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母子手帳はなぜ親子を強くするのか?モンゴルでも活用が進む

Wedge 8/19(金) 12:20配信

 母子手帳の海外展開が検討されている。日本に住む子の親ならだれでも知っている母子手帳、すでに多くの国で導入されている。また、さらに多くの国において導入が検討されている。

 母子手帳の特徴は、

 1) 妊婦と子ども個人の健康に関して書きこむこと

 2) この情報を医療従事者と家族が共有すること

 3) 家族がそれを持つこと

 となっている。

何の役に立つのか?

 日本では当たり前の母子手帳だが、別の国で導入が検討されるとなると、「なんの役に立つのか」「それはコストに見合うのか」といったような真剣な検討がされる。

 10年近く前、モンゴル国を訪れる機会があり、同国の保健省(日本でいう厚生労働省)の母子保健担当者と意見交換をする機会があった。その際、日本の母子手帳に大変興味を持っている、というお話をいただいた。

 ただ、政策として導入するには、「単なる手帳」といえども、印刷代や研修費用など、導入のためにはコストもかかる。そこで、母子健康手帳は役に立つのか、立つとすれば、どのように役に立つのか、検証する必要があるという意見もあった。

 実は日本の母子手帳は、この時まで、「本当の役に立つのか」ということに関して、保健医療分野では当たり前となっているランダム化比較試験という質の高い手法を用いた検証をされたことがなかった。

 そこで、モンゴル国と日本の母子保健に関する関係者が一丸となって、母子手帳が本当に役に立つのか、ランダム化比較試験で検証しよう、ということになった。

 ボルガン県というモンゴルでは平均的な県が、その検証の場として選ばれた。ボルガン県の面積は、関東地方よりも大きい4万3730平方メートルに、人口は約5万4000人。モンゴルの首都ウランバートルから約500キロ、車で7時間ほど西に向かったところにある。

保健医療関係者の意識の高さ

 ボルガン県の中心ボルガン市に、すべての村からの関係者に来てもらって、研究の意義に説明させてもらった。ボルガン県にある村をくじ引きで半分に分け、半分の村は、今すぐ手帳の配布が始められ、残りの半分は、研究終了後(約一年後)に配布が始められる。みな、早く母子手帳を配布してほしいと思う一方、研究をすることの意義も充分に理解してもらった。保健医療関係者の意識の高さには感銘を受けた。

 モンゴルの村には、2000~3000人ほどの住民がおり、村ごとに必ず医療センターがある。ここには数名の家庭医や医療従事者が常駐しており、実は村の住民をすべて把握している。基本的な保健医療はすべて無料であり、医療サービスは先進国の先端医療とはくらべれないものの、一般的には信頼も高い。社会保障番号(マイナンバー)も何年も前から導入されている。

 妊婦健診や出産も、原則、村の医療センターで行われる。産後の健診は、家庭医が自宅を訪問して行う。モンゴルでは多くの住民が遊牧民で、テント(ゲル)による生活を送っているが、基本的には、季節的に移動するものの、移動する場所は大体決まっており、それも家庭医たちは把握している。

 妊娠がわかったら、医療センターを訪れる。配布が決まった村では、その際に、母子手帳が配られ、その使い方も含めて説明される。

 出産は原則、村の医療センターで行われるのだが、何らかのリスクがあると、県病院やウランバートルの医療施設に紹介されるため、さまざまな理由から四分の一の妊婦さんが、別の地域の病院で出産する。それでも、自宅分娩はほとんどない。

 村で母子手帳を受け取った妊婦さんをすべて把握するため、研究チームでは、家庭医が自宅訪問する産後健診に合わせて、お母さん側と医療施設側の双方から必要な情報をいただいた。遅れて配布する村でも、同じように産後健診の際に情報をいただいた。

 その結果、母子手帳を受け取ることで、妊婦健診の受診率が改善することがわかった。また、妊娠中の合併症がより多く見つかること、受動喫煙の割合が減ることも同時に観察された。これらは、妊婦健診の受診率が向上することの副次的な効果だと考えられた。

 妊婦健診の受診率は、実は母子保健はおろか、住民の健康にとっては最重要である。なぜなら、住民が制度側に来て初めて、すべての必要な保健・医療サービスが提供できるのであり、妊婦健診は人生で一番最初に(胎児として)、制度側を訪れる機会だからである。逆に言えば、妊婦健診をしっかり受診することが、ワクチンなどその後の必要な保健医療サービスの普及につながるのであり、多くの途上国ではこれが最優先課題となっている。

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最終更新:8/19(金) 12:20

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