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疾走するランチワゴンに乗って―― 『スタフ staph』 (道尾秀介 著)

本の話WEB 8/15(月) 12:00配信

「1年半ぶりの新刊『スタフ』は、初めての週刊誌連載でした。新聞連載はこれまでも何度か書いてきて、ストーリーの作り方として、展開のスピードを上げることで、読者の皆さんにより面白く読んでもらえるのを感じていましたが、それが週刊誌になると、1話ごとの文章量が多い分、さらにスピーディーにして、各回ごとにドキッとさせたり、ほろっとさせたり、ワクワクさせたりと、リズムを変えていくのにちょうどいい。次にこの話がどんな表情を見せるか、自分でも先が分からない感じで、書いていて中毒になりそうなほど楽しかったですね」

 作者自身も書きながら、非常に「気づき」があったという作品の舞台は、ランチワゴン。主人公の掛川夏都(かけがわなつ)は、バツイチの30代独身、自らがローンを組んで購入した移動販売車で、料理を販売して生計を立てている。

「実は長編で主人公を女性にするのも、僕にとって初めてです。あまり突飛な設定の人物ではなく、ごく身近にもいそうな普通の女性にしたかったのと、自分の力で生きている、働く女性にしたいと考えました。ただ、オフィスで事務をやっているというのでは場面の動きが少ない。僕が料理をするのが好きなこともあって、料理のシーンも書きたいと思ったんですが、調理場だとこれも狭い範囲でしか動けない。そこで浮かんだのが、お昼に街で見かけるランチワゴンでした」

 実際に屋台村に出向き、1日3軒ほど食べ歩きながら、扇風機の回り方、電源の場所、ガスはプロパンが使われていることなど、つぶさに観察した。それらのディテールも、実は驚くような伏線となり、読み始めと終わりで印象がガラリと違うものになるのは、道尾ワールドの真骨頂だろう。

「ミステリーはどれだけ読者を驚かせるかに注力している作品が多いし、僕自身もそれは意識しています。でも、同じことは二度やりたくないし、誰もやったことのないものを書いてみたい。これまでにも子供たちが抱えているものや、世界が反転するものは書いてきましたし、繁殖するほんの少しの悪意や寂しさが重要な要素のひとつになることはありましたが、今回は家族とは何か、他人との関係性とは何か……読者に新しい感情を体感してもらえる作品になっています」

 ふとした事件をきっかけに、中学生アイドルのカグヤに力を貸すことになった夏都と彼女の仕事場は、いったいどこへ向かうのか――。

「序盤からスピードを上げるワゴンで、読者の方に色んな景色をお見せします。ぜひともご乗車ください」

道尾秀介(みちおしゅうすけ)

2004年『背の眼』でデビュー。『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、『月と蟹』で直木賞。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:8/15(月) 12:00

本の話WEB