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ハムロ、行きまーす!――葉室麟が描く戦国の女たち

本の話WEB 8/21(日) 12:00配信

 大河ドラマ「真田丸」の細川ガラシャは、このコラムが更新される頃にはもしかしたらもう退場してるかな? 個性派のおじさんたちに目を奪われがちだけど、どうしてなかなか女性陣も魅せてくれてる。淀、寧、稲、ガラシャ、こう、薫、とり、松、春、梅、きり、阿茶(斉藤由貴の演技、大好き!)。

 史実と史実の間をいかにドラマティックに、且つ史実と矛盾がないようにつないでみせるかが歴史小説・歴史ドラマの面白さだけど、こと女性に関しては、まず史料自体があまりに少ない。重要人物でも名前すらわかってないことだって、珍しくない。戦国時代の家系図なんて、女性のところは「女」とか「誰それの室(妻)」とかだからね。だからこそ、女性たちをどう描くかというのはひとえに作家・脚本家の腕にかかっている。

 たとえば真田信繁の側室に関しては「堀田作兵衛の妹が女児を産んだ」「高梨内記の娘が女児を産んで阿梅と名付けられた」「阿梅を産んだのは正室の竹林院との説も」などの情報がある。そこで名前がわからない最初の側室を「梅」ということにすれば、のちに生まれる娘に信繁は初恋の人の名をつけた、てな胸キュン展開にできるわけだ。まあ、ドラマでどう描かれるかはまだわからないけども。

 ことほどさように、史料がない分、女性の描き方については自由度が大きい。だがそれは「何を書いてもいい」というわけではない。なるほどこう来るか、それありえるかも、そうだったら面白い――という説得力がなければかえって興ざめだ。そこで今回紹介するのは、葉室麟が描く戦国の女性たちの物語、『冬姫』(集英社文庫)と『山桜記』(文春文庫)。これが巧いのよ。まさに「こう来たか!」と手を叩いたね。

伝奇風味なのに史実に辿り着く『冬姫』

『冬姫』の主人公は織田信長の次女、冬姫。蒲生忠三郎(のちの氏郷)に嫁いだ人物だ。物語は連作仕立てで、各話で信長の娘・五徳、信長の妹・お市の方、信長正室・帰蝶(濃姫)、信長側室のお鍋の方、細川ガラシャ、淀殿、家康の正室・築山殿といった錚々たる女性たちが登場する。

 ……ちょっと待て、今なんか変な名前があったぞ。女性名は不明のことも多いが、もちろん名前がわかっている人物についてはその名を使っているわけで、信長の長女は五徳、側室はお鍋の方。信長は息子に茶筅丸と名付けている。そういや姪は茶々だ。

 作中でも指摘されているが、信長、台所用品マニアなの? このネーミングセンス、何なの? 名前なんて飾りなの? それとも認めたくない若さゆえの過ちなの? あ、そういえば、あのアニメにもカツレツとキッコーマンが由来のキャラがいたような……すみません、もうやめます。ちょっと調子こいちゃった。大矢だからさ(←持ちギャグ)。

 作中、五徳は冬姫に対し、自分は鉄瓶でも乗せてるような名前なのに妹は冬姫なんてキレイな名前もらってるのが気に入らない、てなことを考える場面がある。わかるわー。それ拗ねるわー。でも冬姫というのも実は正式な名前の記録はなく、「永禄十二年冬姫を嫁がせた」という記録から、冬に姫が嫁いだのを、冬姫が嫁いだと誤読された可能性があるらしいのよ。だからホントは、俎板とか包丁とかって名前だったかもしれないのだ。負けるな五徳!

 さて、『冬姫』は動乱の戦国時代、嫁いだ家を守るため、あるいは実家の血筋を残すため、亡くなった親の思いを継ぐため、「女いくさ」を戦う女性たちの物語だ。ところが、男性だけど女装の忍びが冬姫の侍女(?)になったり、呪術や幻術などが登場したりと伝奇風味が強く、最初は「あれ? その手の話?」とちょっと戸惑った。でも。

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最終更新:8/21(日) 12:00

本の話WEB

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北朝鮮からの脱出
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