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「世界中の人々に読んで貰いたい」ちばてつや超推薦マンガ『ペリリュー』 3等身の兵士だからこそリアルに感じる、戦争が日常であるという“狂気”

ダ・ヴィンチニュース 8/15(月) 6:30配信

 日本のはるか南、フィリピン諸島の東にあるパラオ共和国ペリリュー島。1944年夏、この地であった壮絶な戦いを描く『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(白泉社)のコミックス第1巻が発売となった。作者は自身の精巣腫瘍と肺がん闘病を綴ったエッセーマンガ『さよならタマちゃん』や、疎遠になっていた親との関係性を描いた『おやこっこ』を手がけた武田一義氏だ。

 一見するとほのぼのした雰囲気に見える3等身の登場人物たち――彼らは皆、旧日本軍の兵士だ。軍服を着てヘルメットをかぶり、銃を携えている。彼らはペリリュー島で戦い、傷つき、苦しみの声を上げ、若い命を散らしていく。そこでは生き残って日本へ帰ることを考えてはいけない。お国のために死ぬことが当然と考えられているからだ。可愛らしい3等身の姿であるからこそ、よりその恐ろしさが際立つ。

 主人公の田丸一等兵は漫画家になることを夢見ている、ちょっとドン臭い、心優しき青年だ。武田氏は『ヤングアニマル』誌上で本作の連載が始まる前、ブログに「戦争が日常だった時代。でもどんな時代でも人の本質は現代の僕らとそうそう違わないだろうと思っています。等身大の若者の視点で70年前の過酷な戦場を追体験していきます。しばしお付き合い下さい」と記している。

 過酷な戦場、と武田氏が表現しているように、話が進むにつれ戦いは激しさを増していく。そして1944年9月15日早朝、アメリカ軍が島へ上陸し白兵戦となる。当初3日以内に終わると予想していたアメリカ軍だったが、玉砕や無謀な突撃を禁止された旧日本軍の守備隊約1万人が洞窟の中などに身を潜めてゲリラ戦を展開し、アメリカ軍との持久戦となっていく。その結果どうなったのか、それはコミックスと現在連載中の本作でストーリーを追いながら知って欲しい。

「己の死を怖れるな」と上官から命令される兵士たち。さっきまで笑っていた人が爆撃でふっ飛ばされてバラバラになり、白兵戦では壮絶な死闘を繰り広げ、簡単に人が死んでいく。しかし本作は辛く悲しい物語として描かれがちな戦争ものとは一線を画し、巻き込まれてしまった戸惑いや恐怖心、他者への愛がコマから溢れ、現代の自分たちに「生きるとは何か」という問題を突きつけてくる。その問いはリアルな戦場を描く壮絶なストーリーへと読者を引き込み、死がすぐとなりにある「戦争が日常だった時代」を仮想現実として体感させ、凄まじい爆発音や為す術もなく死んでいく人の姿に慄きながら、「なんとか生き延びて欲しい」と彼らの無事を願う気持ちが生まれてくる。

 マンガ家のちばてつや先生は、本書の帯に「若くて可愛らしい日本の兵隊さんが南海の美しいサンゴ礁の島で…『戦争』という地獄にまきこまれてゆくリアル。今こそ、子どもから大人まで、いや、世界中の人々に読んで貰いたいマンガだ。」という直筆の推薦メッセージを寄せている。戦争を体験し、満州から命からがら日本へ引揚げてきたちば先生の静かな怒りを感じる、反戦のメッセージだ。

 そして副題の「楽園のゲルニカ」とは何を意味するのだろう。「楽園」について、ペリリューの島民はインフラなどが整っている日本を楽園だと言い、田丸は美しい自然に囲まれたペリリューこそが楽園に思えると本書で言っている。そしてゲルニカとはスペインの地名であり、1937年にドイツ軍による都市無差別爆撃で街が壊滅したことに怒りを覚えたピカソによって描かれた絵画『ゲルニカ』で有名だ。

 田丸は生き延びて、祖国から遠く離れた南の島での絶望的な戦いをマンガにして伝えるのだろうか? いずれ描かれるであろうエピソードに期待し、田丸たちの運命がどうなるのか、最後まで見届けたい。

文=成田全(ナリタタモツ)

最終更新:8/15(月) 6:30

ダ・ヴィンチニュース

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