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夢の国を舞台にした極上の群像劇 『遊園地に行こう!』 (真保裕一 著)

本の話WEB 8/10(水) 12:00配信

 累計25万部を突破した「行こう!」シリーズ。第1作『デパートへ行こう!』では家族の再生を、第2作の『ローカル線で行こう!』は地域の再生を描いた。最新作の舞台は遊園地だ。

「最近の若い人は、夢を持ちにくくなっていると感じていました。正規雇用が少なくなっている現状を考えたら、そりゃそうだろうと。だけどアルバイトでも、目を輝かせながら働いている職場があると思い、遊園地に取材に行ってみたら熱量が凄かった。働く人が遊園地を好きなことに加えて、お客様に喜んでもらうことで喜びを得られる職場なんですね」

 一時は経営が傾いたが、奇跡の復活を遂げた遊園地ファンタシア・パークでは、子どもから大人まで、多くの人の笑顔があふれている。「夢の国」を支えるスタッフのひとり、北浦亮輔は頬の傷がコンプレックス。顔を隠せる“着ぐるみ”を希望して面接を受けたが、インフォメーションカウンターに配属されてしまう。差配したのは、50歳を過ぎてパークに入り、出世を遂げ“魔女”と呼ばれる及川真千子。彼女の導きで、亮輔は働く喜びを得ていく。この魔女がスタッフの心に火を付ける一方で、パークに騒動を巻き起こしていく。

「私が小学生のころ、隣町に遊園地があって、親にせがんで何度も連れて行ってもらいました。今、振り返ると楽しい思い出だけではないんです。両親が不仲だったこともあり、一緒に行くのはいつも片方の親だけ。園を出た瞬間、現実に引き戻されたことを覚えています」

 だからこそ著者は、喜びだけでなく、パークに集う人の切なさも描いている。

 大学でロボット工学を専攻した前沢篤史はかつて、「自らの夢が実現すれば、妻も喜んでくれる」と信じ、工作機械メーカーで仕事に打ち込んでいた。リストラで職を失い、妻から離婚届けを突き付けられた男は、再就職としてパークにやってきた。ままならない人生を歩んできた前沢に訪れた小さな幸せと、元妻とのエピソードには、思わず、ほろっとさせられる。

「小説を書き始めて、25年が経ちましたが今回、遊園地でアルバイトする人たちの“プロの仕事”を目の当りにして、小説が好きだから物語を書いていることを改めて思い出しました。“読者にとことん楽しんでもらいたい”という気持ちを込めた作品です。幸せなことに自分には書きたいテーマがたくさんあるんです。これからも、読者に何を届ければいいか、悩みながら、書き続けていきたいと思っています」

真保裕一(しんぽゆういち)

1961年生まれ。91年『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。96年、『ホワイトアウト』で吉川新人賞、97年、『奪取』で山本周五郎賞などを受賞。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:8/10(水) 12:00

本の話WEB