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なぜ日本のカレーライスには福神漬けがよく合うのか?

@DIME 8/14(日) 10:00配信

蒲焼きにとっての山椒、ローストビーフにとってのホースラディッシュのように、その料理を引き立てるお決まりの薬味は案外あるものだ。では日本の国民食ともいえるカレーの薬味といえば? 誰が何といおうと福神漬けに限る。はっきりいって福神漬けは、カレーを食べる時以外ほとんど口にする機会がないほど特殊な存在だ。ではいつから福神漬けとカレーがタッグを組み始めたのか。そのルーツをじっくり紐解いてみたい。

■日本郵船の海外航路に乗れる“スーパーリッチ”が食べ始めた

 カレーという洋食に、当たり前のように福神漬けが添えられる事実に疑問を感じたことがある人はかなりスルドイ。なぜ福神漬けなのか、一体いつ誰がこの組み合わせを考案したのだろうか。

 その歴史を紐解いていくと、時代は明治30年代の中頃までさかのぼる。その当時、日本郵船の欧州航路船上の食堂で出されたドライカレーに福神漬けを添えたのが始まりといわれている。もともとカレーの薬味はチャツネ(野菜や果物に香辛料を加えて煮込んで作るペースト状の薬味)が正統だったが、ある時チャツネを切らしてしまった代用品として福神漬けを出したところ大評判を呼び、次第に定番化したというのが真相のようだ。

 ただし当時の福神漬けは高級品だったようで、二等・三等船客にはたくあんを付け合わせに出していたらしい。ということは、カレーと福神漬けを最初に合わせて食べたのは、一等に乗船したスーパーリッチたちだったのだ。いずれにしても日本人の口に合ったのは、チャツネよりも福神漬けやたくあんといった漬物だったのである。

■そもそも福神漬けって誰が作ったの?

 明治時代中期に急遽代用品として福神漬けが使われたということは、福神漬けはカレーのために開発されたのではなく、それ以前から存在していたことになる。ならば今度は福神漬けのルーツについて迫ってみよう。

 いつ誰が生み出したのか。これは意外にもはっきりしている。1877年(明治10)に、第十五代野田清右衛門が発明した。野田は1675年に上野池之端に創業した珍味や乾物を扱う「山田屋」(現在の酒悦)の後継者である。この十五代目はかなりの発明好きで、のりの佃煮も生み出している。そして福神漬けの開発にも明け暮れ、その試行錯誤には約10年の歳月を費やしたという。

 福神漬けと命名したのにも理由がある。原材料にだいこん、なす、かぶ、うり、れんこん、しそ、なたまめ(刀豆)といった7種の野菜を使ったことから、七福神にちなんで名づけたそうだ。

 福神漬けそのものが広く知れわたった背景には、日清・日露戦争の影響もあった。従軍兵士たちの携帯食に福神漬けが使われたのである。

福神漬けの原点、1675年創業の老舗「酒悦」の『元祖 福神漬け』。7種類の国産野菜を使い、醤油の風味を利かせたキレ味のよさが特徴だ。

■“カレーライスには福神漬け”を広めた功労者とは?

 カレーライスに福神漬けを添える形式を、市井の人々に広めた功労者については諸説ある。帝国ホテルや梅田阪急百貨店の食堂で提供されたのが始まりといわれる他、銀座・資生堂パーラー説もかなり有力だ。昭和3年から本格的な西洋料理を提供し始めた資生堂パーラーでは、当時よりカリーライス(当時の表記)の薬味として福神漬け、らっきょう、しょうがを添えていた。昭和初期の頃は土地柄もあって、常連客の中に新橋芸者も多く、彼女たちはスパイシーなカリーライスを食べた後の口直しとして甘い薬味を望んだ。その要望に応えてマンダリン(缶詰のみかん)を薬味に加えた。

 現在、資生堂パーラーではカレーライスの薬味は4種類添えられる。国産の福神漬けとらっきょう、自家製のたまねぎの醤油漬け、そして今も受け継がれているマンダリンだ。これらの薬味がシルバー製のタワーに立体的に盛り付けられて出されるのが資生堂パーラーならではの演出だ。

 今回オーダーしたカレーは、和牛を使ったビーフカレーライス。昔と変わらない製法によって4日間かけて仕込んだカレーソースは、スパイスの香味が際立つ個性派だ。辛さは控えめで、年齢を問わず食べやすい味わい。お米は新潟県指定農家のコシヒカリを使用。ほどよい粘り気と甘みを持ち、カレーソースを引き立てる。そしてカレーの合間に食べる酸味の利いた自家製のたまねぎの醤油漬けやらっきょうが味覚に抑揚をもたらし、福神漬けのさっぱりとした風味が口中をすっきりとさせる。そして締めくくりに甘みのあるマンダリンで口を爽やかにする。4種の薬味はそれぞれに役割を発揮し、カレーの味わいに奥行きを与えている。いわば欠かせない脇役といえる。歴代の美食家たちをうならせてきた伝統のカレーライスを、その厳選された薬味と共にぜひお試しいただきたい。

