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『とと姉ちゃん』雑誌作りエピソードに見る、NHKの強さ 花山の頑なな姿勢が意味するもの

リアルサウンド 8/1(月) 6:10配信

 花山伊佐次(唐沢寿明)を編集長に迎えて、雑誌「あなたの暮し」が本格的にスタートした『とと姉ちゃん』第16~17週。

 昭和21年12月。雑誌社の社長となった小橋常子(高畑充希)は花村の指示のもと、銀座に事務所を構え、闇市で知り合った水田正平(伊藤淳史)を経理に迎える。食べるものにも着るものにも困っている庶民のための雑誌を作ろうとする常子たちは生活に根ざした雑誌「あなたの暮し」創刊号を出版。創刊号のメイン記事となった直線裁ちによるワンピース作りの記事が注目されて三万部を超える売り上げを達成する。

 しかしその後、売上が伸び悩み「あなたの暮し」の存続は厳しくなる。そこで常子は広告を入れることを提案する。しかし花山は、広告主の意向で記事に規制が入ってしまうことを危惧して反対する。そんな花山に黙って料理学校の広告を入れたことで花山は常子に失望して編集長を辞めてしまう。

 今回は雑誌作りの楽しさと厳しさが描かれている。何もないところからアイデアを出して、記事が形になっていく過程のワクワクする感じは、本作の本領発揮という感じで、新しいことが生まれる場面に立ち会う喜びがある。個人的には常子の親友の村野綾(阿部純子)を交えて小橋三姉妹がワンピースを着てモデルとなる場面が華やかで見ていて楽しかった。この辺りから、常子たちの髪型や服装もモダンなものへと変わっていく。また、記事に応じてイラストと写真を使い分けることで、雑誌にいろどりを与えていく花山のレイアウト作りの片鱗が見られるのは、ライターとして雑誌やWEBサイトに関わっている立場としてもワクワクするものがある。そして、ワンピ―スを作る場面と、再会した東堂チヨ(片桐はいり)の物置小屋を改装した家にミカン箱で家具を作る場面は、お金がなくても小さな工夫でささやかな喜びが生活の中に生まれるという本作の思想を体現している。

 一方で興味深いのは、庶民に寄り添った雑誌を作ろうとする花山の前に立ちはだかる二つの壁だ。第16週では、洋裁学校から直線裁ちの記事を載せられたら営業妨害だとクレームを入れられて、直線裁ちの講座を開いたら妨害されてしまう。その描き方自体は、類型的で、このドラマのダメな部分(主要人物以外の脇役が記号的に描かれてしまう)がまた出てきたなぁと見ていて萎える。しかし、役に立つ情報を庶民に提供すること自体が、既得権益を持つ特権階級の人間にとっては目の上のたんこぶとなってしまうのだという視点は、例えばインターネットの登場以降、YouTube等のフリーコンテンツの台頭が、出版やテレビ局といった旧メディアの影響力を脅かしている現在と重なって見える。

 そして第17週では、逆に広告を入れることを頑なに拒む花山に対して、雑誌存続を第一と考える常子が敵となってしまう。花山がスポンサーを拒むのは内務省で戦意高揚のスローガンを作る仕事に携わっていた時の苦い記憶があるからだろう。国の仕事でなくとも、企業やスポンサーといった巨大な組織が、個人の自由をじわじわと奪っていくことに対して自覚的なのだ。
 
 それにしても広告を頑なに拒む花山の姿は、国民の受信料で成り立っているNHKだからこそ放送できたものだろう。スポンサーのCMで成り立っている民放では、花山の方針自体がクレームの対象になりかねない。スポンサーに配慮しなくていいNHKの強さが如実に現れたエピソードだ。

成馬零一

最終更新:8/1(月) 6:10

リアルサウンド