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「日本映画をハリウッド風に作ってはいけない」 美術監督・種田陽平が語る、表現のオリジナリティ

リアルサウンド 8/2(火) 16:42配信

 中国で400億円以上の興行成績を記録した映画『モンスター・ハント』が8月6日から全国公開される。本作は、妖怪と人間が共存する世界を舞台に、ひょんなことから妖怪の王子“フーバ”をお腹に宿してしまった青年・テンインと、彼を守るモンスター・ハンターのショウランの旅を描いたアクションファンタジー。監督は、人気アニメーション『シュレック』シリーズを制作したラマン・ホイが務め、美術はクエンティン・タランティーノや三谷幸喜らの作品に参加する美術監督の種田陽平が担当している。リアルサウンド映画部では美術監督の種田陽平にインタビューを行い、本作の美術を構築するまでの過程や近年の中国映画にまつわる話を語ってもらった。(4月中旬に収録)

■「中国にはファンタジー映画を作る土壌がある」

ーー本作に携わることになったきっかけを教えてください。

種田陽平:キアヌ・リーブス監督作の『ファイティング・タイガー』の仕事で北京に滞在していた時期に、『モンスター・ハント』のプロデューサーのビル・コンさんからラマン・ヒュイ監督を紹介されたことがきっかけです。たしか、2012年の春頃だったかな。キアヌの映画の準備でとても忙しい時期で、正直に言うと最初はあまり乗り気にはなれませんでした(笑)。その後も北京で何度もプロデューサーやラマン監督と話をする機会があって、その時にアイデアも出しながら話していたのですが、気が付いた時には完全に参加する方向で話が進んでいましたね(笑)。

ーーラマン監督からは、美術に関してどんなことを求められましたか?

種田:ラマン監督からは、中国オリジナルの妖怪が登場する、これまでにはない新しいファンタジー映画を作りたい、と聞いていました。中国では、西遊記など古典的な物語をモチーフにした作品が数多く製作されているので、彼らからしてみると美術の世界観やデザイン性が一緒に見えてしまう。彼らが僕のような外国人を美術監督に起用した意図がそこにはあると思います。もちろん美術には新鮮味のあるルックが求められましたね。中国的でありながらも、新しい建築様式やリアリティで世界観を作ることが最も重要なテーマでした。

ーー近年、中国の映画業界が大きな盛り上がりを見せていますが、本作を製作するにあたり変化を感じることはありましたか?

種田:この10年ぐらいで規模が大きくなったと感じます。製作面の話だけではなく、映画館の数が飛躍的に増えました。日本を追い越すかもしれないと言われていましたが、あっと言う間に日本を追い越し、今ではアメリカの劇場数に迫る勢いです。つまり、世界一スクリーン数の多い国になるところまできているんですね。スクリーン数は観客の動員数にも直結する。観客が多いからこそ『モンスター・ハント』も初日で約40億円、最終的には約400億円以上の大ヒットを記録できたということでしょう。製作費に関しては、もちろん作品の規模にもよりますがハリウッド作品と同じように大きな予算をかける作品はまだ少ないかもしれないけれど、日本映画より、ハリウッド映画に近い予算をかける作品も生まれています。ただ、ハリウッドでは100年以上の時間をかけて、興行収入を予測できるフォーマットを作ってきましたから、回収を予測して予算をある程度厳格に守る、ということが言えるかもしれません。中国映画の観客増大はここ数年のことなので、まだバブルの状態で安定していないということもわかる。ただ、チャレンジ精神は旺盛だと思います。中国ではギャンブル性に好意的な文化があるので、それが映画ビジネスにも反映されているのかもしれませんね。

ーーなぜ中国ではそこまでのヒットにつながったのでしょうか?

種田:今の中国映画がに求められているもの、中国の観客が観たがるものにフォーカスを絞って製作したからでしょう。本作のマーケティングを日本で行ってヒットに繋がるかと言うと、そうはならないと思います。それに、ファンタジー映画に関して言えば、世界的に見ても日本の実写映画は遅れをとっていると言えます。『ハリーポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』のような大作映画に限らず、欧米ではファンタジー映画が盛んに作られていますが、現時点で日本発のファンタジー映画の流れはなかなか定着しません。一方、中国にはファンタジー映画を作る土壌が『西遊記』『水滸伝』『三国志』などの古典文学から受け継がれています。子どもから大人まで楽しめるまったく新しい形のファンタジー映画を受け入れることもできて、結果的にも大ヒットを収めることができたのだと思います。中国でこの映画を知らない人はほとんどいないですし、僕がこの作品に携わったことを話すとみんな喜んでくれますよ(笑)。

■「『モンスター・ハント』は『ゲゲゲの鬼太郎』に近い」

ーー確かにファンタジー映画は少ないですが、最近は『進撃の巨人』や『シン・ゴジラ』などの大作映画も徐々に増えている印象があります。

種田:日本映画をハリウッド映画風に作ってはいけない、ということはもう明確になっていますよね。ハリウッドスタイルの土俵で無理に戦うのではなく、そことは違う手法で作品を生み出すべきではないかと考えられます。日本にはマンガやアニメの文化と土壌があり、それらは世界的に広がっている。『進撃の巨人』のマンガが世界的なファンを獲得していることや、US版でも有名な『ゴジラ』などですね。ゴジラ映画を庵野監督のようなアニメの才能が新たに手がけることで、ハリウッドのSFやファンタジー映画とは異なる日本オリジナル作品を発信できる可能性は大いにあると思っています。

