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「未来のバスキア」と巡り合うための1000万円[小山薫堂の妄想浪費 Vol.13]

Forbes JAPAN 8/11(木) 17:00配信

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第13回。20代でワイン好きになったきっかけ、50歳で世界一周したときの仰天な体験……。アートにまつわる記憶を思い返していたら、その価値の在りかが見えてきた。



ボルドーの5大シャトーのなかでも、特にブランド戦略に長けているのがシャトー・ムートン・ロートシルトだと思う。ワイン好きなら誰でも知っている話で恐縮だが、オーナーのフィリップ・ド・ロッチルド男爵は、年ごとのラベルのデザインを、そのときどきの著名な芸術家に依頼するという案を思いついた。それで1946年以降、ラベルには偉大な画家や彫刻家による作品が印刷されている。70年はシャガール、73年はピカソ、75年はアンディ・ウォーホル、88年はキース・ヘリングというように。

じつは20代の僕がワインを好きになったきっかけが、このムートンだった。先輩に「レストランでオーダーするとき、年代じゃなくて画家の名前を言うとカッコいいよ」と言われたのだ(笑)。僕は一生懸命「○○年は誰それ」と暗記し、デートの際に「ムートンのシャガール、あります?」などとソムリエに尋ねた。ワインが出てきて、女の子が「わあ、私のバースデイ・ビンテージじゃない!」と喜んでくれたのは言うまでもない。

こんな事件が起きたこともある。93年のラベルは、バルテュスによる横たわる裸のニンフ。しかし、幼児虐待という意味合いでアメリカのATF(注1)に使用を拒否され、アメリカ輸出用のボトルのみ、デッサン画が削除された。つまり93年は2種類のラベルがあるのだ。コレクターは両方揃えたいので、売れ行きが非常に良かったらしい。まさに、災い転じて福となったわけだ。ちなみにラベルへ作品を提供してくれた作家に対するギャランティは現金ではなく、その年のワインが数ケースプレゼントされるという実まことしやかな噂もある。なんとも粋な話ですね。

ボルドーの5大シャトーのなかでも、特にブランド戦略に長けているのがシャトー・ムートン・ロートシルトだと思う。ワイン好きなら誰でも知っている話で恐縮だが、オーナーのフィリップ・ド・ロッチルド男爵は、年ごとのラベルのデザインを、そのときどきの著名な芸術家に依頼するという案を思いついた。それで1946年以降、ラベルには偉大な画家や彫刻家による作品が印刷されている。70年はシャガール、73年はピカソ、75年はアンディ・ウォーホル、88年はキース・ヘリングというように。

じつは20代の僕がワインを好きになったきっかけが、このムートンだった。先輩に「レストランでオーダーするとき、年代じゃなくて画家の名前を言うとカッコいいよ」と言われたのだ(笑)。僕は一生懸命「○○年は誰それ」と暗記し、デートの際に「ムートンのシャガール、あります?」などとソムリエに尋ねた。ワインが出てきて、女の子が「わあ、私のバースデイ・ビンテージじゃない!」と喜んでくれたのは言うまでもない。

こんな事件が起きたこともある。93年のラベルは、バルテュスによる横たわる裸のニンフ。しかし、幼児虐待という意味合いでアメリカのATF(注1)に使用を拒否され、アメリカ輸出用のボトルのみ、デッサン画が削除された。つまり93年は2種類のラベルがあるのだ。コレクターは両方揃えたいので、売れ行きが非常に良かったらしい。まさに、災い転じて福となったわけだ。ちなみにラベルへ作品を提供してくれた作家に対するギャランティは現金ではなく、その年のワインが数ケースプレゼントされるという実まことしやかな噂もある。なんとも粋な話ですね。

注1.Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives(アルコール・タバコ・火器および爆発物取締局)のこと。
--{ふたりの熱烈なファンから始まる}--
アートではもうひとつ思い出がある。

50歳のとき、記念に1カ月の休暇を取って、旅をした。和歌山の熊野古道を3日間巡礼したり、イスタンブールからサンクトペテルブルクまで、バックパックで19日間の世界一周をしたり、非常に有意義な時間を過ごした。

