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『もののけ姫』の石火矢衆は犬神人そのもの――祇園祭でも大活躍!中世賎民が担った役目

サイゾー 8/9(火) 15:00配信

――京都では、日本三大祭りのひとつ、祇園祭の季節がやってきた。実はこの伝統行事でも、中世賎民たちが重要な役割を果たしていたという。その役目とは?

 7月の京都といえば、祇園祭である。

 八坂神社の祭礼であるこの祭りは、1100年近い歴史を持ち、祭事が1カ月にわたる大規模なものであるため、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されているほどだ。しかし、そんな祇園祭において、中世賎民が重要な役割を担っていたことは、あまり知られていない。灘本昌久教授が解説する。

「中世の京都の様子を描いた『上杉本洛中洛外図屏風』(1574年)に、神輿を先導する6人の犬神人(いぬじにん)が描かれていたことは知られていたのですが、さらに古い、1500年代前半に描かれた『日吉山王祇園祭礼図』にも、神輿を先導する十数人の犬神人が描かれていたのを美術館で偶然発見しました。

 犬神人とは、祇園社の庇護下にあった下級の神職で、『夙』身分の賎民が担ってきた職です。しかし夙は、武家の台頭によって力をつけていた河原者(後の皮多、穢多)に権益を奪われ、江戸時代までに賎民としての職能をほとんど失ってしまった。同時に、犬神人も江戸時代には平人身分となったため、その頃から、祇園祭の先導を鎧兜で行うようになりました。ですから、『日吉山王祇園祭礼図』に、それ以前の犬神人を発見したときは興奮しました。
 犬神人は、今でいう警察と保健所の仕事を合わせた『清め』を行っていたため、神輿を先導していたのでしょう。当時、彼らは弓を製造・行商しながら、比叡山や祇園社の下で『清め』を行っていました。そのため、彼らの居住地は弓矢町と呼ばれ、この地名は今も残っています」

 古来、弓には邪を祓う力があると信じられ、天皇が即位する際にも弓の弦を鳴らす「鳴弦の儀」が行われていた。『清め』を担う犬神人が弓を製造・販売していたのも、おそらく偶然ではないだろう。

「今となっては有名な話ではありますが……宮崎駿監督の『もののけ姫』を初めて見たときは、度肝を抜かれました。登場する石火矢衆は、まさに犬神人そのものだったんです。ほかにも主人公のアシタカはアイヌ、ジコ坊は傀儡をなりわいとする唱門師がモデルで、タタラ場で働く病人はハンセン病者。エボシ御前に至っては、奈良時代にハンセン病者の膿を口で吸い出してまで救済にあたったとされる光明皇后の伝説を思わせます」(灘本氏)

 同作が公開された1997年は、部落解放同盟が社会主義的な階級史観を放棄した年でもある。これを境に部落問題への見方は大きく変わっていく。

「後に、宮崎監督が本の中で『侍に農民が虐げられている従来の構図ではなく、賎民などが活躍する物語を作りたかった』と書かれていて、納得しました」(同)

 今後もまた、自由な見地での研究が進めば、新たな躍動した賎民像が掘り起こされていくことになるのかもしれない。

最終更新:8/9(火) 15:00

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