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川本三郎「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

Book Bang 8/12(金) 8:00配信

 久しぶりに若い頃の血が騒ぐ小説を読んだ。

 高部務『新宿物語’70』。新宿の町がもっとも熱かったあの頃を描いた感動作。

 フーテン、家出少女、落ちこぼれの学生、おかま、テキヤ。表通りからではなく裏通りから町の熱気をとらえてゆくのが新鮮。

 著者は当時の若者だけに新宿を生き生きとよみがえらせている。あの頃の新宿をこれほどきちんと描いた小説は始めてではないか。

 対照的に木村紅美『まっぷたつの先生』は、現代に生きる働く女性たちを優しくとらえている。

 小学生の子供と先生が二十年後、それぞれどう生きているか。とくに、転校してきたためにいじめに遭った子供と、それを見て見ぬふりをした先生のその後が読ませる。文章が落着いていて品がいい。

 アメリカの作家、詩人メイ・サートン(1912─95)は日本では1991年に出版された『独り居の日記』で知られる。

 メイン州の海辺の家に一人で住み、静かな創作の日々を送った。『70歳の日記』でもその静穏な暮しは変らない。むしろ今が人生で最良の時という。

 選んだ孤独はよい孤独という。著者の老いが充実しているのは、好きな世界がたくさんあるからだろう。

 読書、音楽、庭いじり、猫、そして友人たち。老いを感じている暇はない。

 大ヒットを記録してきたジブリ作品を裏方として支え続けてきた鈴木敏夫の『ジブリの仲間たち』は映画にとっていかに宣伝が大事かが熱く語られる。

「ヒットはある程度、狙って出すことができる」。なぜヒットさせたいのか。製作費を回収して次回作を作りたいから。その心意気こそがヒットを生む。

 難解と決め込んでいた哲学者だが、池内紀『カント先生の散歩』を読むと親近感を覚えてくる。

[評者]――川本三郎(評論家)

※「週刊新潮」2016年8月11・18日夏季特大号掲載

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最終更新:8/12(金) 8:00

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