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交渉上手なビジネスマンは相手の微表情をつねに察知している

HARBOR BUSINESS Online 8/7(日) 16:20配信

◆交渉上手は微表情を読んでいる

 みなさん、こんにちは。空気を読むを科学する研究所代表取締役の清水建二です。

⇒【資料】買い手の表情

 本日は、交渉を上手く進めるための微表情活用法についてご紹介いたします。

 交渉上手な人には共通した特徴やスキルがあるのだろうか、と日々様々な研究が重ねられています。そうした研究の中に、交渉能力と表情識別能力との関係について考察している研究があります。

 この研究によると、交渉の売り手側のスキルと表情識別能力とには正の相関が見られる、ということがわかっています。

◆相手の表情を察知しながら戦略を練る人が勝つ

 この研究の実験参加者らは売り手もしくは買い手役にランダムに割り振られ、一人の売り手と一人の買い手が二人一組で実験用に作られた電球の売買交渉ゲームをします。交渉ゲームの利得構造は、お互いがwinのwin関係になり得るように設計されているものの、個々の交渉スキルに応じて交渉後にそれぞれが獲得する利得は変化するように設計されていました。

 交渉ゲーム終了後、様々な表情写真が用いられ、実験参加者の表情識別力が計測されました。

 交渉ゲームの獲得額と表情識別力とを比べると、売り手側であった実験参加者の利得獲得額と表情識別能力とに正の相関が見られることがわかったのです。

 この実験結果と私たちの日々の交渉体験を合わせて考えると、商品・サービスの売り手側は、刻一刻と買い手の表情変化を読み取りながら、売り手は自らの利になるように交渉戦略を変化させていくのかではないかと考えられます。

◆買い手の感情の方向性に適正額を合わせる

 このことを具体的なシーンからご紹介したいと思います(※1)。シーンは、某コンサルタント契約の顧問料を決める一コマです。ご自身が売り手と想定して、買い手の表情変化からどう戦略を変化させるか考えてみて下さい。

売り手:ご相談のタスク内容を考慮致しますと、月額500,000円の顧問料が妥当かと存じます。

買い手:わかりました。一度、持ち帰らせて頂き…

問題:このとき、妥当な顧問料にするために買い手にどんな言葉を言いますか?

 まずは買い手の表情を正確に読みとることが大切です。眉が下がり、ホウレイ線のしわの上部のみが深くなり、上唇が上に引き上げられています。これは嫌悪の表情です。現実の交渉の場でこうしたネガティブな表情は微表情として、もしくは極微かな表情筋の動きとして表れてくることが普通です。嫌悪は受け入れ拒否を意味する感情です。つまり、この顧問料は高い、と考えている可能性が濃厚です。

 交渉をまとめ顧問契約を得る確率を上げるには、例えば、「ただし、月額500,000円というのは定価です。弊社としましても御社との関係は光栄でありますゆえ、もう少し値段を下げさせて頂ければと思っております。」といったように、顧問料を下げる、値段を下げなくても他の有料オプションを無料でサービスするという方法が考えられます。要は、買い手の受け入れ拒否の状態を取り除けば良いのです。

◆微表情を観て交渉をダイナミックに変える

 次の場合ならどうでしょうか?

買い手:わかりました。一度、持ち帰らせて頂き…

 左の口角に比べて右の口角が高く引き上げられているのがわかります。これは軽蔑の表情です。軽蔑は優越感を示す感情です。この顧問料を聞いて、買い手である彼は「安い!」と思ったからこそ優越感、勝ち誇った感情を感じた可能性が高いと考えられます。もちろんこうした感情を前面に表すわけにはいかないために、この表情も微表情や僅かな表情筋の動きを伴った形で表れてくるでしょう。

 軽蔑には、例えば、「しかし、この金額は契約期間が1年以上の長期契約の場合に適応される金額です。」「その他有料オプションをつけて頂く方が望ましく、例えば…」といったように、買い手の懐の余裕具合に合わせる方法が考えられます。

◆表情識別能力と情報の非対称性がカギ

 以上のように、相手の表情変化を観ながらダイナミックに交渉プロセスを変化させていくことができるのです。もうお気づきかと思われますが、ここでご紹介した交渉スキルに必要なものは、表情識別能力と情報の非対称性という条件です。買い手にとってベールに包まれた情報を、買い手の表情変化から情報の出し入れを調整し、交渉を治めていく方法です。買い手が知っている・知らない事前情報を常に意識し、買い手の表情変化からその情報を巧みに出し入れすることが交渉成功への必要条件となるでしょう。

※1実話を基に構成していますが、個人や企業名が特定されないように話を変更・脚色しています。

※2本稿で使用した微表情サンプル画像の権利は、株式会社空気を読むを科学する研究所に帰属します。無断転載を禁じます。

参考文献

Elfenbein, H. A., Foo, M. D., White, J. B., Tan, H. H, & Aik, V. C. (2007). Reading your counterpart: The benefit of emotion recognition accuracy for effectiveness in negotiation. Journal of Nonverbal Behavior, 31, 205-223.

〈文/清水建二・写真/写真素材ぱくたそ〉

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でコミュニケーション学を学ぶ。学際情報学修士。 日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、日本ではまだ浸透していない微表情・表情の魅力、実用例を広めるべく企業コンサルタント、微表情商品開発、セミナー等の活動をしている。また、政治家や芸能人の微表情を読んで心理分析するなど、メディア出演の実績も多数ある。著書に『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社がある。

【ビジネスで活用する微表情学第7回】

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/8(月) 0:34

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