その休暇の半ば、ニューヨークのホテルのバーでお酒を飲んでいたときのこと。バーのオーナーはダニエル・ブルーというフレンチ界のスターシェフなのだが、僕を見つけるなり「久しぶり! 元気かい? ゆっくり話したいんだけど、これからミック・ジャガーの相手をしに行かなきゃならないんだ。何か好きなお酒、飲んでいっていいから」と言われた。すると一部始終を見ていた僕の隣のアメリカ人男性が、ダニエルのファンらしく、「君は彼を知っているのかい?」と訊いてきた。「うん、昔からの知り合いなんだ」と答えると、羨ましそうに僕を見つめてから、「君はアートに興味ある?」と尋ねる。「あるよ」「いつまでニューヨークにいる?」「明日の夕方の便でイスタンブールに行かなきゃいけないんだ」「じゃあ明日の午前中に俺の事務所に来てくれ」。そう言って、彼は僕に名刺をくれた。フレデリックという名前だった。

翌朝、トランプタワーのなかにある彼のオフィス兼住居を訪ねると、そこはアートギャラリーのような趣。フレデリックは画商だった。エゴン・シーレや現代アートのすごくカッコいい作品をたくさん見せてくれたあと、彼は風景画が2点かかっている壁へと僕を案内した。「モネだよ。こっちは15億、あっちは22億」。その金額にさすがに驚きを隠せずにいると、「もし君が日本人のお客さんを探してきてくれたら、手数料として5%あげる」と続けるではないか(笑)。そして自分は近代美術館に卸したりしているし、怪しい者ではないからと、プロフィールと作品リストをメールしてくれた。きっと僕がダニエルと知り合いだから、アート好きな日本人の資産家くらい知っているんじゃないか、と踏んだのだろう。残念ながら、なかなか15億のモネを買うような知人は見つからなかったのだけど。

考えてみると、アートの価値というのは、その作家や作品に対してどれだけ深く熱中してくれる人がいるか、という気がする。たとえば奈良美よし智ともさんの絵を10万円なら買うという人が1,000人いるより、1億円でも買うよという人が3人いるほうが、作家に対する価値が高くなる。もっと言えば、ふたり、熱烈なファンがいれば、その人が巨匠になり得る可能性が出てくる。オークションでふたりが競り合って高額な価格で落札された瞬間、作品の価格は作家の価値となり、一般的に周知されていくわけだから。

なんにせよ、人の才能やつくった作品にお金を張れる人というのは素晴らしい。アートにおけるお金というのは、それ自身を輝か
せるスポットライトのようなもの。作家だけが文化をつくりだしているのではない。スポンサーやパトロン、ファンだって文化に貢献しているのだ。

もうひとつ、アートの価値という観点で素晴らしいと思っていることがある。お茶の世界で茶道具の良いものを持っている人は、「お預かりしている」という言葉をよく口にされる。自分が所有しているのではなく、「いまの時代は私が預かることを許された」という美意識。そうやって時代を経て、人から人へと作品を受け継いでいくことで、価値というのはいや増すのだろう。
--{ 「誰と出会ったか」ですべては決まる}--
僕は芸術系大学の教授もしているのだが、芸術大学は「1%の天才と99%のニートをつくっている」と揶揄されることもある。しかし、仕事でもなんでもすべてをアートと捉えて考えると、クリエイティビティはもっと生まれるのではないだろうか。たとえば道の案内板を各地方のアーティストがつくったら、実用性と芸術性の狭間で悩んだ末に、良いものが生まれるかもしれない。銭湯にある雄大な富士山の画だって、プロの銭湯絵師を存続させ、眺めるお客さんを癒すという、大き
な価値を生み出している。

それから常々思うのは、作品の価値とはクリエイティブそのものだけでなく、「誰と出会うか」が重要だということ。そこで無名のアーティストたちがパトロンに出会うための仕組みを提案したい。たとえば、クリスティーズによる将来性の高い無名作家を発掘するチームがあって、ジェット機で世界を横断しながら、その作家の卵たちのアトリエを回るツアーを企画するなんてどうだろう? ツアーの価格設定は1,000万円くらい。そのツアーで出会い、自分が買った無名作家の作品を自らの力で育て上げていく。先日、ZOZOTOWNの前澤友作さんがバスキアの作品を約62.4億円という、バスキア史上最高値で落札していたけれど、バスキアだっ
てウォーホルが見つけなければアート界に存在し得なかった。未来のバスキアと巡り合うための代金が1,000万円なら、決して高くないと思う。

小山 薫堂

最終更新:8/11(木) 17:00

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