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メタルフェスはなぜ欧州で大人気なのか? 出演果たしたドラマーが現地レポート

リアルサウンド 8/2(火) 16:02配信

 先日FUJI ROCK FESTIVAL '16が開催された。日本にはFUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN FESTIVALをはじめ、数々の音楽フェスが存在する。

 どのフェスも基本的にノンジャンルではあるが、そういったフェスの中でハードロック/ヘヴィーメタルのバンド(以下HR/HM)が出演する数は、全出演バンド母数から考えると極めて少ない。そもそも日本ではHR/HMは市場規模が狭く、活動規模の大小問わず、メジャーレーベルと契約できているバンドは数えるほどだ。

 ならHR/HMファンは主にどこでフェスを楽しむかというと、HR/HMに特化したLOUD PARKやKNOTFEST、OZZFEST JAPANなどになる。3つもあるじゃないかと思われそうだが、KNOTFESTは2014年と2016年、OZZFEST JAPANは2013年と2015年の2回開催されたのみで(※KNOTFEST'16は11月5日と6日に開催予定)、安定して毎年開催されているHR/HM系フェスはLOUD PARKしかない。

 一方海外はどうかというと、ヨーロッパを中心に、日本よりもはるかに規模が大きいHR/HMに特化したフェスがいくつも存在する。例えば、ドイツのWacken Open Air、フランスのHellfest Open Air、イギリスのDownload Festivalがそうだ。他にもBloodstock Open Air、NOVA ROCK、Brutal Assault、Graspop Metal Meeting、Sweden Rock Festivalなど、とにかく巨大なフェスが多い。

 ヨーロッパで巨大なHR/HM系フェスが多いのは市場の背景のちがいだろう。今年5月のアメリカのホワイトハウスでバラク・オバマ大統領が、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの首脳陣とサミットを行った際、フィンランドのメタルについて賞賛し、実はオバマ大統領もメタルファンだと公言したことがあったが、フィンランドや、ノルウェー、スウェーデンなどはメタルを“輸出品”として政府が活動をバックアップしていたりするのだ。これら北欧の国々では音楽活動に対して、国が資金援助や練習場所、場合によっては楽器まで提供するというのだから驚きだ。

 そういったことからHR/HMというジャンルと一般市場との結びつきは、日本と比べものにならない。ブラックメタルバンドのDIMMU BORGIRはノルウェー国王の前で演奏したことがあるくらい人気だし、同じくポーランドのブラックメタルバンドであるBEHEMOTHのリーダーであるネルガルはTVの人気オーディション番組に審査員として出演してしまうなど、ヨーロッパ全体で見ると、日本的に表現すればお茶の間への浸透度が異なるのだ。日本ではニッチなジャンルであっても、ヨーロッパ、特に北欧では少なくともニッチなジャンルではない。

 それだけHR/HMが主流となっているヨーロッパで開催されるフェスに、日本のメタルファンが憧れを持つのは当然なのだが、実際のところ我々日本人では距離や渡航費の問題で行くのが難しかったりする。しかし、実際に参加してみると「フェスの巨大さ」ということ以外にも、海外ならではのユニークさというものを感じることができるだろう。

 筆者はこれまでに、日本のプロモーターであるEvoken de Valhall Productionの協力と、ブラックメタルバンドの Ethereal SinのリーダーであるYama Darkblaze氏(以下Yama氏。彼はEvoken de Valhall Productionの代表でもある)の広い交流関係で、互いに協力関係のイベンターとの縁もあり、同バンドで幸運にも昨年Wacken Open Air、今年になってノルウェーのTons of Rockに出演する機会を得た。その経験から感じることができたのは、以下のことだ。

 一つ目はアーティストの距離だ。日本人の感覚でいうと、アーティストにはなかなか近づけるものではないと思わないだろうか。しかし、海外のフェスに参加してみると、日本でも有名なバンドメンバーがすぐ近くで食事をしているなんてことがよくある。目が会えば気軽に“Hello”と挨拶されたり、その気になれば会話することもできたりする。とてもアーティストの距離が近いのだ。もちろん全てのアーティストがそうではないし、ビッグネーム中のビッグネームアーティストはセキュリティの問題上、やたらめったらバックステージから外に出たりはしないのだが、日本よりアーティストの姿勢ははるかに近いと感じるだろう。

 一方、逆に海外のフェスに参加したことで、日本のアーティストにはやはり距離があると感じてしまったこともある。それはとあるフェスで、日本の超人気ヴィジュアル系バンドと一緒の出演日、かつ出演時間も非常に近くになったときのことだ。普通に考えれば楽屋やバックステージで挨拶くらいはできる可能性が高いのだが、その日、彼らが出演する前後は楽屋近辺を含むバックステージが、完全にバンド関係者以外立ち入り禁止となってしまった。彼らはヴィジュアル系として売っているので、世界観を大事にし、オフステージの顔を一切見せないプロ意識からそうなったのであろう。だからそれが良いとか悪いとかではないのだが、日本のアーティストの距離というものを改めて感じたものだ。

