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三菱自動車、不正燃費問題に揺れる自動車業界の気がかりな指標とは?

HARBOR BUSINESS Online 8/12(金) 9:10配信

 8月4日、’15年度期の決算が出揃い、大手7社中6社が営業減益であることが明らかになった日本の自動車業界。今年4月には三菱自動車とスズキで燃費の不正が発覚したのも記憶に新しい。

⇒【資料】自動車会社売上高

 三菱自は日産自動車に買収され、スズキは鈴木修会長がCEOを退任するなど経済界を揺るがす大騒動に発展した。そんな2社の有価証券報告書を読み解くと、ある「2つの指標」が一致していることがわかった。数字を読み解きつつ自動車業界の実態に迫っていきたい。

◆売上高はトヨタの10分の1

 まず、三菱自動車を中心に見ていく。日本の自動車業界における三菱自のポジションは、トヨタを圧倒的首位とする専業の中では4位、総合メーカーを含めると6位という位置づけだ。

 売上高ではトヨタの10分の1ほどである。この規模感では、ど真ん中の市場で大きなシェアを取りに行くことは難しい。そこで同社が狙いを定めたのが世界的には珍しい、ミニバンなどを始めとする軽自動車というニッチ市場だった。

 低コストで開発できる軽自動車に注力する三菱自の研究開発費は売上に占める割合が2%程度で、3%を超えるトヨタとマツダ、5%近い日産と比べると圧倒的に低い。

 反対に、三菱自がトヨタ、日産、マツダの3強よりも高い割合を誇るのが売上高に占める宣伝広告費だ。売上高の4.6%ほどもあり、1.6%程度であるトヨタの3倍近い。

 何を隠そう、三菱自は’15年に東洋経済新報社が発表した「広告宣伝費が多い企業ランキング」で全企業中10位にランクインしている。同社より上位なのは、自動車の3強、小売最大手のイオンやセブン&アイHD、武田製薬工業など売上高でも日本を代表する企業ばかりだ。

 同じく東洋経済が発表している「『広告費宣伝費』を増やしたトップ100」でも、三菱自は堂々の7位にランクインしている。

 不正を行ったもう1社であるスズキにも近い構造がある。同社も研究開発費以上に、広告宣伝費を露骨に増やしていた。その額は約300億円にものぼる。

 いまや良い製品を作ればそれだけで売れる時代というわけではないが、とにかく製品をよりよく見せて売り込むべく広告宣伝にたくさんの予算を割き、肝心のより優れたモノをつくるための研究開発に十分お金を回していなかった2社の経営戦略には問題があったと言わざるを得ない。

◆成長の踊り場にある自動車業界

 ところで、売上に占める割合を考えれば三菱自、スズキほど高くないものの、その他の自動車メーカーも莫大な広告宣伝費を計上している。前掲した「広告宣伝費の多い企業ランキング」も「増やしたトップ100」も上位はクルマ関係の会社ばかりだ。日産、トヨタ、三菱自、マツダ、スズキの5社だけで過去4年間でなんと1591億円も増えた。

 自動車業界はここ数年の「アベノミクス」の恩恵をもっとも受けた業界の1つであり、円安を背景に、’12年頃からどんどん業績を伸ばし、利益を倍増させてきた。しかし、スズキと三菱自はここ2年ほど利益が横ばいであり、伸び続けていた日産、トヨタ、マツダも円高の影響で、ついに今期は減益。業界展望は踊り場にあると言える。

 外部環境に目をやれば、IT企業が次々と自動運転の市場に参入し、自動車の基幹部分を握ろうと猛威を奮いつつある。日本の家電とは異なり、自動車は生産における部品の複雑なすり合わせ作業(インテグラル)が残っているためコモディティ化が進まず、新興国のメーカーの安価な製品に日本メーカーがシェアを根こそぎ奪われることもなく、近年も世界で戦える業界であり続けたが、正念場を迎えている。

 日本の自動車メーカーが今後も発展していくために、筆者はメディアの役割が重要であると考える。

 メーカーとメディアの距離感は重要だ。拙著『進め‼︎ 東大ブラック企業探偵団』では、家電メーカーに取り入って企業に都合のいいことばかり発信する架空の御用ジャーナリストを登場させ、企業報道が歪むことの危険性を示唆した。

 広告宣伝費をたくさん支払う会社はメディアの“お得意様”であるから、編集と広告の中立性が保たれているとしても、どうしても思い切った企業批判はしにくくなる。

◆メディアは自動車業界に緊張感を与えよ

 そして本稿で見てきた通り、どの業界よりも広告宣伝費を使っているのは自動車業界だ。多くの経済メディアでは自動車業界担当は記者にとっての花形ポジションの一つだが、普段から批判的な論調が載るようなことはあまりない。

 結果として、それが経営陣の気を緩ませ、甘い内部統制や誤った経営判断に歯止めがきかない状況に繋がりかねない。

 だからこそ、今回のように各社一斉に減益したり、大きな不祥事が明らかになって世間の注目が集まり、取り上げざるを得ないようなタイミングでこそ、メディアは自動車業界に緊張感を与える報道を積み重ねていく必要があるのだ。

<文/大熊将八 photo by Aimaimyi via Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0>

おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/12(金) 9:10

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