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不正会計疑惑に揺れる伊藤忠商事、「商社トップ」の裏に巧みな広報戦略

HARBOR BUSINESS Online 8/10(水) 9:10配信

 7月にグラウカス・リサーチグループという米国の空売りファンドが日本に上陸し、27日には「伊藤忠商事が不正会計をしている疑惑あり」とのレポートを発表した。

⇒【資料】商社各社の収益と純利益

 伊藤忠商事といえば、今年の1月に「総合商社のトップに立った」というニュースが経済誌を騒がせた。三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅というほかの大手総合商社を純利益ベースで抜き、首位になったというのだ。それに関連して、岡藤正広社長に躍進の理由を問うインタビューや、苦戦した三菱商事、三井物産の経営幹部にコメントを求めた記事も多数出た。

 確かに「伊藤忠が純利益ベースで首位になった」のは事実だが、5社の経営指標をつぶさに比べると、違った実態が見えてくる。

◆「商社トップ」は他社の自滅のおかげ

 まず純利益を比較すると一目瞭然だが、三菱商事と三井物産は赤字である。残る三社のうち住友商事も丸紅もほとんど利益は出ていない。要するに、今季の決算は最低限の黒字さえ出していれば、トップになれる勝負であり、単なる他社の自滅なのである。もちろん、これは伊藤忠の岡藤社長も認めるところだ。

 他社自滅の理由は多額の減損損失だ。減損とは、保有した資産の評価額を下方修正した際に生じるものである。伊藤忠以外の4社は資源に多額の投資を行っていたが、その価格が下落したため減損額が膨らんだのだ。

 対して、伊藤忠は売上高のセグメントごとの内訳を見ればわかるように、繊維・機械・金属・エネルギー・食料・住生活と多角化を進めている。そのため減損額が1社だけ少なかったのだ。

 しかし、商社の総資産のうち8割程度を占める投資有価証券の総額をみて見ると、2.3兆円程度の伊藤忠は、4.8兆円ある三菱、3.7兆円の三井に遠く及んでいないことがわかる。資産が少なければ、減損する額も当然少なくなりやすい。

 時価総額でも3位、本業によって稼いで手元に残ったお金を示す「営業キャッシュフロー」でも4位と、伊藤忠が首位になる指標はかなり少ない。

 ただ、そんな伊藤忠が純利益以外でもダントツトップになっている分野がある。それは社員数だ。なんと連結で10万人を超え、他社に倍ほどの差をつけている。

 これは逆にいえば、従業員一人当たりの売上高は非常に低いことを示している。非資源は資源と比べて、減損を出すリスクは低いものの大きな売上をつくることが難しいのである。

 実際、伊藤忠の各セグメントごとに従業員一人あたりの収益を出してみると、非資源と資源では桁違いの収益性であることがはっきり見て取れる。非資源である繊維や住生活は3000万円台であるのに対して、エネルギー・化学では1.3億円、金属に至っては4.3億円にも達する。

 商社の本質は「稼ぐ」ことにあるとすると、これまで見てきたさまざまな面から伊藤忠がトップであるとは言い難い。純利益という1つの指標だけに経済アナリストや経済誌がスポットライトを当てすぎているのだ。

 そもそも過去5年間の推移を振り返ると、伊藤忠の純利益はほぼ伸びていないことがわかる。’15年度は前期比で増益を見込んでいたが、他社の減損額が大きいため余裕で純利益トップになれると見るや、急遽追加で自社も減損を出し、減益した。

 早めに減損を出しておけば、来期以降で計上する額を減らせて、利益を積み上げやすいからだ。このように、’10年に岡藤社長が代表取締役に就任して以降の伊藤忠は、見せ方が非常にうまい。

◆米国ファンドが警告する伊藤忠の損失隠し

 前述したとおり純利益はほとんど伸びていないにも関わらず、株価は5年間で3倍弱にまで上昇している。株価は純利益と会社への期待度で決まるが、伊藤忠は後者を引き上げるのに長けている。

 昨年1月、当時からチャイナリスクがささやかれつつあったにも関わらず、中国の国有企業にタイの財閥と合弁で1兆円以上もの投資を行って攻めの姿勢を見せた。その後半年間、伊藤忠の株価は上がり続けた。

 これについても、伊藤忠の出資分は6000億円ほどだったが、経済メディアにはなぜか”1兆円”という数字が踊った。

 このように、近年の伊藤忠はブランディング、PR戦術に非常に長けているといえる。合法の範囲でよく見せるならば問題ないが、今回米国のファンド・グラウカスが指摘しているのは、意図的に減損額を小さく見積もっているのではないかという点だ。

 これからのグラウカスの追及と伊藤忠の情報開示により、真相が明らか担っていくのに期待したい。

 ところで、本稿をはじめ当連載では、公開情報を読み解くことで企業の意外な実態を知れるということをテーマにしているが、逆に言えば、日本の経済メディアは数字の読み込みが甘く、印象論で企業報道を行うことがたびたびある。証券会社のアナリストなどと違って、記者・デスクに会計知識がないことも多いからだ。

 意図的でなくとも経済メディアが企業のPRに加担してしまっている可能性もあると念頭に置いて、ビジネスパーソンは実態をきちんと事実に基づいて見定める必要がある。

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○瀧本哲史ゼミ出身。現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/11(木) 12:56

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