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縄田一男「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

Book Bang 8/14(日) 8:00配信

『半席』は、正統派士道小説の逸品。主人公は徒目付(かちめつけ)の片岡直人。彼はとらえどころのない上司・内藤雅之から、表の仕事ならぬ頼まれ仕事――その多くは老境に達した武士が仕出かした変死や刃傷の真相をさぐること――を頼まれる。その結果、明らかになるのは幾星霜を経て均衡を失った、恩讐、信頼、無念、慚愧等々であり、歳月の重みがずしりと伝わってくる一巻だ。

『しゃらくせえ』の鼠小僧次郎吉は、ひょんなことから盗みを働き、江戸所払いとなった小悪党。刑期を終えぬまま帰ってくると、許婚と一人決めしていた女は金で縛られ、義賊と呼ばれる一方で、町の仁医・七兵衛や正体不明の老翁と悪党どもを懲らしめる。ラストは、切なく乾いたセンチメンタリズムが待っている。秀作。

『疾(はし)れ、新蔵』は、追いつ追われつの道中もの。越後岩船藩の内部抗争の中から幼い姫を救おうと、主人公新蔵が国許へ向って、疾る、疾る。脇の人物も面白く、はじめはドジな奴らかと思っていたら、姫を乗せているうちに侠気を発揮しはじめる駕籠かき、謎の百姓女ふさ、そしてかつて天領だった村の人々等々。クライマックスは、山火事が迫る中でのチャンバラと目が離せない。

『晩秋の陰画(ネガフィルム)』は、作者初の現代ミステリー集。表題作は視点を変えることで事件の真相が見事に一転。「秒読み」は、何といってもビックリ。これはいわゆる〈奇妙〉な味の作品ではないか。「冒険者たち」は、作者の映画愛に貫かれた――快作。そして最後の「内なる響き」は作者のオーディオ・マニアぶりが、それも決して趣味のレベルではなく、作品の中に客観化されている。さすがはプロ。

『61時間』は久々に読むJ・リーチャーもの。吹雪の町で起こる組織との死闘。タイムリミットものとしても秀作。

[評者]――縄田一男(文芸評論家)

※「週刊新潮」2016年8月11・18日夏季特大号掲載

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最終更新:8/14(日) 8:00

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