<資生堂パーラーのカレーレシピ>
※家庭で再現できるようにアレンジしたレシピ

■材料(5人分)

**カレールー**
玉ねぎ…………………………160g
にんにく………………………40g
しょうが………………………60g
ラード…………………………220g
小麦粉…………………………200g
カレー粉………………………90g
ローリエ………………………1枚
パセリの軸……………………1本
タイム/セージ/ナツメグ…各少々

**カレーソース**
玉ねぎ…………………………75g
ニンジン………………………30g
鶏ガラ…………………………200g
りんご…………………………1/2個
ブイヨン………………………720cc
トマトペースト………………10g
塩………………………………9g
ウスターソース/醤油………10cc
砂糖……………………………18g
塩………………………………4g
チャツネ………………………10g
無塩バター……………………適量

牛ヒレ肉薄切り………………400g

■作り方

1.まずはルーを作る。玉ねぎは粗いくし型に切り、にんにくとしょうがは2~3mmの厚さに切る。ラード油で玉ねぎから順に別々に揚げ、取り分けておく。

2.野菜のうま味や香りが移っている1の油に、小麦粉とカレー粉の3/4の量を入れ、油とよくあわさるまで練り炒める。

3.2をオーブンに入れる。1時間ほど、濃い茶色になるまで加熱する。

4.3に残り1/4の量のカレー粉とローリエ、パセリの軸、タイム、セージ、ナツメグとラードで揚げて取り分けておいた野菜を加えて、混ぜ合わせる。

5.次にソース作り。玉ねぎは大きめのざく切りに、ニンジンは乱切りにして強火で炒める。

6.鶏ガラをオーブンで30分ほど、じっくりと焼く。

7.4でできあがったルーの1/3の量を鍋に移し、ブイヨンおよび6の鶏ガラ、5の炒め野菜を入れてよく混ぜ合わせ、鶏ガラが煮くずれるぐらいになるまで2~3時間ほど煮込む。

8.7をまず目の粗いこし器でこし、さらに中目のこし器でこす。

9.仕上げにウスターソース、醤油、砂糖、塩、無塩バターを加え、チャツネを入れて味を調える。

10.牛ヒレ肉薄切りの両面をさっと焼き、温めたカレーソースに加えて、軽く混ぜる。

資生堂パーラーでは、ソース作りで素材のうま味を引き出すために、最低3日かかるという。さらに、味をなじませ、口当たりをまろやかにするために、客席に出す前に1~2日ほど寝かせている。

現在、資生堂パーラーのグランドメニューに並ぶカレーライスは3種類。このビーフカレーライスもそのひとつ。4日かけて仕込まれたスパイシーなカレーソースととろけるような和牛が食欲に火をつける。2880円(税込・別途サービス料10%)

資生堂パーラー 銀座本店

住所:東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル4/5F
電話番号:03-5537-6241
営業時間:AM11:30~21:00(L.O. 20:30)
定休日:月曜日(祝日は営業)※2016年8月15日(月)は臨時営業

■らっきょう? 福神漬け? 日本人好みのカレーライスに合う薬味って??

 たかが薬味なのか、されど薬味なのか。しかし薬味のないカレーは単調になりがち。やはり薬味は必要不可欠なアクセントである。もしもカレーの薬味をひとつだけ選ぶとしたら、どうやら福神漬け派とらっきょう派に分かれるようだ。2006年に行われたとある調査によれば、約7割が福神漬けを支持したそうだ。ちなみに筆者も福神漬けを断然推す。なぜなら7種の野菜の相乗的な味わいとそれぞれ違う野菜の歯ごたえが、より大きな変化を感じさせてくれるからだ。もしもカレーソースが切れてご飯が残ったとしても、福神漬けならご飯がすすむ。福神漬けはカレーの友であり、飯の友なのである。

 言うまでもなくカレーに福神漬けのマッチングは、日本ならではの食文化に他ならない。福神漬けがあればこそ、カレーライスはより旨くなるのだから、われわれは福神漬けにもっと感謝すべきなのかもしれない。ということで、最後に小声で言っておく。福神漬けよ、今日のカレーを美味しくしてくれてありがとう。

取材・文/高橋政喜

@DIME編集部

最終更新:8/14(日) 10:00

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