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エイミー・ワインハウス:知られざる偉大な未発表曲10選

ローリングストーン日本版 8/6(土) 16:00配信

『フランク』のアウトテイクから魂の込もったビートルズのカヴァーまで。今は亡き歌姫が遺した最も感動的な未発表音源を聴く。

【動画あり】エイミー・ワインハウス:知られざる偉大な未発表曲10選

エイミー・ワインハウスは、並々ならぬ才能の持ち主だった。その自由奔放な振る舞いによって、ヘッドラインを賑わせたエイミーだったが、その作品を不朽のものにしたのは、彼女の音楽に垣間見ることができる一瞬の弱さだった。2011年にエイミーが27歳で亡くなったことは、既に悲劇的伝説となっている。

エイミーが27年の生涯で遺した音楽作品は、たった2枚のアルバムと、わずかなカップリング曲、ライヴ音源、そして他のアーティストの作品にゲスト参加した時の音源だけだ。貴重な音源をまとめたコンピレーション・アルバム『Lioness: Hidden Treasures』がエイミーの死後に発表された際、レーベルの重役たちは、彼女が生前に制作を進めていた未完成の3枚目のアルバムのオリジナル・デモ音源を破棄したこと、そして未発表音源が残っていないことを主張していた。しかしながら、数多くの高音質の音源は、海賊版やインターネット上で出回り、幻のアルバムを切望するファンによって愛され続けている。エイミーの没後5周年を記念し、彼女のお宝未発表音源を是非聴いていただきたい。

『Long Day』
「私はスターになろうとしている女の子でも、ミュージシャン以外の何かになろうとしている女の子でもないの」。かつてエイミーは、こうインタヴューで話したことがあった。「私は有名人にはならないと思ってる。そんなことに耐えられるとは思わないの。きっと狂ってしまうわ」。自らの精神に対する彼女の洞察力を考えると、『Long Day』の歌詞はよりいっそう心を打つ内容だ。2003年のメジャー・デビュー作『フランク』のリリース後に作られたこの曲は、有名になりたくない有名人について歌われているが、この時既に彼女は、その自由奔放さで有名になっていた。「自らを窮地に追いやってるこの日々で、私はただ働くしかないの」と、一見陽気な演奏にのせてエイミーが歌う。「かつて私にはたくさんの感情があったけど、最近は自分が誰であるかを忘れてしまってる」。同曲でエイミーは、トレードマークのユーモアと引き換えに、明瞭な表現を使っている。そしてその言葉は、彼女の運命を予示している。

『When My Eyes』
アルバム『フランク』のセッション前にレコーディングされたものの、最終的にアルバムに収録されなかった『When My Eyes』は、エイミーの想像力の頌歌だと解釈することができる。エイミーが願う彼女自身の在り方が列記され、明晰夢が歌われている。エイミーの夢の中のキャリアである、ローラースケートを履いたレトロなウエイトレスが登場するが、そんな彼女たちには、エイミーの音楽に影響を与えたダイナ・ワシントンやフランク・シナトラの名前が付けられている。また、エイミーが覚醒状態で逃げられない確信を歌う姿は涙を誘う。『When My Eyes』は、心と音楽が必要とした避難所となり、ドラッグとアルコールからの逃げ道を探すことになる以前のエイミーの時間を記録している。

--{エイミー・ワインハウス:知られざる偉大な未発表曲10選(2)}--

『Trilby』
エイミーの揺るぎない内省性は、強い感情で溢れる非常に私的な内容の歌詞を多く生み出したが、彼女の自己分析が滑稽にも自らを卑下することに結びつくこともあった。そして、エイミーのその富んだ機知こそが、未発表曲『Trilby』の主役となっている。後の作品がより深刻な依存症に触れているのに対し、この曲では彼女の買い物依存症について歌われている。「あのね、私はキャリー・ブラッドショーよりもたくさんの靴を持ってるの。それから収納できないほどのたくさんの鞄もね」。それでもエイミーは満足できず、「もっと、もっと、もっと、もっと、もっと欲しいの!」と歌う。実際に『フランク』の収録中は、トリルビーハットをかぶったエイミーの姿が頻繁にカメラに捉えられている。

