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スポーツとビジネスの幸せな関係を考える 山本雅一(株式会社スポーツビズ 代表取締役社長)

本の話WEB 8/16(火) 12:00配信

 八月五日に開幕を迎えるリオデジャネイロ五輪では、アスリートたちの躍動する姿が見られるはずだ。次大会の東京五輪まであと四年――。日本における“スポーツマネジメント”という産業を立ち上げたリーダーの哲学に迫る。

 大学時代にスキーの選手だったこともあって、「スポーツに関わる仕事がしたい」と考えていました。周囲からは「スポーツ業界じゃ飯は食えないよ」と言われながらも、広告代理店に就職し、中嶋悟さんがドライバーをしていたF1のロータスというチームにスポンサーを付ける仕事をしているときに読んだのが『スポーツビズ スポーツ界のマネー事情』という本でした。

 九〇年代前半は、スポーツで金儲けはけしからんというアマチュアリズムが主流でした。この考えが多数派を占めるイギリスのジャーナリストが、欧米のスポーツビジネス事情をシニカルに描いたのがこの本。「スポーツビズ」は著者の造語で、スポーツ界におけるビジネスのことです。広告代理店の営業マンとして、企業から見たスポーツのスポンサードという一面は見えていたのですが、もっと大きなビジネスになるということを感じて、会社にもスポーツ専門の部署を作るべきだと提言したのですが叶わなかった。このときが九六年。長野五輪の開催が迫っており、仕事を立ち上げるのは今しかないと考えて、会社を辞めて「スポーツビズ」を設立しました。

 幸いにも、荻原健司選手や荻原次晴選手、上村愛子選手らが所属してくれ、アスリートと社会をマッチングさせたいと奔走していましたが、マネジメントのキャリアは不足していると感じていました。そんなとき、あるパーティーで出身高校の大先輩であるホリプロの創設者・堀威夫さんとご挨拶させていただく機会があり、『わが人生のホリプロ いつだって青春』を読んだのです。ホリプロといえば、山口百恵さんらを輩出したエンターテインメントの大会社。マネジメントする仕事を長くしていますと、選手とマネージャーが独立するということもありました。芸能、スポーツとジャンルは違えど、これは経営者にとっては辛い出来事です。ホリプロはどう乗り越えたのか。堀さんは、タレントにくる仕事を調整するだけではなく、新しいビジネスを仕掛けたんですね。スカウトキャラバンもそうですし、舞台「ピーターパン」のプロデュースなど、魅力的なコンテンツを持つことが組織としての求心力になっていくのだということを学びました。

 会社を設立して二十年近くが経ちますが、リーダーとしてどうふるまうべきかについては常に考えています。『「粗にして野だが卑ではない」 石田禮助の生涯』からも影響を受けました。城山三郎さんが描いた主人公は、三井物産に三十五年在職し、七十八歳で財界人から初めて国鉄総裁になった人物。国鉄総裁になった直後に、代議士たちを前に「生来、粗にして野だが卑ではないつもり。(中略)無礼なことがあれば、よろしくお許しねがいたい」と断ったうえで、「国鉄が今日のような状態になったのは、諸君たちにも責任がある」と指摘したのです。「弁解はしない」「責任はとる」「組織にあってもソルジャーとして最前線に立ち続ける」という哲学はリーダーの姿勢として尊敬に値します。“昭和のダンディズム”にも憧れますね。また、石田氏は「パブリックサービス」を重視していました。私自身も現在はサポートする選手のため、社員のため、常にビジネスを意識していますが、六十五歳を過ぎたら、今のベースを生かして、社会貢献のためにエネルギーを注ぐことができればと考えるようになりましたね。

 小説として純粋に楽しんだのは、上村選手から勧められた東野圭吾さんの『カッコウの卵は誰のもの』です。五輪を目指すトップスキーヤーをとりまく状況が見事に描かれていて、臨場感がありました。どうしてこんなことを知っているんだろう、と驚くほど、スキー競技の環境の厳しさを丁寧に描き、かつ興味深いストーリーで一気に読み終えました。

 アスリートをとりまく環境を良くしたい、と願って我々は仕事をしていますが、選手の立場だけにたった“わがままなマネジメント”になってはいけないとも考えています。欧米によくあるエージェントとして、所属チームから最高の条件で契約を取りまとめる、という仕事だけではなく、選手のセカンドキャリアも含めて、アスリートと社会をベストマッチングさせていくことを目指しています。昨年、スポーツ庁が設立されて、「産業界との連携によるスポーツ普及と競技力強化」とうたっていますが、それはまさに二十年前に私が考えていた発想と同じです。東京五輪に向けても、太田雄貴選手のような、スポーツの魅力を言葉と行動で伝えられるような選手を輩出していきたいと思っています。

お勧めの4冊

・『スポーツビズ スポーツ界のマネー事情』 (S・アリス 著) ダイヤモンド社

・『わが人生のホリプロ いつだって青春』 (堀威夫 著) 小学館文庫

・『「粗にして野だが卑ではない」 石田禮助の生涯』 (城山三郎 著) 文春文庫

・『カッコウの卵は誰のもの』 (東野圭吾 著) 光文社文庫

山本雅一(やまもと・まさかず)

1964年生まれ。駒澤大学卒業後、広告代理店に勤務。96年にスポーツビズを設立。アスリート・指導者・文化人の競技からライフプランまでをマネジメントする

会社メモ:1996年に設立。同社に所属する主なアスリート・文化人として、太田雄貴、木村沙織、佐藤琢磨、山本聖子、伊藤みき、上村愛子、竹下佳江、中田久美、八木沼純子、岩崎恭子など

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:8/16(火) 12:00

本の話WEB

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。