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ジョージ・マーティンの息子が語る父親の才能、ビートルズ『Love』の音楽制作

ローリングストーン日本版 8/11(木) 12:00配信

ジャイルズ・マーティンは回顧する。「僕は生前の父にこう言った。"親父のおかげで、いったいどれくらいの人が幸せになれたか想像してみなよ"ってね」

ビートルズ『Love』10周年、ポール、リンゴらがリニューアル版のショーを祝う

音楽プロデューサーのジャイルズ・マーティンは、完璧であるだけでは満足できない男だ。アクロバット集団シルク・ド・ソレイユのラスベガス公演であるザ・ビートルズ『Love』の音楽監督として、ビートルズのもっともおなじみの曲のマッシュアップを作り出し、鮮烈かつサイケなサウンドトラックとして使うというのは、彼の10年前のラディカルなアイデアだった。オリジナル版の舞台音楽とサウンドトラック・アルバムを、ビートルズのプロデューサーだった父親、故ジョージ・マーティンと作り上げたのも彼だった。

こうした経緯もあって、ジャイルズ・マーティンは新世代のビートルズ・カタログの守護者となった。彼は昨年、ビートルズのデラックス版のコンピレーション・アルバム『1+』のリマスタリングを行った。さらに、マーティン・スコセッシ監督によるジョージ・ハリスンのドキュメンタリー映画『ジョージ・ハリスン リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』でも音楽を担当、近日発売の1977年作品『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』のリミックスとリマスター、さらにロン・ハワードがビートルズのツアーを描いた新作ドキュメンタリー『The Beatles: Eight Days A Week - The Touring Years』のミキシングも担当している。ポール・マッカートニーの2013年の最新作、『NEW』をプロデュースしたのも彼だ。

リニューアル版の『Love』は7月にミラージュ・ホテル・アンド・カジノで正式にプレミア公演され、ビートルズの生存メンバー、マッカートニーとリンゴ・スターの姿も客席にあった。「このショー全体をリミックスし、再録音することが自分のやるべきことだと思った。もっと良い作品にすることができるなら、そうすべきなんだ」とマーティンはローリングストーン誌に語っている。「昔のテープ素材からもっとたくさんのものを引き出し、いっそうクリアで良い音にする方法を見つけたんだ」。彼はこのほかにも、父親の後を継ぐことについて、ビートルズのマスターテープから学んだことについて、そしてポール・マッカートニーのスタジオでの様子について、本誌に語ってくれた。

--{ジョージ・マーティンの息子が語る父親の才能、ビートルズ『Love』の音楽制作(2)}--

—10年前に『Love』が開演した時、大変な評判を呼びました。当時からすでに、リニューアルを考えていたのですか。

もちろんだ。みんなが気に入ってくれたことはうれしい。もともとの制作もたぶん、僕の父に褒めてもらいたい、そしてビートルズに褒めてもらいたいというところに端を発している。ラスベガスはおかしな場所でね、誰もがここにやってきては劇場に足を踏み入れ、音楽を聴いて別世界に誘われると、少し良い気分になって帰っていく。

このプロジェクトを始める時に、"ジョージ・マーティンの息子がビートルズのテープをズタズタに切り刻んでラスベガスのショーを作る"と説明されていたら、「それは本当にくだらないアイデアだ」と思っていたかもしれないね。まったくひどい話だからさ。でもそこで僕は考えたんだ。ひどいアイデアだとしても、まずはこの仕事を楽しんでみよう、親父とビートルズの話をすることも楽しもうってね。作品を発表して、ビートルズのファンが本当に気に入ってくれた時には、感激だったよ。

