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ヒップホップ史における重要な立役者「ラメルジー」とは何者か:死後評価が高まってる秘教的な作品と生

ローリングストーン日本版 8/9(火) 17:00配信

ローリングストーン日本版2016年6月号掲載

ラメルジー、視覚的言語の確信犯。
文字と言語の編纂と制限の理論と物語、"ゴシック・フューチャリズム"、"偶像破壊武装主義"、そして"アルファズ・ベット"を掲げる唯一無二のアーティスト、ラメルジーの秘教的な作品と生。



ニューヨークから世界に広まったヒップホップの歴史の初期の重要な立役者、ラメルジーは、(グラフィティ)ライターで、MC、コンテンポラリー/パフォーマンス・アーティスト、アニメ・プロデューサー、そして理論家でもある。2010年に彼は死んだが、残された作品はロサンゼルス現代美術館やニューヨークのPS1などメジャーなミュージアム、日本でも水戸芸術館などにこれまで展示され、その評価はどんどん高まっていく一方だ。なぜだろう?

2012年に彼のアルファベットの形をしたアート作品"レター・レイサー"を展示したギャラリー、スザンヌ・ゲイズのギャラリストは「ラメルジーを美術史のなかに位置づけることが重要」という。

ラメルジーという奇異な名前を持つこの人物のヒップホップの世界での評価は以前から高かった。より正確には、危険を顧みず1970年代にニューヨークの地下鉄システムに潜入し、列車の車両をグラフィティで装い飾り立てたラメルジー自身がヒップホップ・カルチャーを作ってきた人物なのだ。彼が生前残した決して多くないレコーディング作品のひとつ、K ーロブとのコラボレーション『ビート・バップ』は、史上最も高価なリミテッド・エディション(オリジナルは500枚のみ)のヒップホップのシングル・レコードだ。だから、彼の遺したものがシリアスな"アート作品"として価値を増していくのは、ヒップホップ・カルチャー自体が私たちの住むこの21世紀の社会のなかでの重要度を増していることと明らかな関係がある。

ラメルジーに黙示録的なヴィジョンが生まれた背景

ヒップホップ・カルチャーは、1970年代に財政破綻したニューヨークのゲットーから生まれたが、当然こうした社会や政治の失敗とそこから生まれたカル チャーには因果関係がある。当時の貧しいキッズたちは、自分たちの目の前にあるお金をかけずに始められる表現方法として、音楽(ラップ)、ヴィジュアル・ アート(グラフィティ)、体を使ったもの(ブレイク・ダンス)を選び、ある者は有名になっていったわけだが、ラメルジーは表現のスタイルをひとつに絞らな かった。なぜなら、彼はヒップホップをつきつめて、この世の中の矛盾は中世の教会が言葉と文字をコントロールしたからだ、という人によっては陰謀論めいたと思う理論『イオン論文』(略称)を1980年代に書き、それをラップや絵画、立体作品やパフォーマンスなど、あらゆる手段で表現した。彼のラップはフリー・スタイルの元祖というより、むしろ文学のいう"意識の流れ"に近く、ステージに立つ時はゴミから作られた幾つものキャラクターのコスチュームを着 て、その絵画作品はヨーロッパのコレクターたちが争って買い求めていた。そのすべては『イオン論文』のなかにある"偶像破壊武装主義"や"ゴシック・ フューチャリズム"といった彼独自の主張に基づいているのだ。

ラメルジーの存在と活動は、リアルタイムの音楽業界ではカルト的に見えたのが正直なところだし、またその死は孤独なものだったようだ。しかし、アフリカン・アメリカンの作った最大のカルチャーとしてのヒップホップの重要性が、音楽業界だけでなく行政、教育機関、現代アート業界でも認識されていく今、耳を削ぎ落としたゴッホではないが、彼のアートや振る舞いが奇矯だという誤解はとけた。ラメルジーに黙示録的なヴィジョンを作り出させたのは、当然、彼が生きた超現実的な70年代のNYゲットーなのはいうまでもない。

Edit by Hiroshi Kagiyama, Shun Sato

Hiroshi Egaitsu

最終更新:8/9(火) 17:00

ローリングストーン日本版

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