 二つ目はファンの楽しみ方だ。海外ファンのライヴの観方は、バンドに興味があろうがなかろうが、とにかく全身で音楽を楽しむという、ややお祭り騒ぎに近い姿勢を感じる。モッシュなども周囲に気づかいすることなくブンブンと首や腕を振り回し全力で暴れ、酒を撒いたりする。もちろん日本のファンでも負けず劣らず大暴れする人がいるが、やはりそれでも日本人にはどこか、周囲に迷惑をかけてはいけない、という心づかいを感じたりするものだ。体の大きさのちがいなどもあり、海外でのモッシュの危険度は日本のはるか上だ。

 少し話は変わるのだが、海外のフェスに出演したりすると必ず訊かれることがある。それはギャラなどの金銭面だ。これに関しては、プロモーターとしてYama氏が以下のように語ってくれた。

「フェスに出演している全てのアーティストがギャラを得ているわけじゃない。アーティストはだいたい3つの区分に別れる。ギャラの出るヘッドライナークラス、ノーギャラだけど、ケアはあるサポートアクトクラス、地元バンドや逆に出演料を払ってステージに立つプロモーションアクトだ。こうしてプロモーションアクトから得た金をヘッドライナーのギャラに回す事が多いんだ」

 よく誤解されるのが、出演アーティストは全てギャラをもらっているのではないか、ということだ。これは大きな誤りで、Yama氏の言葉通り、ギャラがもらえるのはヘッドライナークラスのアーティストだけということになる。また、同氏は以下のように続けた。

「海外のフェスは規模が大きいとはいえ、その分会場費や運営費、人件費等が莫大になり、ファンからの入場料で全ての収益を賄うことはとてもできない。結局のところ運営の要は日本と同じでスポンサーを付け、できるだけスタッフはボランティアの力を借り、地元の活性化という名目で会場費を安く抑えるなど経費は極力抑えていくことなんだ」

 フェスによって多少の違いはあるだろうが、こういった事情もあり、全てのアーティストがギャラをもらっているということはなさそうだ。

 また、次によく訊かれるのがどうやって海外のフェスに出るのかということだ。そんな方法があるのであれば、ぜひとも知りたいというバンドはたくさんいるだろう。もちろん筆者だって知りたい。ただ経験上言えることは、日本のバンドが海外に出る最大の障壁は、恐らく言葉だ。言葉の壁があるせいで、積極的に動けないアーティストが実に多い。だが実際は言葉の壁は大きいようで、意外となんとかなったりする。

 というのもヨーロッパのフェスに出ているビッグネームのバンドも母国が英語でなければ、つたない英語でなんとかMCをしていたりする。実際に海外のレーベルとメルのやり取りをしてみると、学校で習ったような理路整然とした文法ではなくて、日本人の英語力と比べてみても適当だったりする。当然、全てが当てはまるとは言えないが、大切なことは、まずはレーベルやプロダクション、好きなバンドでも構わない、それぞれつながりを持ちたい対象に直接連絡をしてみることだ。誰でも思いつくようなことであるが、これが最も大切なことではないだろうか。

 このことについてYama氏は出演方法について明確な表現は避けたが、以下のようなヒントをくれた。

「自分から待っていてもこの世界で棚ぼたは絶対にありえないと考えたほうがいい。損して得取れという感じで、ギブアンドテイクを意識しながらまずは自分から積極的に力を持っている人に近づいて自分達のPRをとにかく頑張ることだ」

 ドキュメンタリー映画『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』『グローバル・メタル』で世界中のメタルにスポットが当てられて様々な考察がされたが、個人的にはメタルというのはニッチなジャンルであるがゆえに、流行に左右されないものだと考えている。もちろん時代の流れによる変化というものは存在するだろうが、メタルの根幹というものは変わっていない。日本の演歌のように、ある種の伝統芸な一面があり、その不変さを持つがゆえ、ニッチとは言え世界中に広まり、愛されているジャンルなのだと思う。

 いまは海外のフェスに参加するツアーがあったり、チケットがネットで簡単に購入可能だったりするので、ファンとしてならばその気さえあれば、現地まで行くハードルはかなり下がっている。実際に参加してみないと分からない空気感というのがどうしても存在してしまうので、まずは行ってみることをおすすめする。必ず自分なりに日本とは異なる点が見えてくるだろう。それが、ミュージシャンであれば新しいキャリアの道に、リスナーであればHR/HMというジャンルの新たな側面の発見に、つながるかもしれない。

Leone Wakiya

最終更新:8/2(火) 16:02

リアルサウンド

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