ここから本文です

姫乃たま、松永天馬に作詞のコツを教わる「新しい自分の一面に出会って、掘り下げていかないと」

リアルサウンド 8/4(木) 17:01配信

 音楽のこと、プロの人から学んでみたいと思いました。

 リアルサウンドで連載していた地下アイドルにまつわるコラムが、『潜行』という書籍にまとまって落ち着いた時、そう思いました。

 ここまで独学でやってきた私の作詞、もっと書き方があるんじゃないかな。最初の授業は、作詞。先生は詩人で作詞家の松永天馬さんです。(姫乃たま)

■職業作詞家として「歌詞って短いし、文字は少ないけど、その中にいかに遊びを詰め込めるか」

姫乃たま(以下、姫乃):えー、いま僕とジョルジュという音楽ユニットを組んでいるのですが、その新譜のために15分の曲をみっつ作詞しないといけなくて、非常に困っているのです……。正直なところ、これまで独学でなんとかかんとかやって来てしまったのですが、ここできちんとプロフェッショナルから作詞を学びたく……。

松永天馬(以下、松永):僕がプロフェッショナルですか! うーん、ものすごく当たり前な誰でも言いそうなことを言うと、まず曲をよく聴きこんで……あははは! 情景をイメージしてから、フックになるメロディに当てはまるワードを出して、そのワードを元に歌詞を広げ……。

姫乃:あーっ、いまそんな感じで作詞してます。間違ってなかったかも……! しかし作詞家にも、曲があって作詞できる人と、曲がない状態でも書ける人がいて、私は圧倒的に前者なんですが、天馬さんは後者ですよね。

松永:そうですね。でも、自分で曲を作る時はメロと歌詞が同時に浮かんでくることもありますし、人に歌詞を提供する時は曲が先です。歌詞ってなんとなく、ふわっと書けちゃう人もいると思うんですけど、職業的に作詞をする際に大事なのは、まず歌詞のモチーフになるアイテムを明確に決めることです。AKB48の曲を思い出して欲しいんですけど……

姫乃:あー、「Everyday、カチューシャ」「ポニーテールとシュシュ」……えー、ギンガム……

松永:ギンガムチェックでしたっけ。

姫乃:ギンガムチェック!

松永:女性アイドルだとファッションアイテムが使いやすいですね。作詞提供する時は、その人のモチーフとアイテムを決めると、とても作りやすいです。たとえば上坂すみれさんだったら、彼女は昭和のレトロなものが好きなので……アイテムはレコード。それから、すみれという名前がとてもハイカラなので、繋げて「すみれコード」にしました。すみれと言えば宝塚じゃないですか。すみれの花~♪ 宝塚の世界には実際に「すみれコード」なる隠語もあるんで、前者と後者をはめこんでタイトル決定。作詞はパズルみたいなものです。

姫乃:パズルはどうやって組み合わせいるんですか。

松永:これ、アーバンギャルドの「ワンピース心中」のメモなんですけど、パフスリーブとかノースリーブとかワンピースの関連ワードがたくさん書いてあって……実際の歌詞には使われていないんだけど、まずはとにかく言葉をいじくりまわしてます。連想ゲームって感じでしょうか。表記の仕方もいろいろありますよね。漢字で書くかとか、ひらがなかカタカナか、英語にするかとか。「ワンピワンピ」の繰り返し部分も、「Want Want」にならないかとか「Once Once」にできないかとか書き換えてある。僕は基本的にパソコンで書いちゃうんだけど、最初はイメージを広げるためにノートに書き出してみたり、縦読みにしてみたり。

姫乃:縦読み!

