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AIやロボット出現時代に、ビジネスパーソンに必要とされるようになるスキルとは?

HARBOR BUSINESS Online 8/2(火) 16:20配信

 ここ最近、「人工知能(AI)やロボットなどに関する記事を目にしない日はない。その可能性が指摘される一方で「AIやロボットの出現で、ホワイトカラーの雇用機会が奪われる」といった論調も見かける。確かにこれらの導入により、さまざまな作業は人がやらなくてもすむようになるだろう。人的なリソースも大幅に軽減できる……となれば、そうした論調が出てくるのも当然だろう。

 しかし、本当にそうだろうか? 「AIやロボットの出現が人の仕事を奪うことになるとは考えていない」という話もある。

「AIやロボットは、従業員をルーティン作業から開放し、より付加価値の高い業務を行う機会を提供すると感じています。さらに、AIやロボットを駆使できる人材のニーズが高まり、雇用も創出されるでしょう。この現象は多くの人にとって、脅威ではなく、チャンスだと思います」と語るのは、KPMGコンサルティング株式会社パートナー、田中淳一氏だ。

◆「ロボット化」が企業の生産性を飛躍的に高める

 AI、IoT(モノのインターネット)、デジタル・レイバー(Digital Labor:仮想知的労働者)といったキーワードに触れる機会が増えている。これらに共通するのは、いずれも、機械学習などを含む認知技術を活用し、人に代わって業務を自動的に行うことだ。

 最近ではこれらを総括するものとして「RPA(Robotic Process Automation)」という言葉が広がりつつある。RPAは「ロボット」とは言うものの、生産現場における物理的なロボットではなく、認知技術やソフトウエアツールを活用したものだ。

「RPAはこれまで人間のみが対応可能とされていた作業やより高度な作業を人間に代わって実施することができます。工場で産業用ロボットが製品を組み立てるように、バックオフィスにおけるデータ入力などをRPAによって行えるようになるんです。

 RPAの大きな特長は、定型作業だけでなく知的・自律的な作業も自動化できることです。人間の指示にのっとった対応のみでなく、自ら学習してルールを作ったり、意志決定に必要な情報を自ら取得し適切な判断をしたり、人間の質問を理解して適切な回答をしたりできる点にあります。まさに『デジタル・レイバー(仮想知的労働者)』というわけです」

 こうした『デジタル・レイバー(仮想知的労働者)』はどういったところに役立ってくるのか?

「請求書の処理や経費精算、申込書の入力・不備チェックといった定型作業の自動化については、すでにビジネスにおいて効果が実証されています。たとえば経費精算のチェックをRPAで行うと、100件(人間が行うと約200分)の照合作業が1分で済んでしまいます。

 また、ある大手生保では、保険申込書の不備チェックのために、これまで200人が必要でしたが、RPAの導入により、それが十数人まで削減できたといいます」

 これまで、業務コストを削減するためにはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスなどを利用し、人件費の安い国へ委託するのが一般的だった。しかし、最近では中国やインドなどの人件費が高騰し、その格差を利用したコスト削減が難しくなっている。また、コストを追求し新興国に業務を委託すると品質の確保が難しくなる。

 RPAであれば国内で品質を担保できる。もちろん、スピードも速い。人件費格差や標準化を元にしたコスト削減は15~30%が限界だが、RPAを活用したコスト削減は40%~75%も可能とされている。最近になって、RPAが注目されている理由の一つがここにあるのだ。

◆RPA普及で新たな雇用創出や経済発展も!?

 前述したような効果を踏まえれば、RPAが既存の業務に大きな影響を与えることは容易に想像できる。

「2025年までに全世界で1億人以上の知的労働者、もしくは1/3の仕事がRPAに置き換わるという予想もあります。英オックスフォード大学でAIなどの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授らは2014年、論文『雇用の未来』の中で、今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化される可能性が高いと結論づけています。

 日本においては、経済産業省が2016年4月、『新産業構造ビジョン中間整理』において、AIやロボットなどの技術革新に対応できなければ、2030年度には国内雇用が735万人減るという試算を発表しました。

 ただし、これらの数値をもって『自分たちが行っていた仕事が奪われる』と考える人がいれば早計です」

 果たして、それはどういうことなのだろうか?