『Procrastination』
「『Procrastinate』を聞いた人はみんな、この曲に惚れてしまうのです」。アイランド・レコードの社長テッド・コックル氏は、2011年の『Lioness: Hidden Treasures』のリリース目前に、英ガーディアン紙にこう話していた。レーベル幹部のマイク・ビーズもコックル氏の考えを支持していたが、エイミーが同曲のリリースを望んでいなかったことから、コンピレーション・アルバムに収録されなかったと主張していた。「『Procrastination』を聞く機会が訪れた時には、ケンジントンの私のオフィスに来て、私を首にしてください」とビーズ氏は名言を残している。しかしビーズ氏のこの寛大な発言に反し、『Procrastination』は海賊版やYouTubeで拡散されている。"先延ばし"という意味の曲名が示しているように、乱心状態のエイミーと、『フランク』発表後に衰えてしまった彼女の曲作りに対する意欲が歌われている。

『Alcoholic Logic』
エイミーの生活に不快なほどに関連した曲名である『Alcoholic Logic』は、『リハブ』と同じ源から誕生した曲だ。大ヒット曲『リハブ』と比べるとそのタイトル名に忠実ではないが、エイミーは自らの薬物乱用の問題と複雑でしばし破壊的な恋愛生活を天秤にかけて歌っている。2005年までにエイミーは、後の結婚相手でドラッグと自傷行為という最も危険な行動へ彼女を引きずり込むきっかけとなったブレーク・フィールダー・シヴィルと知り合っている。くっついたり離れたりを繰り返した二人の関係は、至高の作品『バック・トゥ・バック』にインスピレーションを与えたのだ。

『Detachment』
『Detachment』は、燃え上がったばかりの恋愛関係から急いで距離を置こうとするある女性の、溢れんばかりの反抗的態度を歌った一曲だ。2006年に『バック・トゥ・バック』のセッションでレコーディングされた同曲で、エイミーは機能しなくなったフィールダー・シヴィルとの関係をきっぱりと終わらせるために、彼の友達との関係をほのめかしている。実際にエイミーは、一時その関係を絶つことができた。同曲は、アルバムから欠けているストーリーで、二人の絶望的なラブストーリーにさらなる一面を与えている。

「全ての曲は、私とブレークとの関係について歌っているの」。エイミーは2007年に、『バック・トゥ・バック』についてこう語っていた。「私は人生の中で、彼に対して感じるようなことを、他の誰かに対して感じたことがなかったの。精神を浄化するものでね。私は、お互いの接し方についてつらく感じていたから」。皮肉なことに、『バック・トゥ・バック』の成功によってエイミーとブレークは再び結び付き、2007年に結婚している。

曲のスニペットは、アシフ・カパディア監督のドキュメンタリー映画『AMY エイミー』で聞くことができる。しかし、曲のフルバージョンはお蔵入りしたままだ。

--{エイミー・ワインハウス:知られざる偉大な未発表曲10選(3)}--

『Jazz n’ Blues』
『Money (No More Jazz n’ Blues)』としても知られるスローなナンバー『Jazz n’ Blues』は、最も古いエイミーの楽曲である可能性が非常に高い。同曲は、『フランク』がリリースされた2年前の2001年に、エドワード・ビグハムとコラボレーションして作られたと言われている。まばらな楽器演奏をバックに、エイミーが「お金を浪費する」「鞄と靴に全てのお金を無駄遣いする」と欲望を歌うこの曲は、完成した一曲というよりは、むしろ煮詰まっていないアイデア作品のように聞こえる。またこのテーマは、『Trilby』でも再び扱われている。エイミーのヴォーカルは、後の楽曲で見られる独特な言い回しやパワーに欠けているものの、歌姫として独自のスタイルを築き上げていく様子を伺うことができる。そして曲名が示すように、ジャズとブルースという彼女が愛した2つのジャンルが、この初期の作品を支配している。

