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迎賓館でのメルセデス──最近おもしろかったこと

GQ JAPAN 8/4(木) 16:45配信

自動車メーカーはときどき試乗会で凝ったことをする。クルマと社会の交差点にある「クルマ文化」にストップかゴーの判定を下す好評連載。今回のテーマは、クルマ業界の発表会について。

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こういうことを書くとひんしゅくを買いそうだけれど、ジャーナリストの役得(?)がある。プレス発表会を楽しめることだ。ファッション業界はとりわけ有名なのだけれど、クルマ業界も負けていない。

最近僕にとって印象的だったのは、メルセデス・ベンツ日本が新型Eクラスの発表のために赤坂の迎賓館を使ったことだ。ユニークベニューといって美術館などの公的施設を民間企業のイベントのために貸し出すのは海外では一般的。今回の迎賓館もこれをビジネスとすることを考えているようで、試験運用の第一号が今回の新型Eクラス発表会だった。

僕は一般公開にも足を運んだことがないので、長いアプローチを通って門をくぐるのは初体験。メルセデス・ベンツ日本はそこにもラインナップをずらりと並べた。まずスマート。歩を進めるうちにクルマが上へと上がっていく。なんでも2時間ですべての準備を終える必要があったようで、関係者は「本当にタイへンでした!」と苦笑していた。このあたりはまだまだお役所仕事なのかもしれない。

本会場の真正面には2015年の東京モーターショーで公開された自動運転のコンセプトモデル「Vision Tokyo」がどんっ。隣りに1886年に作られた最初の内燃機関搭載の自動車といわれるベンツのパテントモートルバーゲン。最古と最新(というか未発売)が並べられ、背後にベールをかけられたEクラスが置かれていた。

なかなかの迫力であり、「メルセデスすごいね」と来場者のささやきが聞かれた。僕は迎賓館なんかどんどん貸せばいいと思うので、まっさきに借り出したメルセデス・ベンツ日本の努力に敬意を表するとともに、今後もこういうイベントが増えることを期待する。駐車場も完備してくれるということないが。前庭でのカクテルパーティなども開催されるようになるかもしれない。価値さえ見失わなければ陳腐化することも少ないはずなので、外国のひとにもどんどん観てもらいたいものだ。

スイスでのアウディのイベントもおもしろかった。

さきに新車試乗記を書いたアウディ Q2。このクルマのレセプションのために、アウディはスイス・チューリッヒの路面電車(トラム)を借りきった。「時間厳守でお願いします」と念を押されてトラムの駅に行くと、「来ました!」という(英語の)アナウンスとともに50年代の車両ががたごとというかんじでやってきた。

町外れの工場跡をリノベーションしたデザインホテル、25 Hours Hotel前の駅で世界各地からやってきたジャーナリストがトラムに乗り込むと、途中の駅はとばして中心にある目的地までまっすぐ向かった。市民は乗りこもうともしないし、びっくりもしていない。トラムを貸し出すのもユニークベニューなのだろうか。市民は慣れているかんじだ。むしろ僕たちが護送される動物の気分になってくる。

車内にはケータリングの係が乗り込んでいて、飲み物やスナックを運んでくれる。昔の車両の窓ぎわにポテトチップスを手に座っていると湘南電車に乗っている気分になってきた。といっても行程はそんなに長くないのだが。ファッションブランドとちがい、自動車メーカーのレセプションは“車輪”から離れられないのかもしれない。なにはともあれ、このウッディなトラムが工場を改装したクラブという会場へと僕たちを運んでくれた。移動も演出なのである。

僕が経験したなかでもおもしろかったのは、2001年9月のランボルギーニ・ムルシエラゴの発表会だった。あるとき真っ黒い変わったかたちの封筒が届いて、「×月×日24時(だったと思う)エトナで会いましょう」と英語で書かれているだけ。エトナとは映画でも知られたタオルミナからそんなに遠くない火山である。

指定された時間に当時薄く煙をあげていたエトナの中腹まで行くと、真っ暗ななか遠くからバリバリバリッという大排気量スポーツカーの排気音が聞こえるとともに、僕にとって初めて目にするムルシエラゴが姿を現したのだった。演出はそれだけ。降りてきた社長が短いスピーチをして解散である。アウディがランボルギーニを傘下におさめて初めての製品だから気合いが入っていたのだろうが、逆にうんとシンプルな演出に徹した。それがよかったと思う。とても強く記憶に残っているのだった。

新しい会場を建てるのではなく既存のものをうまく使う。それこそ賢い。こういう驚きは「GO」だ。

文:小川フミオ

最終更新:8/4(木) 16:45

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