ここから本文です

雨宮塔子さんがついに見つけた 友人と助け合える最高の賃貸物件とは?

CREA WEB 8/15(月) 12:01配信

第23回:不動産屋のマダムの手をぐいと握った

(第22回「十数件の物件を内見した雨宮塔子さんが ついに出合った6区のアパルトマン」のつづき)

 素敵な物件でも4軒に1軒くらいの確率であるのだが、水回りのタイル使いがやけにカラフルだったり、モザイクの柄が入っていたりしないか、祈るような気持ちで浴室のドアを開ける。ここが最後の見所だ……。大丈夫!! けっして広くはないけれど、シンプルで清潔そうな白い浴室だった。私は振り向きざま、担当者のマダムに宣言した。

「この物件に惚れ込みましたっ。書類も持ってきています」

 私はつかつかとマダムの方へ近づくと、ぐいと彼女の手を握り、くれぐれもよろしくお願いしますとその栗色の瞳をまっすぐに見つめた。つられたように頷くマダム。

 帰りがけ、アパルトマンの入り口のところでアラブ人らしきカップルとすれ違う。私に付き添ってエレベーター(そう、有難いことに、この物件はエレベーター付きでもあった)で一緒に降りてきてくれた担当者のマダムが、なんとこのカップルを出迎え、再びエレベーターで5階に上がっていくではないか。

 とたんに不安になる私。色々な意味でこんなにレアな物件、誰も放っておくわけがない。きっとものすごい競争率になるだろう。帰り道は重い足取りになったが、こればかりは、勝敗は神のみぞ知る。少なくとも私は取りうる行動はすべて取ったし、まだ下見を受け付けているということは、私の前までの候補者には決まった人がいないということでもある。

 この日は金曜日だったから、早くても結果は週末を挟んだ月曜日になってしまう。下見以来、私の頭にはこの物件のことしかなかった。自分の予算内でこれ以上の物件はもう望めないであろうことがわかっていた。最高の地区に立地した、きれいでシンプルでbalcon filantのついたオスマン様式のアパルトマン。パリ市内でもトップクラスのマルシェまで徒歩3分圏内であるばかりでなく、子供たちの学校にも近いから送迎も楽。さらに、このアパルトマンの通りと平行した道には、私の親友家族が住んでいる。

 子供たちはこのポイントに狂喜乱舞した。親友にもうちの子供たちと歳の近い、女児と男児がいるのだけれど、下の子が赤ちゃんの頃から家族ぐるみの付き合いをしているのだ。こんな“お鍋の冷めない”距離なら、子供たちの面倒を見るのだってずっと簡単に助け合える。さっそく彼女に話すと、この地区の物件のレアさを身をもって知っている彼女は一緒になって興奮してくれ、私に決まった暁の夢想を共有してくれたのだった。

1/2ページ

最終更新:8/15(月) 12:01

CREA WEB

記事提供社からのご案内(外部サイト)

CREA

文藝春秋

2016年12月号
11月7日発売

定価780円(税込)

おいしいもの、買いたいものいろいろ
贈りものバイブル

毎日使いたいベストコスメ発表!
村上春樹「東京するめクラブ」より熊本再訪のご報告

ほか