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留置場体験を告白した作家・冲方丁が周防正行監督と“笑えない現実を笑う”トークイベント開催

週プレNEWS 8/18(木) 21:00配信

昨年、妻へのDV容疑で逮捕された作家・冲方丁(うぶかた・とう)が沈黙を破り、自身の身に突然降りかかった事件の全貌と留置場生活について語り下ろした『週刊プレイボーイ』での連載が話題を呼んだ。

その舞台裏をまとめた手記『冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置場』(集英社インターナショナル)が8月26日に刊行されることとなり、その発刊記念公開トークイベントも東京・新宿のロフトプラスワンで8月29日に開催される。

本屋大賞のほか数々の文学賞を受賞した人気作家だけに、逮捕の報はTVやネットで大々的に報じられたが、すでに不起訴処分が確定していることから無実は確定。ではなぜ、この事件は起こったのか? またイベントではどんなことが語られるのか? 現在の胸の内を直撃した――!

■理不尽な逮捕劇を「喜劇」として語る

―突然の逮捕騒動から、はや1年が経過しました。手記の発売を今月26日に控えた、今の心境を聞かせてください。

冲方 あの事件以降、公私ともに慌ただしく過ごしていたら、あっという間に1年が経ってしまいました。昨年から今春にかけて、一連の顛末の手記を『週刊プレイボーイ』で連載し、1冊の本に仕上げていく中で、この出来事の“出口”が見つかったように感じています。突然の逮捕と9日間におよんだ留置場での理不尽な体験を通じて見えてきた警察、検察、裁判所の驚きの実態を「喜劇」として世に伝えていくしかない、と。

―理不尽を通り越して、もはや滑稽(こっけい)であったということでしょうか?

冲方 そうですね。連載を始めるにあたって、最初は「このとんでもない現実を活字にしてやる!」と、かなり気負い込んでいたんです。しかし、実際にこうして連載を終え、1冊にまとめるにあたって、国家権力の内幕を喜劇と捉える視点を得たことで、ようやく余計な力が抜けてきました。おかげで今は、この1件をより広い視点で考えられるようになったと思います。

―逮捕時はかなり大きく報じられましたが、あれ以降、周りの人々に何か変化はありましたか?

冲方 親切な人が増えました(笑)。皆さん、僕がこの事件で相当追い詰められているのではないかと心配して下さっていて、本当にありがたいですね。信頼すべき相手とは、さらに信頼が深まった感じです。仕事面での大きな支障はなく、むしろ以前より増えています。この夏はこの10年で一番睡眠時間が少ないかもしれません。約1年前、留置場で9日間もの間、自由を奪われたストレスの反動で今も仕事をしている感じで、ちょっとマズいなと。

―では、週プレ誌上で手記を公開したことで、どのような反響が?

冲方 ファン、そして関係者からも「どうなっちゃうんだろうとドキドキしながら読んでます」という声を毎週たくさんいただきました。あるいは、警察内部のリアルな実態を知って「ショックを受けた」という人もいましたね。

―今回の書籍化にあたり、どのような点を念頭に加筆されましたか?

冲方 先ほどの「喜劇」という視点の話に戻りますが、今ある司法組織のシステムの不備を怒りや悲嘆に任せて書くと、「結局、国家権力は変えられないんだ」という消極的な読後感になってしまいます。怒りを抱くことで「それだけの価値があるもの」と無意識に捉えてしまい、かえって現実を変えていく力が残らなくなるのでは、と感じたのです。そこで、今回私が体験した出来事を「笑い飛ばすべき馬鹿馬鹿しいもの」として書くように努めました。馬鹿なものは笑うに限ります。

―先ほども仰ってましたが、あらためて作家として得たものも?

冲方 ある意味、「事実は小説より奇なり」なシロモノをたっぷり留置場生活で見せつけられたので、ひとりの作家として、これをどう作品に生かすか、大きな課題を与えられた気分です。ただし、今の警察の現実をそのまま小説にすると、あまりに馬鹿馬鹿しすぎて「リアリティがない」と思われかねませんから、自分なりに昇華しなければならないなと。

―それだけ警察組織の歪(いびつ)な部分を目の当たりにした、と。

冲方 そうですね。これを今後、なんらかの作品に生かす場合、今、浮かんでいるアイディアとしては、硬直したガチガチの組織の中で頑張る警察官でしょうか。初期の正義感がいつのまにか組織の力で歪曲されて、「俺はこんなことのために警察になったわけじゃない…」と、苦しむ警官を小説では書きたいですね。

―今回の出版記念イベントでは、痴漢冤罪事件をテーマに日本の刑事司法の問題点を浮かび上がらせた映画『それでもボクはやってない』の周防正行監督との公開対談も予定されています。また、実際に冲方さんの弁護を担当したふたりの弁護士も登壇予定とか。

冲方 周防監督は、一連の問題点を映像で表現する巧みさだけでなく、とてつもない勉強意欲をお持ちの方で、話を伺うだけでも万人が刺激を受けるに違いありません。僕自身、本書の対談でお会いして大変感銘を受けました。また警察、検察、裁判所がいかに世間一般から乖離(かいり)した「不思議の世界」であるか、私の担当弁護士からも存分に聞けると思います。笑えない現実を、大いに笑わせてくれるイベントになるはずですよ。

―そこで冲方さん自身はどんなことを期待していますか?

冲方 このイベントを通して、司法の現実が少しでも「まとも」に変わるきっかけが生まれることを期待しています。どうすれば変えていけるのか、フィクションの役割は何か、といったことを僕自身も学びつつ、ご来場いただいた皆さんと共有できたらと思っていますので、どうかお楽しみに。

★8月29日、ロフトプラスワンで行なわれるトークショーの詳細はこちらから。

●冲方 丁(うぶかた・とう)
1977年生まれ、岐阜県出身。小説家、アニメ脚本家。96年に『黒い季節』で角川スニーカー大賞・金賞を受賞し、デビュー。2003年、『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞を、2010年に『天地明察』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞などの受賞歴がある

最終更新:8/18(木) 21:00

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