天馬:歌詞って短いし、文字は少ないけど、その中にいかに遊びを詰め込めるかってことだと思います。

■作詞と自分の関係「自分で書いた歌詞を歌うっていうのは恥ずかしいこと」

姫乃:作詞って時間をかければ良いわけではないと思いますが、時間をかけたほうがいい気もします。

松永:この「君にハラキリ」なんかは、ほんとに短時間で書けてしまったんだけど、昔、松本隆さんが新聞かなにかのインタビューで、「歌詞というものは短いけれども、ウイスキーが樽から一滴一滴垂れてきて、ある程度の量が溜まったらやっと出荷できる」という風に言ってました。それは本当にそうで、歌詞ってひらめいてから書き始めたら、1、2時間でほとんど書けてしまうんだけど、自分の中に言葉が一滴一滴溜まって書き始めるまでに時間がかかる。

姫乃:たしかに実作業よりも、それまでの時間のほうが長いです。でも時間をかけた詞よりも、ささっと書けた詞のほうが反応が良いことってありませんか。

松永:あります。あれは、リスナーが聴く速度の問題だと思うんですよね。こちら側が何年かけて作詞しても、聴く時は数分じゃないですか。いろいろ詰め込んでも、少し聴いただけだと拾いきれないんですよね。でも作詞って本質的には、一行一行に意味を凝縮すればするほど、良いものになると思います。悲しみが蓄積されて、感情の閾値に達した時に涙が一滴流れるのと同じで、その一滴をスポイトでシュッッ!!!っとやって、歌詞にするわけです。さっきはアイテムを決めるとか職業的な作詞の話をしましたが、まずは自分を掘り下げることなんじゃないかと。自分の辛い部分をよく吟味するというか……。

姫乃:ほかの何でもなく、辛い部分なんですね。

松永:うーん、僕はやっぱり辛くて恥ずかしい部分が重要だと思いますけどね。そもそも自分で書いた歌詞を歌うっていうのは恥ずかしいことなんですよ。ミュージシャンになりたい若者は自然とやっているけれど、本来はすごく恥ずかしいというか辛いことだと思う。

姫乃:私も歌い始めの頃は、人前で歌うことより、自分の歌詞を歌うことが辛かったです。どうですか、もう乗り越えましたか?

松永:いまも恥ずかしいですよ! 昔とは違う苦しみがありますね……。韻を踏んだり、リズムで面白くしたり、職業的な作詞の技術は増えたんですけど、自分をどんどん掘り下げないといけない辛さが。昔書いていた歌詞が、自分の地下一階とか二階だったとしたら、そこはもう掘り下げているので、もっと掘っていかないといけないじゃないですか。それに中二病を患ってた若い時に比べて、年取ってくるとさあ、言いたいことに一段落ついちゃうんですよね。どうですか、中二の頃に比べて!

姫乃:いやあ、一段落どころか、二段落も三段落もついて、ほぼ何もないですね。

松永:そうでしょう! 10代の時のように、世の中に対して何か言いたいみたいなことだけでは書けないわけですよ……! どんどん新しい自分の一面に出会って、掘り下げていかないと。アーバンギャルドはもう何枚もCDを出しているので、バンドもメンバーも成長したり、それに合わせてお客さんも成長したり年取ったり入れ替わったりもしているので、その変化に合わせて歌っていくのかなあ。最初は代表曲を作るにあたって、自分達の人となりを表現するために、水玉をアイテムに使ってみようと思ったんですよね。ヴォーカルの浜崎容子に水玉ワンピースの衣装でステージに上がってもらっていたら、お客さんも伝染したかのように、段々と水玉グッズを身につけるようになった。それで「水玉病」って歌を書きました。

姫乃:歌詞でセルフプロデュースするためにも、自分のことを掘り下げないといけないですね。いつもこの曲にはどんな歌詞が合うかということばかり考えていました。もっと自分のことを考えないと。

■歌詞の特性を活かす「歌詞っていうのはフィルム一枚なんです」

松永:普通の文章だったらやってはいけないけど、歌詞だったら制約を取っ払えることがあるんです。なんだと思いますか?

姫乃:うーん、ら抜き言葉!

