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カルパースのCSR投資は大損の無責任投資

ニューズウィーク日本版 8/12(金) 13:21配信

 アメリカ最大の公的年金基金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は、今年6月末までの年間の運用成績が2009年以来、最低となったと発表した。同基金はこれまで「社会的責任(CSR)投資を行う」という運用方針だったが、カリフォルニア州に住む納税者のためにも、本当にこれでいいのかどうかを見直す時期だ。

 2016年6月30日までの1年間のカルパースの運用成績は0.6%。過去20年間のカルパースの年平均運用利回り7.8%を大きく下回っただけでなく、昨年度の目標だった2.5%にも届かなかった。敗因の1つは、CSR投資に力を入れ過ぎたことではないかと思われる。

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 カリフォルニア州の年金は確定給付型なので、約束した年金を支払うためには、インフレ率を上回るスピードで運用資産を成長させる必要がある。それができなければ、カリフォルニアの納税者は多額の積立債務を抱えることになる。

 カルパースは2014年に、サステナブル(持続可能な)投資に関するレポートを発表し、「環境・社会・ガバナンス(ESG)」に配慮した企業を重点的に選んで投資していると述べた。目先の利益だけを追求する企業より、社会や環境にも配慮する企業のほうが長期的にはより高い成長を遂げることができる、という投資哲学が背景にある。儲かっている企業でも、社会や環境に有害だと判断すれば投資しない。

米労働省のお墨付き

 筆者の同僚スティーブン・マランガは、カルパースがCSR投資を始めたことで、カリフォルニアの納税者は多大な犠牲を強いられていると書いた。それだけではない。何十億ドルもの資金を、政界とつながりのある企業に注ぎ込んだのだ。

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 カルパースの運用成績が実際に低迷していることで、CSR投資の考え方そのものが賢明なのかどうか疑問視されている。ジョージ・W・ブッシュ政権下の2008年、米労働省は、年金の受託者は「加入者ならびに受益者の利益のみを考えた最善の」運用を行うよう通達した。「受託者責任」と呼ばれるこの考え方は、厳密には州や地方の年金には適用されないが、年金が投資判断を行う際のユニバーサルな指針となったと、ボストン大学法科大学院のデビッド・ウェバー教授はワシントン・ポスト紙で述べている。

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 さらに労働省は2015年、新たな関連規則案を発表。年金は、社会的・環境的な基準を念頭に置いて投資先を決めてもよいとした。これにより、州ならびに地方の年金は、CSR投資に力を入れるようになった。カルパースはそれ以前からCSR投資を始めていたが、それに弾みがついた。



 CSR投資が年金の運用成績の足を引っ張る顕著な例の一つはタバコだ。カルパースはCSRの観点から、タバコ企業への投資を行っていない。しかし、タバコ株の多くは極めて高い利益率を誇る。昨年1年間のS&P500指数の上昇率はわずか2%だったが、タバコ関連株価指数はこの間に約15%上昇した。

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 銃器メーカーへの投資も同じだ。2013年にコネチカット州のサンディフック小学校で26人が死亡する銃乱射事件が起きると、カルパースは銃器メーカーに投資していた500万ドルを引き揚げた。

一方では2010年、地球に優しい主要企業の株式に投資する「グローバル株式環境指数ファンド」に5億ドルを振り向けた。しかしこれまでの運用益は6.61%で、グローバル株式全体の値上がり率12.79%と比較して半分にとどまったことを認めている。

 カルパースはまた、自らCSRを推進する活動も行っている。エネルギー消費の削減に取り組む「国連環境計画の金融イニシアチブ」共同議長を2012年から2年間にわたって務めたほか、労働基準法を順守しない企業の監視も行う。

CSRの余裕はない

 カルパースが苦境に陥った原因は、CSR投資だけではない。コロンビア大学のアンドリュー・アング教授と、ノルウェー政府系ファンドの創設者兼CEO(最高経営責任者)のクヌート・N・ケアーによる論文によると、カルパースは2008~2009年の世界金融危機の間に700万ドルの損失を出した。今なら17億ドルに相当するアップル株を3億7000万ドルで売ってしまうなどしたためで、株価が回復しても取り戻せない。

 カルパースが抱える積立不足は、アメリカで最大の7540億ドルだ。持ちこたえるには、何としても成長しなければならない。そうでなければ、増税、支出削減、年金支給額の削減、さらには掛け金の引き上げをしなければならなくなる。カリフォルニアの所得税は最高13.3%で既にアメリカで一番高い。カルパースにはCSR投資をしている余裕はない。

 カルパースの運用成績がこのまま伸び悩めば、カリフォルニアの今の世代も未来の世代も損失を被る。年長の住民は自ら積み立てた年金が危険にさらされるし、若者はもらえる年金は少なくなるのに高い保険料や税金を払うことになる。

 市場平均を下回ることが確実視される投資を続けるのは自分勝手すぎる。

Diana Furchtgott-Roth is a senior fellow and director of Economics21 at the Manhattan Institute.

http://economics21.org/html/theres-nothing-socially-responsible-about-low-pension-returns-1972.html

ダイアナ・ファークゴット・ロス(マンハッタン・インスティテュート、エコノミクス21ディレクター)

最終更新:8/12(金) 13:21

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