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尖閣漁船衝突で習近平の対日政策に変化はあるか?

週刊文春 8/20(土) 7:01配信

 中国側の「奇襲」というべき挑発だった。8月5日から中国海警局公船と漁船が大量に尖閣諸島周辺に押し寄せた事件。実に200~300隻の漁船が操業、8日には過去最多の15隻の公船が同時に接続水域を航行した。9日までに公船による領海侵入は28回に達した。

 王毅外相が就任後初めて訪日するための調整が進む中、実は中国外務省にとっても想定外の事態だった模様だ。

 8月初めからは河北省の避暑地・北戴河で習近平国家主席や長老が一堂に集結。今回の挑発の背景には何らかの政治指令があったのは確実だ。

 一つには、習近平自らが指揮して「日本」に強硬姿勢を誇示して求心力を高めようとする狙い。北京の共産党筋は「外交・経済政策、反腐敗闘争をめぐる習主席への不満が党内で高まっている」と解説する。特に南シナ海問題の仲裁判決「全面敗北」で党内批判が高まる中、尖閣周辺で日本の実効支配を崩しているという実績を誇示する狙いがあったという見方だ。

 もう一つは、習に反対する軍勢力が、対日関係改善に舵を切ろうとした習指導部や外務省を牽制したという説だ。一部の漁船は軍の指揮を受ける「海上民兵」とみられる。

 ところが11日早朝、尖閣沖でギリシャ船籍の貨物船と衝突した中国漁船が沈没し、海上保安庁巡視船が漁船の乗員6人を救助すると事態は一変。奇妙なことにその直後、公船は、8日ぶりに接続水域からいなくなり、侵入は沈静化した。中国のネット上では「(漁船保護を目的とした)中国の公船はなぜいなかったのか」という批判が噴出した。

 中国外務省報道官は当初は日本の救助に触れなかったが、改めて出した談話で「日本側が表した協力と人道主義精神を中国は称賛する」と付け加えた。談話を2度出すのは異例で、その間に政策転換があったとみられる。

 政治の季節を迎える習にとって「対日弱腰」という選択肢はないが、9月初めに杭州でのG20首脳会議を控え、日中衝突は避けたい。そこに降ってわいた救助劇は、絶妙のタイミングで危機回避を演出した形となった。しかし共産党関係者は「軍には(過去の戦争への)対日報復思想が強く存在する」と言い切る。尖閣の緊張状態は続く。


<週刊文春2016年8月25日号『THIS WEEK』より>

城山 英巳(時事通信外信部記者)

最終更新:8/20(土) 7:06

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