松永:ははは。まあそういうちょっとした簡略化もそうですけど、時制が自由なんですよ。過去形と現在形と未来形っていうものを混在させられるし、混在させてもするっと聴けちゃう。たとえば「あした地震が起こったら」では、過去と未来と現在を混ぜることによって、その話がいつ起きている話なのかが曖昧になっています。これから起こるかもしれない明日のことを懐かしく思い返すような歌詞ですね。

姫乃:ほあっ、考えたことなかったです。いつもきちんと時系列に書いてました。

松永:歌詞って永遠の一回性みたいなものがあるじゃないですか。

姫乃:えいえんの、いっかいせい……?

松永:小説とかは映画と一緒で、フィルムが連なって順繰りに流れていくと思うんですけど、歌詞っていうのは切り出したフィルムの一枚なんです。手元にある一枚の写真から、色んなことを想像していく感じです。例えばとあるツーショット写真。こういう場所で撮ってるけど、この人とこの人はどういう距離感で、ふたりの表情は何を表しているんだろう。その一瞬を写真のように切り取って、いつなんどきでも永遠に見返せる。リスナーが聴くことによって、それが永遠に繰り返される。

姫乃:ほあー、だから「でした」とか、「でしょう」とか、言葉尻だけの時制ではないってことなんですね。ちなみにまさに永遠の一回性を書いてる曲って何ですか。

松永:ぱっと思いつくのはRCサクセションの「スローバラード」。車の中で好きなあの子と手を繋いで寝て、カーラジオからスローバラードが流れてきて、とても素敵な夜だねっていうことを書いているんですけど、あれはメタにもなっていて、実際にリスナーのカーラジオから流れてくる曲がまさしくこの「スローバラード」かもしれない。だからRCサクセションを好きな男の子と女の子が、車の中でスローバラードを聴くことによって、それを追体験できるんですよね。清志郎さんはそういう歌詞が多くて、「トランジスタ・ラジオ」もそう。授業をサボって、陽の当たる屋上でいろんなところから流れてくる音楽をトランジスタラジオで聴いてるっていう歌だけど、あれもトランジスタラジオや、今ならiPhoneなんかで聴くことによって、一回きりだった感情が繰り返される。

姫乃:わかった! スチャダラパーの「サマージャム’95」もそうですよね。サビの前に、こんな曲が流れたりしてねっていうリリックがあって、ラジオとかから「サマージャム'95」のサビが流れてくる。

松永:そうそう! そういうメタな面白みも歌詞にはありますよね。アーバンギャルドの「傷だらけのマリア」っていう中二病満載の曲があるんですけど、「個性的なことしてみたい 個性がないから 個性的な女の子はこんな音楽聴かない」という歌詞を唐突に挿入することによって、「アーバンギャルドを聴いている私個性的」って思っている人に突きつけてやるわけですよ。ナイフを。

姫乃:言葉のナイフを!

松永:ラブソングで「君」って歌うと、リスナーは自分のことかなって思いますよね。そういうお客さんと一対一になれる良さも歌詞にはあります。

姫乃:作詞ってだから、自分のことだけじゃなくて、曲のことと、聴く人のことと……あっ、考えることがたくさんあります。

■歌詞と自分とリスナーの関係「主人公の女の子を僕が書くことによってメンヘラを客体化している」

姫乃:職業的な作詞の時もAKB48の名前があがりましたけど、同グループに「僕の太陽」という曲があって、これが君は僕の太陽だっていう非常に漠然とした歌詞なんです。最初に聴いた時は、えーって思ったんですけど、これがふとした瞬間にものすごく心に刺さるようにできているんですよね。具体的なことは書いてないんですけど、なんで俺の気持ちがわかるんだ! って、ファンの人が思うわけです。

松永:何を書かないかって大事で、歌詞もある程度想像に任せた方が良いですよね。さっき「スローバラード」に感情移入する話をしたけど、あれで相手の女の子がどんな子でどんな服着ててとか詳細に書いちゃうと、誰でも感情移入できなくなっちゃう。さらに秋元康さんがすごいのは、AKB48以降、男の子が一人称の歌詞が圧倒的に増えたところ。おニャン子クラブの時は10代の女の子がおじさん達に向かって歌っていたのを、オタクに主役の座を譲り渡したんだと思うのね。お前らが推すことによって、この現場が成立するんだぜっていう主権をリスナーに委ねている。「大好きだ 君が大好きだ」とか「会いたかったー会いたかったー」とか、そういう曲がありますけど、あれってオタクの感情なんだよね。オタの気持ちをAKBの女の子が歌ってあげている! つまり歌われている主役は推しのメンバーじゃなくてリスナーなんですよ。あれはだからすごいギミックのある構造になってるんですよね。