「確かに、RPAは、人間が対応していた業務を代行することはできます。特に、人間が実施している反復作業や大量作業などをまねすることは得意です。入力の正確性やスピードなどでは、人はRPAにかなわないでしょう。

 しかし、いくらRPAが普及しても、人間が担うべき機能は必ず残ります。さらに、RPAの普及に伴い、人間に新たなスキルセットが求められるようになると考えられます。

 RPA時代には、業務を『実行』する能力から『理解・分析・設計』するスキルが重要になるでしょう。たとえば、現状の業務にどの程度の効率化余地があり自動化が可能なのかといった『業務の分析・設計スキル』のほか、RPAの適合性など『テクノロジーの理解・設計スキル』、さらに『ユーザーのニーズの理解・分析スキル』などです。

 見方を変えれば、RPAの導入が進むほど、これらの人材に対する需要も高まることになるというわけです。企業内でのRPA統括専門部隊の新設や、RPAの製作やリスクマネジメントなどを専門に行うサービス会社もこれから数多く誕生しそうです。雇用の創出にもつながっていくに違いないでしょう」

◆意欲ある人材や企業にとっては大きなチャンス!?

 海外の企業にはすでにRPAを導入し、数十億円規模のコスト削減を実現し、それを競争力の原資にし始めているところも出てきている。日本企業においても、その取り組みがグローバルな競争力を左右することになりかねない。

「RPA時代においては、変化するスキルセットへの対応など、従業員の意識改革が求められることになります。ホワイトカラーにとっては、その中でどのように自分のキャリア向上を図るか考え行動することが求められます。

 また、企業経営者にとってはRPAを自社の経営にどう取り入れ、優位性を発揮するかが問われることになるでしょう。さらに、必要なスキルを持つ人材の育成も急務になります。従業員が納得できるコミュニケーションやトレーニング体制の整備なども必須になるはずです」

 さらに、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やSSC(シェアード・サービス・センター)などのベンダーにとっても、RPAの活用が事業戦略の要になるという。

「RPAの普及は大げさでなく、これまでのワークスタイルを変革するものになるでしょう。業務効率の改善のみならず、従業員をルーティン作業から開放し、職場のモチベーションを向上させることができるのです。労働時間短縮などにともなうワークライフバランスの充実も実現します。女性や高齢者、外国人など多様な人材の活用もできることになるでしょうし、少子高齢化・人口減少にともなう労働力不足の問題にも対応できると思います。

 むろん、その前提して、RPAの導入により創出された時間や削減できたコストを何に使うのかという視点も重要です。今後は、自社にとってふさわしいRPAを早期に検討し、導入を進めることが今後の経営課題になるでしょう」

 かつて、インターネットの誕生が雇用を喪失させると言われた時代もあったが、実際には逆に、多くのビジネスを生み出し雇用を創出した。同様に、RPAの普及も意欲ある人材や企業にとって大きなチャンスになり得るのだ。 企業も、そしてビジネスパーソンもまた、積極的に取り組むべきテーマの一つと言えるだろう。

田中淳一●KPMGコンサルティング パートナー。国内外コンサルティング会社のパートナーを歴任後、KPMGコンサルティング株式会社SSOA(Shared Services and Outsourcing Advisory)CoE統括パートナー。RPA(Robotic Process Automation)/AI/デジタル・レイバーによる業務改革、ビジネス革新のサポート、RPA時代を見すえたターゲットオペレーティングモデル(あるべき業務の姿)構築に精力的に取り組む。一般社団法人日本RPA協会専務理事。

<取材・文/HBO編集部>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/2(火) 16:20

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