあ憲法改正せなあかんのじゃないか、と。LGBTにしても夫婦別姓にしても、みなさんの権利が広がって、特に少数でしんどい思いをしている人が楽になるような憲法改正なら、改憲したほうがいいと思ってるんです。

──女性週刊誌「女性自身」での、自民党の改憲草案へのツッコミが話題です。

改憲草案の前文に、「家族や社会全体が互いに助け合って」とあるんですが、家族がいない人は助けてもらえへんってこと?って思いますよね。

会ったこともない親戚のおじさんが生活保護を受けることになったとして、3親等まで遡って「あんた収入あるから面倒みなさい」とお役所から連絡が来るんですよ。でも、そんなおうたこともないおじさんより、いつも世話になってる隣のおっちゃんにお金を出したい、そっちのほうがよっぽど世話になってんで、って。

こう言っても、いまなら裁判になっても憲法違反でもなんでもない。けど、憲法で「家族が大事」ってなると、家族の範囲を規定する新しい法律がどんどんできるだろうってことは容易に想像できますよね。

──『GQ JAPAN』の読者に知っておいてほしいことは?

すごく努力をした人ほど、「負け組のやつらは努力せえへんかったからや」とキツいことを言う傾向があるんです。自分が努力したっていう自負があるから。でも努力する術を知っていたり、努力に対して何かで報われる成功体験もあったはずで、そこに引っかかれなかった人の存在にも思いを致してほしいですね。

社会の問題を自分の問題だと思えないなら、大草原の小さな家とか高野山の岩の間で仙人みたいになって暮らすのか、って(笑)。

現状に問題があるとすれば、われわれにも責任があるはず。いまの政治は最低だねって言ってもいいのは、選挙権のない子どもだけだと思います。

──最後に、ここ最近で一番感銘を受けた本や映画があれば教えてください。

ユナイテッドピープルという配給会社が上映した「ザ・トゥルー・コスト」というドキュメンタリー映画には考えさせられました。人件費や輸送費とかがかかっているのに、この服が1000円で買えるファストファッションってどうなんだろう、と。苦しんでいる人を減らす買い物の仕方もあんねんな、と思いました。

「人の知恵」としての憲法

谷口さんの著書や発言が面白いのは、右とか左とかいったレベルを飛び越えて、社会を俯瞰しているからだ。自分にとって理想の社会とはどんな社会か。それを実現するためには憲法はどうあるべきか。そしてそのためには憲法をよく知らなければならない。主張の論旨が明確だ。

谷口さんの筆や口を通して語られる憲法は、堅苦しくて冷たいルールではない。世の中を暮らしやすくするための、人の知恵なのだ。

サトータケシ

最終更新:8/1(月) 18:02

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