ーー新しいデザインを製作するにあたり、なにかインスピレーションを受けたものはありましたか

種田:中国に残っているデザインやスタイルをベースにしています。元祖中国ファンタジーとも言える『山海経』は大変、参考になりました。ただ、中国と言ってもとても大きな国ですから、その地域によって建物の雰囲気やライフスタイルはまったく異なっています。多様なデザインをどうアレンジして映画の中に取り入れていくのか、そこは考えなくてはならかった。また、直線ではなく曲線を使ったオーガニックなデザインを追求したので、ヨーロッパのテイストも随分取り入れましたね。フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーの絵や建築物などを。さらに、ジブリ的な要素も入っていると思います。限られた世界に向けて作る意識はなかったので、中国のみならず世界の人々が映画を見て、しっくり物語に馴染んでいると感じてもらえる世界観とデザインが必要でした。おそらく、日本人が見ても昔の中国の再現ではないということが伝わると思います。さらに言えば、本作は、水木しげるさんの『ゲゲゲの鬼太郎』を重ねることもできます。

ーー『ゲゲゲの鬼太郎』の名前が出てきたのは意外です。

種田:子どもの頃に『ゲゲゲの鬼太郎』を見てすごく驚いたんですよ。今の若い世代の人たちにとっては、既視感のある世界かもしれませんが、当時の衝撃は大きかった。お化けのポスト、ツリーハウスなど、ああいう世界観を見たことなかったですから。新しい表現が生まれてくる時代背景みたいなものがまずあった。当時は東京オリンピックで日本中が湧いていた高度経済成長期の時期でしたから、過去を振り返ることに意味があったし、またその余裕も生まれていた。

ーー『ゲゲゲの鬼太郎』が生まれた時代の日本と現代の中国は近いということですか?

種田:そうですね。中国で『モンスター・ハント』という映画が生まれて大ヒットしたというのは中国の経済的な勢いや都市化のスピードと逆行するような形で、童話や昔話のエッセンスを持った面白い作品が受け入れられたと言えるのではないでしょうか。現在の中国と同じように、僕が子どもの頃、日本の高度経済成長の時代ですが、その時代も映画がすごく流行っていました。映画館はいつも満席で、子ども達もゲラゲラ笑いながら映画を見ていました。中国での『モンスター・ハント』を見ている子ども達の様子と同じでした。そういう意味で、『モンスター・ハント』は『ゲゲゲの鬼太郎』に近いと感じることができるのです。

ーーデザインにも影響を与えているのでしょうか?

種田:完成した映画だと伝わりにくいかもしれませんが、劇中に出てくるデザインにも『ゲゲゲの鬼太郎』のエッセンスは入っています。最初のデザインは日本的な要素も多かったのですが、そこからだんだん離れていき、最終的には中国的なルックに見える世界観に仕上がりました。実は、世界観のコンセプトをうまく映画になじませるのはとても難しいことなのです。本作では、監督が考えた可愛らしい妖怪たちのおかげで、この世界観を成立させることができました。ラマン監督のテーマは“人間と共存していく自然に優しい妖怪”なので、そこも『ゲゲゲの鬼太郎』に通じるものがあるし、日本人が見ても共感できたり、懐かしく思う部分はあると思います。僕自身、『モンスター・ハント』を経験したことで、子どもにも大人にも喜んでもらえるものを作りたいと思えるようになりました。子どもに向けた作品でも子ども騙しなものを作ってはいけないと感じましたね。その後にジブリのアニメーション作品『思い出のマーニー』や書籍『ステラと未来』の仕事を引き受けたのですが、そこにすんなりと入っていけたのは、本作を経験した影響が大きいと思います。

ーー最近は、背景がすべてフルCGであったり、本作のようにアニメーションと実写を組み合わせた作品も増えており、着々と映像技術が進歩していると思います。美術監督に求められるものにも変化があるのでしょうか?

種田:たしかに技術面の進歩はありますが、アイデアを考えるのは人間です。それに、CGやアニメーションといったデジタル技術は、誰がデザインしても結果的に似たようなデザインになってしまうリスクがある。そうならないためにも、映画の基盤となる世界観のコンセプト、アイデアや方向性は独創的でオリジナルなものを目指す必要があり、そこに僕の仕事があると感じます。それにしても、映画づくりでなにより難しいと感じるのは、CG、アニメ、実写の高いクオリティを保つということです。どんなジャンルの映画、どんな分野の仕事においても、高いクオリティを保つということは、簡単にはできないことです。最近のアニメやCGはどれも上手くできていると思うし、セットも大道具の方や職人の方の手でそれなりに質の高いものはできるのですが、娯楽映画として独創的かつ高いクオリティを出すことはなかなか難しい。一般の人の感覚では分かりにくいかもしれませんが、それ風のものが並んでいても、映画の中の世界に存在しているようには見えません。生きて見える登場人物と同じように、背景もそこに存在するものとして認識させなければならない。いくら俳優が迫真の演技を見せても、彼らを包み込む世界にリアリティがなければ、実感ある物語として捉えてはもらえないでしょう。

ーー総合的に美術を設計していく必要があるのですね。

種田:映画の世界観を一から十までコントロールできる監督は少ないだろうし、CGを作る人も建築様式のことや小道具のことを専門的に理解している方は少ないので、全体を見る美術監督が必要になってくると思います。どんなにデジタル技術が進んでも、映画に求められるものが変わっても、その作品に合ったデザインや方向性をディレクションしていく人間が必要になります。中国では、美術監督のことを美術指導や美術総監というのですが、これからは美術監督が映画固有の世界や雰囲気を監督するスーパーバイザーの役割を担っていくことになるだろうと考えています。

泉夏音

最終更新:8/2(火) 16:42

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