−あなたはこういう仕事をすべく育てられたようにも見受けられますが、そんな見方は現実とは違いますか。

僕は、曲作りやバンド活動をしたいと希望に燃えていた傲慢なイギリス人だった。実際にやったしね。やがてこの話が来て、テープをバラバラにつないでみるというアイデアを思いついた。そのアイデアにゴーサインが出た時、僕は友だちのプロデューサーにこう話したんだ。「やれやれ、こんな仕事をすることになった。感情面はともかくも、プロフェッショナルとしてこんなにも親父のそばにいたいのかどうかはよく分からない」。そうしたら彼はこう言ってくれたんだ。「いいか、ジャイルズ。せっかくのチャンスをもらったんだ。どれほど多くの人が、こんな仕事をしてみたいと思っているか分かるか」。僕は「オーケー、分かったよ」って。ビートルズの音楽を混ぜ合わせることについて、ビートルズに任せてもらえるなんて、自分がどれだけ恵まれているのか、どれほどありがたいことなのか、考えただけで押し潰されそうだった。

−それは子どもの頃のあなたから思えば、考えられないようなことなのか、それともこうした機会は常にありましたか。

考えられないことだ。だって僕はスティーヴィー・レイ・ヴォーンになりたかったんだよ。聴いていた音楽はフリーとハンブル・パイだ。『ホワイト・アルバム』を初めて聴いたのは19歳の時でね。ビートルズはあくまで親父の案件だったんだ。

—『Love』の音楽で目標にしたことは何ですか。

今の世の中はいつでもどこでも音楽があふれている。僕の仕事が優れているかどうかは関係ない。ただ、素材に手を加えたり、こんな風に音楽を提供することで、みんなの注目を浴びることができる。そうすればみんなが聴き始めるんだ。

--{ジョージ・マーティンの息子が語る父親の才能、ビートルズ『Love』の音楽制作(3)}--

—あなたはビートルズのテープ素材を熟知しているごくわずかな人間の一人となりましたが、ビートルズの音楽に対する認識は変わりましたか。

ポールは、「キミはテープ素材のことを他の誰よりよく知っている」と言ってくれた。別に自慢するわけじゃないけれど、恐らくそうだろうと思う。全部を聴いたんだ。テープに何が収められているのか、どこでバンドが破綻していったのかも知っている。僕は彼らの仕事をより深く理解できるようになった。彼らの仕事は驚くほどに複雑でありながら、本質的にはシンプルで、非常に効率的なんだ。

『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』を例にとってみよう。シンプルな演奏の、極めて複雑な曲だ。最初のトラックには、アコースティックギターとマラカスが使われている。ジョージはコンガを叩いているし、ポールはピアノを弾いていて、ジョンの生歌も聞こえる。4人が一緒に演奏していて、何の編集も入っていない。2番目のトラックでは、リンゴがドラムを叩き、ポールがベースを弾いている。そこにヴォーカルのオーバーダビングとストリングスが乗ってくる。レコードを聴いていると、別世界に誘ってくれる。実に画期的だよ。こうしたテープ素材に親しみすぎるほど親しんだことで、深く味わうことができるようになった。「何てことだ、こんなにシンプルだったなんて! この人たち何人かでやっているだけじゃないか!」ってね。もっといろいろなトリックが山のようにあるのかと思っていたんだよ。

—テープ素材に触れることを許されている人はそんなにいません。

僕の脳みそはこの仕事に、少し異様なくらいに適しているみたいなんだ。ビートルズの音楽を切り刻んで、視覚的にどうあるべきかを考えることがとても得意なんだ。僕の精神性に合っている。この仕事は少しサーフィンに似たところがあって、ビッグウェーヴには乗りたいけれど、実際に乗ってみるとチビるくらいに怖い。ビートルズの音楽にはそんなところがあるんだ。「大変だ、まだこんなことをしていていいのかな、舞台が台無しにならないかな」と思う。拷問だよ。でも、きちんと作って舞台を見れば、「ああ、これで大丈夫だ」と思うんだ。