姫乃:歌詞の中の私が誰なのかとか、あなたは誰なのかとか、さっきの歌詞とリスナーの関係にも話が繋がってきますね。アーバンギャルドに関しては、ちょっと複雑な感じがするのですが、歌詞とリスナーの関係はどうなっているんですか。

松永:アーバンギャルドには僕という監督がいて、浜崎さんという主演女優がいて、そこにあてがきをしていくんだけど、それは実はあてがきではなくてフィクションで、彼女がプラスチックな女の子であるという作りになっています。非常に渋谷系っぽい、ピチカート・ファイヴ的だなと自分で思うのは、その映画的な構造。だからリスナーは歌に感情移入すると同時に、その映画的なカメラワークを、客観性を持って眺めることもできる。アーバンギャルドはさらにそこへメンヘラの要素が入ってくる。これまでメンヘラのポップソングっていうのは一人称のものが多かったわけです。90年代でいうと椎名林檎さんとか、Coccoさんとかは、あくまで私についての話、自意識強めの歌詞だったんだけど、アーバンギャルドっていうのは、主人公の女の子を他者である僕が書くことによってメンヘラ的な自意識を客体化している。それがアーバンギャルドのコンセプトになっているんです。

姫乃:こうして改めて聞くと、アーバンギャルドのコンセプトと歌詞はかなり密接な関係にありますね。

松永:あ、でもこれね、書いた後にいろんな人に分析されて、言われてみればそうでござんすね! って気が付いた感じです(笑)。創作しているときはほぼ直感でやっている。

姫乃:そういえば、どうしてメンヘラを選んだんですか?

松永:自分の周りにいる、物をつくる女の子って病んでいる子が多かったし……何より自分の中に病んだ少女がいたんじゃないですか! 見た目はおじさんですけど……。それを自分が歌うんじゃなくて、人に歌わせることによって、初めて作品として成立したというか。

姫乃:私はずっと自分の歌詞とキャラクターが密接でないことに悩んでいたんですよね。いま知識が増えたことによって、事態の難しさがさらに極まるという、学びの一歩目にありがちな状況になっています……! 

■知らない世界を覗くこと

松永:あと僕はタイトルから歌詞を作ります。アルバムなんかを作るとき、曲のタイトルの並びが気に入らないと、曲順を入れ換えることもあります。

姫乃:気に入らないタイトルの並びってなんなんですか?

松永:単純にカタカナの曲を連続させないとか。椎名林檎さんなんかはアルバム曲を並べて、文字数や表現が左右対称になっている傾向がありますし、人によっては物凄くこだわっている部分だと思います。僕は昔、自分が筋肉少女帯のCDとかを買って、家に帰るまでわくわくしながらタイトルを眺めた経験があるからタイトルには特にこだわっちゃうんですよね。

姫乃:今度、主催する『鬱フェス』でオーケンギャルド(大槻ケンヂ+アーバンギャルド)の演奏もあるし、夢のある話ですね。

松永:姫乃さんは地下アイドルについての本を一冊書いてるから、地下アイドルの経験を具体的に書くのもいいんじゃないですか。それが姫乃たまを掘り下げた歌詞ということかもしれない。さっきの話とは矛盾するようですけど、ものすごく具体的な歌詞を書くことによって、地下アイドルの世界に疎いリスナーが別の世界を覗き見できるような歌になるかも。自分とは生きる世界が違うけど、わかりあえる部分もあると相手が思ってくれたら成功ですね。

最終更新:8/4(木) 17:01

リアルサウンド

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。