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世界シェア90%超! 手書き入力技術のトップランナー

HARBOR BUSINESS Online 8/12(金) 16:20配信

「特定のユーザー層に支えられている」というニッチな分野ではあるが、日本市場・世界市場ともにシェア9割前後と圧倒的な企業がある。

 ペンタブレットの老舗メーカーであるワコムである。

 ペンタブレットとは、PCに電子ペンで入力する際、センサーによって位置情報や筆圧の情報を感知し、まるで本物のペンや筆で描いているかのような描き心地を実現するというデバイスだ。

 同社はクリエーター界隈では知らぬ者はない存在となっているが、その土台はどのように築かれたのか?  広報部長の 菅野哲央氏に聞いた。

「設立は1983年。当初から『人とコンピューターの調和ある発展』というテーマの下、インターフェース機器の開発に従事していました。間もなく電子ペンを使った入力機器の利便性に着目し、1987年には最初のコードレス・ペンタブレットの製品を販売し始めたのです」

 当時のPCは、マウスやキーボードによるコマンド入力が主流であり、人類が何世代にもわたって親しんできた直観的な入力ツールであるペンが、コンピュータでも使えるようになるということは、実に革新的だった。

 さらに、写真・音楽・映像などの分野でデジタル化が始まっており、アナログの記録媒体がデジタルデバイスへ置き換わっていく黎明期でもあった(1994年に登場したデジタルカメラが25万画素という時代だ)。

 ターニングポイントは1990年。ディズニーからのオファーが届いた時だった。

◆ハリウッドのクリエイターに支持

「当時、米国やヨーロッパでも販売・マーケティング活動を行っていたのですが、今の社長(山田正彦氏)が米国に駐在していたんですね。本拠地は、映画産業やIT産業の中心地である西海岸です。そこにはグラッフィックコンテンツを扱う企業やクリエイターたちの濃密なネットワークもあったおかげで、ワコムの評判が広がっていったようです。そこで、ディズニーがデジタルで映画『美女と野獣』を製作する際にワコムのペンタブレットを使ってみたいという話があり、導入に至ったのです。この時、一流のクリエイターたちからのフィードバックも多数あり、よりクオリティを高めるための礎が築かれました。また同時期にナイキのデザイン部門の現場にも同社のペンタブレットが導入されています」

 これをきっかけに知名度や信頼を得たのか、1995年頃から急激にシェアが上がっていった。その背景には業界内での口コミも作用していたようだ。

「クリエイターは作品の質を高めるために、より良いデバイス、より新しい技術に敏感です。彼らの情報交換の中で、ワコムのペンタブレットが話題に登るわけです。あるいは、デジタルでイラストレーションを始める人に、同社のペンタブレットを薦める。その連鎖があったようですね。現在、ワコムはユーザーのための作品発表サイトを用意したり、若手クリエーターの育成などを後押ししています。クリエーターの方々から、製品を使った感想をダイレクトにもらうことができるので、それに対して改善を図ることで製品の質を向上させています。その好循環が出来上がっているのは強みでしょうね」

◆プロユースから一般ユーザーへの広がりも

 2000年ころになると、PCの普及と共に、ペンタブレットも一般ユーザーに普及し始める。

 同社も『FAVO』などの普及機をリリース。現在、ユーザー数はプロクリエイターよりも一般ユーザーのほうが多くなっているほどだ。他社からはワコム製品より安価な製品が登場しているが(約3分の1の製品さえある)、それでも圧倒的なシェアは揺るがない。

 ここ10数年、日本の大メーカーでさえ苦境を迎えているにも関わらず、ワコムが20年にわたって業界トップを確保し続けていられるにはなぜなのか?

「技術を特許で守っている部分もあるのですが、特許は20年で有効期限が切れてしまいます。重要なのは、その特許の上に膨大なノウハウが乗っていることで、20年前の特許を使ったからといって、ワコムと同じものは作れないし、追いつくこともできないのです」

 またペンタブレットが趣味性の高い機材であるというのも関係している。

「ペンタブレットは必需品ではなく、あくまで趣味の品です。それだけに、“安さ”よりも“良いアウトプット”への欲求が非常に強いのです。筆圧もワコム製品はハイエンド機種では2048段階まで対応し、触るか触らないかという微妙なストロークも検知します。だからこそ、繊細なタッチを再現できますし、デジタルであることに違和感を感じない。それがクリエーターの支持を得ているのだと思いますね」

◆ペンタブレットにとどまらない展開

 ワコムはユーザー向けのペンタブレットにとどまらず、その技術をモバイル機器用に最適化したペン入力用部品のソリューションに落とし込み、WindowsやAndroidのタブレット端末、スマートフォンのIT企業向けに提供している。これらのOEM事業も売上の3割を占め、非常に重要だ。たとえばサムスン電子のスマートフォン・Galaxyシリーズの電子ペンはワコム製。そのほか、クレジットカードの署名を液晶画面に書き込むサインタブレットと呼ばれる端末もワコム製品であることが多いという。手書き入力技術は様々な業界で活用され、今後も大いに発展していく技術と目されているのだ。

「PCへの入力は長い間キーボードとマウスでしたが、タブレットが登場し、winsows10もスマホのようなタッチ志向のインターフェースに変わってきていますよね。入力ツールとしてペンの重要性が上がってきていると感じています。これはワコムにとって追い風でしょうね」

 ワコムではクリエイター向けのタブレットだけではなく、一般のユーザーが幅広くデジタルペンを活用できるようにするための取り組みも行っている。いわば、誰もが使っている(アナログの)「ペンと紙」を、デジタルの世界へ移行するもので、「デジタル文房具」といえるかもしれない。『Bamboo Spark』は、同社のデジタル文房具第一号機だ。

「弊社の『WILL(Wacom Ink Layer Language』というデジタルインクの技術を活かしており、手書きストロークの一本一本を書いた順番も含めて記録しています。手書きで入力した文字をテキストデータへの変換することも可能です。メモがデジタル化されることは、単に利便性をアップさせるだけではありません。クラウド経由で世界中の人たちと共有できるようになり、同時に書き込むこともできる。たとえば世界で同時に同じホワイトボードを使うような感覚です。誰もが使うペンと紙がデジタル化されることで、これまでにはなかったベネフィットが提供される。その可能性は文房具の未来、ひいてはオフィスワーク、教育、趣味、コミュニケーションなどの未来を変えていくかもしれません」

 ひとつの技術を、新たな技術へと発展させ、イノベーションを生み出す。それがユーザーを惹きつけて、業界を牽引していくのだろう。

<取材・文/江沢洋>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/12(金) 16:27

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