—リニューアル版の『Love』に、お父様は多少なりとも関わっていたのですか。

話はしていた。父は今年90歳で死んだけれど、こう言っていたよ。「80代になったら、もう神様の待合室にいるようなもんだ」。60代、70代と、彼の聴力は衰えていった。この舞台を最初に制作した時は、僕にとっては父は相談役で、色々な話をしたんだ。でも、父のありがたさを本当に理解できたのは、今回僕がこの仕事をすることになって、父がいなかった時だった。『ヒア・カムズ・ザ・サン』を編集しているのに、それを聞いてくれる人がいない。不出来かどうかすら、分からなかったんだ! 父はいつも常識を代弁してくれていた。ビートルズにとってもそうだったんだと思う。でも、このリニューアル版を制作する頃には、父がもう体調が悪すぎたし、歳をとりすぎていた。

ある時、僕が何かの作業に困って、ベッドに寝ている父のところに楽譜を持って行ったことがある。そうしたら父は僕を見てこう言ったんだ。「なぜ私のところに持ってくるんだ? 私はもうやめたんだ」。僕は生前の父にこう言ったことがある。「親父、あなたがビートルズを作ったんだ。そのおかげで、いったいどれくらいの人が幸せになれたか想像してみなよ」ってね。すると父はこう言った。「一生懸命やっただけだよ」。父はそんな具合だったね。

--{ジョージ・マーティンの息子が語る父親の才能、ビートルズ『Love』の音楽制作(4)}--

—『Love』お披露目の頃、ちょうどマッシュアップも最初のブームでした。

マッシュアップは面白いなと思った。僕は、「バンド自身が自らをマッシュアップしたら、どうなるんだろう」と思ったんだ。

—"ブラック・アルバム"というアイデアはご存じですか。ビートルズ・メンバーのソロ作品から、ファンが自分なりの"その後のビートルズ"アルバムを作ることを言います。

いや、知らないけどクールなアイデアだね。僕も何年か前に考えたことがあるよ。スコセッシの映画『ジョージ・ハリスン リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』の仕事をしていてこう思ったんだ。『オール・シングス・マスト・パス』『イマジン』『メイビー・アイム・アメイズド』『想い出のフォトグラフ』をマッシュアップしたらすばらしいだろうな、ってね。僕もずっとやってみたいことだね。大人の事情で、僕がやるにはちょっと地雷があるんだけど。

マッシュアップで大事なのは、まさに創造力なんだ。4つの合計は、それぞれの個よりも優れていなければならない。ビートルズも自分自身にそう言い聞かせていたんじゃないかな。彼らは素晴らしいレコードを作った。父もそうだ。父がジェフ・ベックと作った作品は驚くほどだ。でも後知恵というのは使えるものでね、振り返って「見てみろ、この瞬間が世界を変えたんだ」なんて指摘することができる。そんなことができる人はまずいないからね。

—メンバーは何と言っていましたか。

『Love』を最初に制作した時を振り返ると、『カム・トゥゲザー』のことを思い出す。4人そろって演奏していた『アビイ・ロード』時代の曲だ。ポールとリンゴが別々にやってきた。曲は高音質で、内容満載で、全てを聴き取ることができた。じっと座って曲を聴くと、2人ともが同じことを言った。ポールの言葉を借りると、「この日のことは覚えているよ。いいバンドじゃないか」ということだった。彼のような人が聴きに来てくれて、昔を懐かしんでくれる。ああいう人は昔を振り返ったりしないものなんだよ。父にしてもそうだった。ただ、「当時の感覚を思い出すよ」と言っていた。こうしたことが僕の中にもっとも強く刻まれている。

—ポール・マッカートニーのアルバム『NEW』ではプロデューサーも務めましたね。

楽しい時間だった。おかしなことに、僕と父を比較しなかったのは彼が初めてだった。家族ぐるみでしっかり付き合いがあると、かえってそういうことをしないんだね。ポールはスタジオでもっとも刺激的でクリエイティヴな人の一人だ。何にでも挑戦しようとする。それが今でも彼の姿勢なんだよ。

Translation by Kuniaki Takahashi

STEVE APPLEFORD

最終更新:8/11(木) 12:10

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