『Beat the Point to Death』
R&Bシンガーとして世界的な称賛を浴びる運命であったエイミーだが、彼女にとって初めてのスタジオ収録は、90年代半ばに友人のジュリエット・アシュビーと組んでいたヒップホップデュオSweet'n'Sourとして行ったものだった。二人はわずか10歳の時にグループを結成し、メロディーと歌詞を自分たちで作っていたという。Sweet'n'Sourは『Glam Chicks』『Spinderella』(Salt N PepaのDJの名前)『Boys・・・Who Needs Them』という3曲のオリジナル曲をレコーディングしている。

「Sweet'n'Sourは、彼女たちバージョンのSalt N Pepaをやっていたから良かったんです」。Sweet ’n’ Sourのスタジオ音源を聴く機会があった『AMY エイミー』のカパディア監督は、こう話している。「もちろんエイミーが、(スウィートとサワーだと)サワー担当(笑)。でも、彼女たちはとても真剣でした。音楽を聞かせてくれた時、彼女たちが笑うのを待っていましたが、そんなことは起こりませんでした。これは真面目なもので、彼女たちはとても真剣でした」

エイミーの後の歌詞のテーマを考えると、『Boys・・・Who Needs Them』は特に魅力的だ。「男の子たちは私たちを放っておく/家には誰もいない」。2分30秒のこの曲で、エイミーとジュリエットがこう歌っている。「彼らは私たちを犬のように乱暴に扱うの」。残念ながら、カパディア監督が同曲をドキュメンタリー映画で使う権利を手に入れることは叶わず、またSweet'n'Sourの3曲はお蔵入りしたままだ。90年代、そしてエリカ・バドゥとローリン・ヒルの影響を大いに受けたR&Bナンバー『Beat the Point to Death』は、この頃のエイミーの音楽に最も近いと言えるだろう。そしてこの曲も未発表曲の一つだ。

『All My Loving』
エイミーの死後に発表されたアルバム『Amy Winehouse at the BBC』には、彼女が英BBCのテレビとラジオの特別番組で収録した、高音質のセッション音源が収められている。しかし、エイミーの創意に富んだ数多くのカヴァー曲は未発表のままだ。未発表カヴァー曲には、アメリカン・スタンダーズ『センチメンタル・ジャーニー』、2004年のビリー・ホリデイを追悼するラジオ・ドキュメンタリー・シリーズ『Billie and Me』で披露されたブルースのコアな一曲『エイント・ノーバディズ・ビジネス』、さらにはローリン・ヒル、マイケル・ジャクソン、マーヴィン・ゲイといった現代のアーティストのカヴァー曲などが含まれている。その中で最も素晴らしい一曲が、2004年のテレビ・ドキュメンタリー番組『Glastonbury Calling』のために収録された、この魂のこもったビートルズのアコースティック・カヴァーだ。

『You Always Hurt the Ones You Love』
エイミーの生活は2011年の初めまでに安定し、彼女は長く待ち望まれた3枚目のアルバムの制作に再び取りかかることができた。そしてアルバムの制作にあたり、エイミーは『バック・トゥ・バック』のセッションに参加した、マーク・ロンソンとサラーム・レミとタッグを組んだ。「この曲は、たしか彼女が亡くなる数週間前には書き終わっていたはず」。サラーム・レミはこう回想する。「把握している限りでは、14曲あったんだ。どんなことが起きても、音楽はそこにあった」。アルバムには、この悲しげな『You Always Hurt the Ones You Love』も収録される予定だったという。同曲のフルバージョンが存在するかどうか、それは未だ明らかになっていない。ドキュメンタリー映画『AMY エイミー』では、失敗に終わった恋愛に対する心痛む批判をエイミーが朗読するという、心打たれるシーンを見ることができる。

Translation by Miori Aien

JORDAN RUNTAGH

最終更新:8/6(土) 16:10

ローリングストーン日本版

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