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邦人増加で弁護士ニーズが高まるタイ。日本人で弁護士事務所経営に乗り出した男を直撃

HARBOR BUSINESS Online 8/17(水) 9:10配信

 外務省が発表している海外在留邦人者数の最新版が6月に発表され、政情不安などでなにかと話題になるタイが、前年比4.9%増で67424人となっている(2015年10月1日現在)。これでもかと日本人が増えてきており、タイ人あるいは諸外国人やほかの日本人とのトラブルも多発している。

 そんな中、タイ国家警察の射撃練習場で日本人向けに射撃体験を提供する「BKKシューティング」の経営者、金丸昌弘氏が今年、タイの有名弁護士の事務所経営に参画し、日本人でも利用しやすい弁護士サービスを提供している。

 日本人も多くなり、タイにおける日本人社会のビジネス規模も拡大している今、信頼できる弁護士は必須であり、しかし、なかなかいい弁護士に出会えないという問題があった。

 これまでも日本人が関係する法律事務所はあるにはあったが行政書士の事務所のようなところが多かった。金丸氏の参画で刑事事件も自前で扱える法律事務所ができたわけで、タイにおける日本人社会も強い味方を得られることになる。そんな金丸氏に話を伺ってきた。

◆タイで弁護士が有効な理由

「タイでは弁護士になれるのはタイ国籍保有者のみですが、弁護士事務所の経営は外国人でも可能です。私が経営に携わる『ニティラット・アピバーンチョン法律事務所』は有名弁護士のワンチャナ氏を始め、20名以上の弁護士を擁しております」

 ワンチャナ氏は弁護士歴17年のベテランで、外国人が関係するトラブル解決を得意としている。ある年にはバーレーン人が殺人容疑で逮捕され弁護。きっちり無罪にしたことでバーレーン大使館からは厚い信頼を受けている。また、タイ人の事件でもテレビで取り上げられるような大きな案件を数多く扱い、富裕層の間ではよく知られた人物である。

 ほかにもニティラット・アピバーンチョン法律事務所には刑事事件、民事、商法など、それぞれを得意分野とする優秀な弁護士ばかりが揃う。会社設立もタイでは外国人にはハードルが高く、そういった業務も引き受けているという。

 ワンチャナ氏がタイでの弁護士利用のコツを話す。

「とにかく、なにか起こったらすぐに弁護士です。現場で、ですよ。タイではその場で示談にすることは多くのケースで可能です。警察官が現れ調書を取られると、今のタイでは警察署長でもその事件を上手に処理することが難しいので、その前に示談を済ませるべきでしょう」

 タイはアジア版EUである東南アジア諸国連合(AEC)の中心的な存在である。そのため、法律やモラルをワールドスタンダードへと急激に舵切りしなければならない立場にあり、先進国同様にトラブルが公になるともう誰にも止められない。裁判までいってしまえばそれこそ莫大な損害賠償金を払わされる可能性もある。弁護士料、その場での示談金は裁判までいったことを考えれば格安で済むというのだ。

 しかし、人はなかなか悪い習慣から足を洗うことは難しい。タイでは外国人同士のトラブルや面倒な案件には警察が動かないこともいまだにある。その点に関してワンチャナ氏は力強くこう付け加えた。

「タイでは警察が取り扱わない刑事事件を弁護士が捜査し、告発することもあります。諦めてはいけないということです」

 最近、タイ王室の名を騙って人身売買をしていた女性が逮捕された。この女性の夫が警察幹部であったことから、被害届があっても警察はなかなか重い腰を上げられなかった。そこである弁護士グループが動き出し摘発に至った。タイでも弁護士は強い存在なのである。

◆甘い考えの日本人の多さ

 金丸氏が弁護士事務所の経営に乗り出したのには大きな理由がある。

「私は射撃場を経営していますから、警察幹部とのつき合いがあります。また、ボランティアでタイ国家警察の通訳と観光警察のパトロール隊員もやっているのですが、中には大きな勘違いをして私に近づいてくる人がいるのです」

 勘違いとは、バンコクが20年近く前の混沌とした、なんでもありの社会だと思っている日本人がいまだにいる、ということだ。

 記憶に新しいのは、2015年10月にタイ東部にある歓楽街パタヤで日本人4人が覚醒剤関連で逮捕された事件だ。日本人ひとりがまず逮捕され、仲間3人が警察署を訪れ賄賂を手渡そうとしたところを逮捕された。そのときの動画が世に出回っているのだが、半笑いで余裕の態度で訪れたものの、返り討ちにされていた。タイはそんな世ではなくなってきたのだ。

 適当にカネさえ払えばなんでもできると勘違いをする輩が少なくない上、金丸氏の人間関係を勝手に魅力的に感じるどうしようもない日本人が少なからずいると嘆く。日々、金丸氏の噂を聞きつけた日本人が「ビザの超過滞在で捕まった」「飲食店無許可経営で警察に踏み込まれた」などといった自業自得の案件をでヘルプを持ち込んでくる。金丸氏のポリシーは一貫していて、そういった案件には手を貸さない。

「カネでなんとかしたいのであれば弁護士を雇って対応するしかありません。私はタイで幸せに暮らしたいなら品行方正でいなければならないと思っています。自分の不注意で助けてくれと言われても困ります」

 特にボランティアとして警察と関わる金丸氏としては常に中立の立場でいなければならない。知人がトラブルに巻き込まれて警察沙汰になった場合でさえ、助けたいのは山々の中、金丸氏は警察側から通訳を依頼されても断ってしまうほど中立を貫く。

 仮に金丸氏が手助けをするとしよう。しかし、実際に処理を行うのは警察の人々で、その案件に対して警察高官は方々でなんとか処理をするように頭を下げることになる。タイは人間関係が日本よりもシビアで、ちょっとした借りを作ってしまうと数年後に大きなトラブルに駆り出されてしまうこともあり命取りなのだ。特に大きな権力を手にできる警察幹部や軍幹部、政治家などは些細なマイナスポイントがあとで大きく響くのだ。それに相当するほどの見返りがあればいいのかもしれないが、ビザや経営許可証も取れないような無能な日本人は大概恩義を無碍にする。

「かといって、同胞ですからね。放っておくわけにもいきませんので、それであれば外国人との問題にも強い弁護士を紹介しますから、正統的に問題解決をしてください、という意味で弁護士事務所経営にも乗り出したというわけです」

◆日本語のWebサイトも作らない理由

 金丸氏はあえてホームページの作成も今は控えている。というのは、タイ語か英語を使って弁護士とファーストコンタクトも取れない人は、そもそもタイではビジネスをやっていくのが困難だと思っていることもある。

 それから、金丸氏は今年、タイの国立大学に入学した。留学生としてタイで就学する人は少なくないが、あくまでもタイ人の枠内で学生になっている人はあまり聞かれない。まだ1年目ではあるが法学部を専攻し、タイ語の教科書や法律書と格闘している。

「タイでは法学部を卒業するだけで日本でいう司法書士程度の業務に就くことができます。法廷弁護士は別に司法試験がありますが、せっかく法律事務所を経営しているのですからタイでタイの法学部くらいは卒業し、専門用語などもしっかりタイ語で把握できるようになっておきたいと思っています」

 金丸氏のタイの法曹界への挑戦は今年始まったばかりである。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)>

取材協力:NITTIRAT APIBALCHON LAW OFFICE CO.,LTD.電話:+66-2-422-3997

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最終更新:8/17(水) 9:10

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