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クローン技術でつくるビンテージワイン

Wedge 8/19(金) 11:10配信

 どんなビンテージワインも再生できる、しかも値段は1本50ドル。こんなコンセプトを打ち出す「ワイナリー」が登場し、話題となっている。サンフランシスコに今年創設されたアバ・ワイナリーは、ぶどうもイースト菌も使わずにワインを作り出す。その手法とは分子分析によるワインの再生、つまりクローニングだ。

クローニング技術

 ワイナリーの創業者、アレック・リー氏とマルドン・チュア氏はカナダのブリティッシュコロンビア大学で知り合った。リー氏はバイオテクノロジー専攻、チュア氏は分子生物学専攻。2人がワイン造りを思い立ったのは昨年のこと、1本1万ドル、というシャトー・モンテレナのシャルドネワインを目にしたことからだ。「このような値段のワインを自分達は買えない、でも成分を分析して全く同じワインを作ることは可能だ」と考えた。

 必要なのはアミノ酸、酸、砂糖、揮発性物質、エタノールのみ。これがワインの構成要素であり、対象となるワインのそれぞれの要素を分析、比率を全く同一にすることで理論的には同じ味のワインが生まれる。

 このアイデアに対し、ベンチャー投資家から250万ドルの融資が行われた。成功すればアメリカの、いや世界のワイン地図を書き換える「革命」となる。何せブドウ畑も醸造所も不要、研究室の中から高級ワインが生み出されるのだ。

 アバでは現在モスカート・ダスティ、ドンペリニョン、ピノ・ノワールの三種類のワインのクローニングに挑んでいる。すでにオンラインで予約注文を開始しており、最初の500本は今年の夏以降順次出荷予定だという。

 問題は研究室内で作られたクローニングワインを「ワイン」として販売することが認められるか、など主にライセンス系の障壁で、製品の完成については2人は絶大の自信を持っている、という。

いずれ世界の食品は合成に頼らざるを得なくなる

 リー氏は「いずれ世界の食品は合成に頼らざるを得なくなる」と考える。発展途上国での食料不足は深刻で、中国やインドの人口が今以上に増加し、この2つの国が先進国の仲間入りをするほどの経済発展を遂げれば、特に高級食材の価格は高騰する。クローンワインはそのような未来に対応できるものだ、という。

 ワインだけではない。成分を分析し、その構成要素を人為的に再構築する、という手法はほぼどのような食品、飲料にも対応できる。実際合成肉の研究は各国で進んでいるが、リー氏は嗜好品の要素が強いもの、例えばチョコレートやコーヒーにこの手法を適用することも将来には視野に入れている。チョコレートのカカオ豆、コーヒー豆は世界的に不足傾向にあり、今後価格の高騰が見込まれるためだ。

 ただしワインだけでも世界には数百、数千のブランドがあり、その中で人々に好まれる高級品だけを選んでもクローニング対象は多い。会社が一定の軌道に乗り、生産するワインブランドも決定した後で、他の食品クローニングにも取り組む、というまだ先の長い話ではある。

 リー氏はクローニングについて「オリジナルを冒涜するものではなく、比較的安い価格でオリジナルと同じ”体験”を広め、結果としてオリジナルの価値を尊重するもの」と語る。「モナ・リザのレプリカを飾っている人は多いが、それによってオリジナルのモナ・リザの価値が下がることはない。ワインのクローニングもそれと同じだ」という。

 クローニングワインが市場にどのように受け入れられるかはまだ未知数だ。しかしキュービック・ジルコニアがファッションアクセサリーの要素として広く受け入れられ、「ダイヤではないがダイヤと同様の輝きを持つ」と認識されているように、「有名ワイナリーの味が手軽な価格で楽しめる」飲み物、として普及する日は遠くないかもしれない。

土方細秩子 (ジャーナリスト)

最終更新:8/19(金) 11:10

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