ここから本文です

勝利目前での敗北から始まった遅咲きの競技人生

Wedge 8/12(金) 16:00配信

 ギラギラと輝く太陽と潮風が彩る夏の海。海水浴客でにぎわう浜辺に同化する赤と黄色のユニフォームを着たライフセーバーたち。彼らは自己主張することもなく、人の良いお兄さん、お姉さんといった雰囲気で浜のパトロールにあたっているが、見た目ほど楽なものじゃないと書いておきたい。

 それぞれが目指すものはただひとつ「水辺の事故ゼロ」の夏である。その言葉の意味がどれほど重いものかは夏場以外の10カ月間の過ごし方に表れている。

 夏真っ盛りの今、そんなライフセーバーの一人であり、レスキューアスリートとして世界のトップに挑み続ける植木将人(うえきまさと)の「あの負け」の物語をご紹介したい。

世界の頂点、掴んだその手から消えた瞬間

 ドイツ・ヴァーネミュンデで行われた「ライフセービング世界選手権大会Rescue2008」。植木は初めて出場した世界選手権のビーチフラッグス競技で、世界一を決する最後のレースに臨んだ。

 落ち着いていた。気負いもなく、いつもと何ら変わることなく世界の大舞台へと挑めた。植木は自身の強みはどんな時でも平常心でいられることだと思っている。このレースに勝てば世界一という、その場になっても、なお平静と変わらない精神状態で臨むことができた。

 「いま振り返っても、僕の完全な勝ちパターンに入っているんです。良いかたちでスタートすることができて、フラッグまでの20メートルの全てをリードしていたんです。ダイブして、『勝った“世界一”取ったぞ!』とフラッグを掴む瞬間まで勝利を確信していました。でも、僕の手にフラッグはありませんでした。掴んだはずのものが、消えていたんです。信じられなかった。なぜだ? ……と理解するまでに少し間があったと思います。悔しさといっしょに手の中になかった感触が、いまでもリアルに残っています」

 決勝で競った相手はニュージーランド代表のベンジャミン・ウイルス。

 試合後、ビデオで確認すると確かに体感していたように植木が終始リードしていた。しかし、植木よりもウイルスが一瞬速くダイブし、直後に植木がダイブするというタイミングのズレがあった。そしてウイルスはリーチを生かして、いち速くフラッグを掴んだ。それも植木が掴もうとする、その上を抜くようにして。

 全ては舞い上がる砂の中で起こったマジックのような一瞬だった。植木将人29歳の夏である。

1/4ページ

最終更新:8/23(火) 17:06

Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2016年12月号
11月19日発売

定価500円(税込)

■特集 クールジャパンの不都合な真実
・設立から5年経過も成果なし 官製映画会社の〝惨状〟
・チグハグな投資戦略 業界が求める支援の〝最適化〟
・これでいいのかクールジャパン

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。