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中江有里「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

Book Bang 8/13(土) 8:00配信

 桜木紫乃『裸の華』の主人公は元ストリッパーのノリカ。故郷の札幌でダンスショーの店を開くことに。そこにダンサー志望の二人の女性があらわれた。「踊り子」たちのストイックな精神と肉体が熱く迫ってくる。ダンスという形に残らない芸術はまさに華。瞬間に咲く情熱の華は、観る者を魅了する。

 平野啓一郎『マチネの終わりに』は大人の恋愛小説。クラシックギタリスト蒔野聡史とジャーナリスト小峰洋子の恋愛の軌跡を綴る。不安定な世界情勢、芸術家のスランプ、思いがけない横やり……。様々な出来事が絡み合い、二人は引き裂かれていく。本書の肝は蒔野と洋子がお互いを必要とし、存在の重要性を確認していく時間にあると感じる。ラストシーンの美しさは、本を閉じたあとも時折心に浮かんでくるほどだ。

 デビューから注目している奥田亜希子『ファミリー・レス』は、家族のようで家族でない人々の交わりを描いた短編集。飼い犬が語り手の「アオシは世界を選べない」は、その視点と意外な展開が面白い。犬が飼い主を選べないように、人もまた生まれる家族を選べない。婚姻相手は選べるけれど、相手の家族がどんな人かはわからない。そこに生まれるドラマを掬い取る著者の手腕に脱帽。

 大西康之『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』は見事な着想力と大胆な行動力でシャープを大企業へと導いた男の評伝。現状に甘んじず、挑戦を続けることは、どんな仕事にも通ずる勝ち方だろう。

 復刊された夏目伸六『父・夏目漱石』は漱石の次男が語る文豪の素顔。癇癪持ちの父に親しみを持てなかった息子が父の記憶を振り返る。過去は変えられないが、過去と向かい合う時間が、父への解釈を深めていく。名随筆である。

[評者]――中江有里(女優・作家)

※「週刊新潮」2016年8月11・18日夏季特大号掲載

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最終更新:8/13(土) 8:00

Book Bang

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TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。