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中韓ジャーナリストが考察「相模原障害者殺傷事件」は現代日本の闇か? 

週プレNEWS 8/17(水) 6:00配信

19人が殺害され、26人が重軽傷を負った相模原障害者施設殺傷事件。平成最多の犠牲者を出す凶行に及んだのは、この施設で今年2月まで勤務していた26歳の男だった。

平和な日本で起きた突然の惨劇を、隣国の人々はどう見ているのか?

連載コラム「週プレ外国人記者クラブ」でもお馴染みの香港フェニックステレビ東京支局長・李(リ・)ミャオ氏、そして韓国『朝鮮日報』紙の東京支局長・金秀恵(キム・スヘ)氏に話を聞いた――。

***

『朝鮮日報』の金氏は、相模原の事件に接して「2007年に在米韓国人が起こした『バージニア工科大学銃乱射事件』を思い出しました」と言う。

「相模原の事件との共通点は、積極的に社会に参加できず孤立していた人物が起こした犯罪だということです。バージニア工科大学の事件では33人が殺害されましたが、この犯人も同大学に留学生として籍を置きながら、アメリカの社会に馴染むことができず孤立していました。また、韓国籍でありながらアメリカの永住権を持ち、一般的な韓国社会にも属していなかったと考えられます」

しかしその一方で、ふたつの事件には決定的な違いがあると金氏は言う。

「バージニア工科大学の事件が無差別殺戮であったのに対し、相模原事件の容疑者は『障害者は抹殺すべき』という歪(ゆが)んだ哲学を持ち、その意味でターゲットが明確であり、周到な準備をして犯行に及んでいます。この点は決定的な違いであり、相模原の事件は障害者という社会的弱者に対して行なわれた卑劣極まりない犯行です」

金氏は日本支局に着任する以前、韓国国内で“サツ回り”(警察担当)の記者を長く務めた経験を持つ。その目を通して、今回の事件から現代日本社会に特有の闇は見出せるか?

「日本では1981年の『パリ人肉事件』や97年の『神戸連続児童殺傷事件』など、過去にも度々、猟奇的な殺人事件が起こっているので、相模原の事件が際立って凶悪な恐ろしい事件だという印象はありません。実際、今回の事件に対する韓国メディアの反応は、特に大きく注目することもなく、あくまでも“海外で起きた事件”のひとつという扱いでした。

ただ、それでもなお、今回の事件に特異性を見出すとすれば、やはり社会的弱者をターゲットとしたヘイト・クライムである点でしょう。大量殺人あるいは連続殺人というのは、どこの国でも起きています。韓国では82年に元海兵隊員がカービン銃や手榴弾などを使って61人を殺害する事件がありました。これは“韓国史上最悪の殺人事件”と言われていますが、これと比較しても、今回の事件はヘイト・クライムである点が大きく異なっていると思います」

2014年、川崎市の老人ホームで入居者3人が次々と転落死させられる連続殺人事件が起きた。この容疑者も、犯行時には老人ホームの職員として働いていた。障害者や老人といった社会的弱者のための施設で職員や元職員が残忍な殺人事件を起こす背景に、そこで働く職員が置かれた待遇の劣悪さを指摘する見方もある。韓国ではどうなのか?

「これと同じ問題は韓国の社会にも存在しますし、そういった待遇への不満から入居者への虐待を働くといった事件も日本同様に起きています。ただ、そういった待遇の問題はあっても、今回のような殺人が肯定されるわけではありません。その意味でも、今回の事件は異質のもの、社会的背景とは安易に結びつけずに扱うべき問題だと思います」

一方、福祉施設職員たちの待遇問題について、香港フェニックステレビの李ミャオ東京支局長は、ある光景を目撃した体験を語ってくれた。

「つい先日、新宿駅の南口を出たところで“たったひとりのデモ”を目撃しました。男性の介護士が『私たちはこんなに大変な仕事をしている。なのに、待遇はこんなに劣悪だ』と。同じようなことは障害者施設で働く職員たちにも言えるでしょう」

特別養護老人ホームの運営に関して厚生労働省が定めた現在の基準では、夜勤に従事する介護職員(または看護職員)の数は「入居者25人以下のときは1人以上、26人以上60人以下のときは2人以上」と定められている。単純に考えれば、ひとりの職員が最大で30人もの入居者に対処することになる。認知症を患っている入居者もいることを考えれば、過酷すぎる労働環境だ。そして、障害者施設でも夜勤の待遇は概(おおむ)ね同じだ。李氏は、その背景をこう考える。

「高齢化社会と経済の停滞・国家財政の悪化という、日本社会が直面している厳しい現実があると思います。“ひとりっ子政策”を続けてきた中国も、日本より少し遅れて、これから高齢化社会に突入していきます。日本の現状は、中国としても大いに教訓とすべきでしょう」

では、中国の人たちは相模原の事件の報に接して、どのような反応を示したのか?

「この事件に対する中国のネットユーザーたちのコメントで印象に残ったのは、『容疑者の普段の印象とのギャップの大きさ』を指摘するものでした。容疑者は犯行現場となった施設で3年以上も職員として働き、周囲の人たちも概ね好印象を抱いていたことに対してのギャップです。

このコメントの意味するところは、中国人として感覚的には理解できます。要するに『日本では予測不可能な犯罪が多い』という印象を多くの中国人が持っているということだと思います」

また、李氏は日本のメディアの報道についても疑問を投げかける。

「日本に住んで20年近くになりますが、初めの頃、『ここに住んでいて大丈夫だろうか? 日本は恐ろしい国なのではないか!?』と感じたのを憶えています。それは、日本のメディアで報道される殺人事件の件数があまりにも多いから。

もちろん、中国でも殺人事件は起きているし、起きる確率は日本と同程度かもしれませんが、日本のワイドショー番組等を見ていると、いつも何かしらの殺人事件が世間の注目を集めている。中国のメディアは政治や経済の報道が中心で、日本のように殺人事件をゴシップ的に伝えることは稀(まれ)です。

また、そういった日本メディアの事件報道は、警察発表の情報に依存しています。だから、警察からの情報が途絶えると新たに報道するネタがなくなってしまう。今回の事件は特殊な人物が起こした特異な犯罪だとは思いますが、もしその背景に社会全体の問題があるのなら、単なるゴシップ的な報道で終わらせずに掘り下げて考えていく必要があるはずです」

中国も韓国も、そして日本も、かつては障害者や老人のケアは家族が行なうものというのが当たりまえで、そういった慣習は現在も少なからず残っている。今回の事件に関しても、一部では被害者の家族に向けた批判的な見方もあった。

障害者の子を持つ親を取材した経験を持ち、その困難さを知る前出の金氏は、こういった風潮は「残酷な考え方だ」と言う。

改憲を目指す自民党は、2014年に公表した憲法改正草案の中で「家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」(第24条)という条文を新設している。これについて李氏は首を傾(かし)げる。

「安倍政権は『介護離職ゼロ』を政策目標に掲げていますよね。しかし、『家族は、互いに助け合わなければならない』という理念とどうバランスを取っていくのか、政策を実現するにあたり非常に難しいことが予想されます」

8月16日には、千葉市の老人ホームでアルバイトをしていた19歳の少女が建物に放火しようとして逮捕された、というニュースも報じられた。相模原事件の犯人がなぜあのような凶行に至ったのか、その全容は未だ明らかではないが、やはり現代日本社会が抱える問題と無関係とはいえないだろう。

(取材・文/田中茂朗 取材協力/松元千枝)

最終更新:8/17(水) 6:00

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