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BOEのカーニー総裁の記者会見-ポリシーミックス

NRI研究員の時事解説 8/5(金) 9:42配信

はじめに

前回(7月)のMPCの声明文や議事要旨を通じて追加緩和の方向が明確に示唆されていただけに、今回のMPCでの追加緩和は、市場のコンセンサスとなっていた。それでも、利下げと(社債買入れの導入を含む)量的緩和の拡大、貸出支援策の導入といった「三次元」そろい踏みの内容は、米欧市場でやや意外感を持って受け止められている面があるだけでなく、むしろ適切さを問う意見もみられるなど興味深い反応を引出している。

今回はMPCの“Super Thursday“に当たり、声明文と議事要旨に加え、Inflation Report(IR)や新たな政策手段に関する公表文とそれらの認可を巡るカーニー総裁とハモンド蔵相の交換書簡、さらにカーニー総裁の記者会見と大量の情報が入手可能であるが、追加緩和のポイントを整理しつつ、意味合いを検討したい。

追加緩和の背景

声明文と議事要旨によれば、追加緩和の理由はEU離脱を支持した国民投票の結果、離脱プロセスとその影響に関する大きな不透明性が生じたため、設備投資や住宅投資を中心とする内需に大きなダウンサイドリスクがあるとの認識である。実際、今回のIRに示された新たな見通し(Mode)によれば、2016年の実質GDP成長率の見通しは前回(5月)と不変(2.0%)となったが、2017~18年にかけては0.8%→1.8%と、前回(5月)の2.3%→2.3%とは様変わりになった(ちなみに同期間のGDP下振れの累計は2.5%)。

この点自体に対する異論は考え難いが、議事要旨やIRは、MPCにおいて、(1)大幅なポンド安による輸出の増加は総需要を下支えするのではないか、(2)またポンド安によりインフレ目標の達成は容易になるのではないか、(3)投資の減速は最終的には総供給の減速を招くので、需給ギャップの拡大は深刻ではないのではないか、といった議論が行われたことを示唆する。

しかも、よりシンプルだが難しい問題は、現時点で入手可能な経済指標(hard data)がBrexit後の状況をまだ十分にカバーしておらず、議事要旨が説明する内需減速のリスクも、実は多くの根拠がサーベイ結果である点である。しかも、そうした結果のうち、企業のセンチメントは多くの例で下振れしているが、家計に関しては必ずしも同方向の結果が現れている訳ではなく、この点も今回の追加緩和を過剰とする見方の背景にあると思われる。

もちろん、これらの点に関してMPCは否定的な立場をとっている。つまり、議事要旨には、総需要の落ち込みが大きすぎて(1)ではoffsetできない、少なくとも現時点では、(2)によるインフレ目標の達成より、需要不足による失業等のslackness発生を重視すべきである(ちなみにIRには、失業率が現在の4.9%から2018年に5.6%に上昇するとの推計が示されている)、(3)供給が低下するまでの間の需給ギャップの問題が大きい、といった主張がdominantとなったことが説明されている。

このうち(2)は、IRで2016~2018年のCPIインフレ率見通し(Mode)を0.8%→1.9%→2.4%とした(前回(5月)は0.8%→1.5%→2.1%)ことを考えると、インフレ目標のある程度のovershootを許容しても、総需要を追加緩和で支える考え方が示唆される。この場合のリスクは、インフレ期待が高まりすぎて上方向にsecond round effectが生ずることであるが、議事要旨にはこの間の労働市場が柔軟性を増し、雇用と賃金との関係が不明確になっているとし、リスクをdownplayしている。

さらに、hard dataが不十分である点をMPCの多数派は逆に受け止め、英国経済が今回の見通し通りに推移しても、さらなる追加緩和を行う可能性が高いとの立場を明確に示唆している。

MPCの多数派によるこうした理解を受け入れるとしても、市場からみて今回の追加緩和が過剰と感ずるかもしれない理由は他にも存在する。それは、国際金融市場の不安定化や海外経済の悪化が英国の金融経済にrepercussionを生ずるスパイラルが生じていないことである。もちろん、議事要旨も示唆するように、ユーロ圏銀行の株価低迷が一部国の金融システム不安を助長するといった形で、長い目で見れば英国に問題が回帰する可能性は否定できないが、少なくとも現時点ではそのリスクは抑制されている。

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最終更新:8/5(金) 9:42

NRI研究員の時事解説

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