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シネコンの上映作品はどう選ばれる? “どこも同じ”になりがちな編成事情と、各館の差別化戦略

リアルサウンド 8/21(日) 12:42配信

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】などで知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第7回は“シネコンの上映作品編成”について。 (メイン写真:『神様の思し召し』より)

 シネコンは「どこも同じ」だと言われます。建物の作りもなんとなく似ているし、それに上映している映画もほとんど変わらないじゃないか、と。本当でしょうか?

 これを執筆している8月16日時点の全国の主要都市にあるシネコンの上映作品を調べてみました。特に深い意図はなくピックアップした9館。いずれもスクリーン数は10~12です。

TOHOシネマズ新宿
川崎チネチッタ
大阪ステーションシネマ
109シネマズ名古屋
コロナシネマワールド小牧
イオンシネマ岡山
ユナイテッドシネマ キャナルシティ福岡
MOVIX仙台
札幌シネマフロンティア

 これに僕が勤めている「立川シネマシティ」を併せて10館。これくらい調べれば見えてくるでしょう。  

 さて、まず結論から。 現在が夏休み興行中ということも大きいのですが、いやあ、驚くほど“どこも同じ”でした(笑)。 

 共通して上映されている作品を挙げてみますと、

『シン・ゴジラ』
『X-MEN:アポカリプス』
『ジャングル・ブック』
『秘密 THE TOP SECRET』
『ルドルフとイッパイアッテナ』
『ターザン:REBORN』
『ONE PIECE FILM GOLD』
『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z ボルケニオンと機巧のマギアナ』
『ファインディング・ドリー』
『インデペンデンス・デイ リサージェンス』
『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』
『アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅』
『ペット』
『劇場版アイカツスターズ!』
『劇場版 仮面ライダーゴースト/動物戦隊ジュウオウジャー』
『HiGH & LOW THE MOVIE』
『TOO YOUNG TO DIE 若くして死ぬ』
『ロスト・バケーション』

 これですべてです。トータル18本。 もちろん全作品を全劇場で上映しているのではなく、何本かをやったりやってなかったりします。少し前の作品をまだ延長して上映している劇場もありました。

 上記以外の作品を上映していたのは以下のシネコンです。延長上映は外します。

川崎チネチッタ:『シング・ストリート』『ヒマラヤ 地上8000メートルの絆』『アクセル・ワールド INFINITE∞BURST』『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY』 
大阪ステーションシネマ:『栄光のランナー/1936ベルリン』『ニュースの真相』『ヤング・アダルト・ニューヨーク』『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』
109シネマズ名古屋:『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY』
ユナイテッドシネマ キャナルシティ福岡:『アンフレンデッド』
MOVIX仙台:『アクセル・ワールド INFINITE∞BURST』 
札幌シネマフロンティア:『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY』『アクセル・ワールド INFINITE∞BURST』
立川シネマシティ:『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『劇場版ガールズ&パンツァー』『セトウツミ』『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY』  

 川崎チネチッタ、大阪ステーションシネマ、ユナイテッドシネマ キャナルシティには“劇場の意思”が感じられる作品があります。立川シネマシティは…ひとまずおいておきましょう(笑)。  

  さて、話は戻って、なぜ“どこも同じ”ということになるのでしょうか。 理由はシンプルです。 映画館は“商品を仕入れて販売する”というスタイルではなく、“商売する場所を提供する”百貨店やショッピングモールのような要素が強いからです。 主要な取引先、つまり配給会社は数えるほどしかありません。

 ちなみに上記18本の配給会社を記すと、 

東宝
松竹
東映
東宝東和
20世紀フォックス
ディズニー
ソニー・ピクチャーズ
ワーナー・ブラザース映画

の8社です。映画にさほど詳しくない方でもご存じの会社ばかりでしょう。

 もし大手配給会社が何十社もあって、熾烈な競争があるならば、思い切って○○社の今夏の作品は間違いなくコケるから上映しない、という選択もできるのかも知れません。ですが実際は大変少ない。そしてその会社の次の冬の作品は大ヒットするかも知れないわけです。夏をシビアに断って上手くいったとしても、冬は逆に上映したくても上映させてもらえなくなるかもしれないのです。そういうわけで、シネコンでは1本1本の映画でスケジュールを考えているというより、配給会社ごとに劇場を割り振っている、と考えたほうが近いかもしれません。

 大作の日本映画を製作したり、大きな制作費の洋画を配給できる会社は限られている狭い業界ですから、良しにつけ悪しきにつけリスクを減らす方向に向かうのは当然です。そんなわけで、映画館が出来ることと言えば上映回数を増減したり、観やすい時間帯にヒット作をあてることくらいになります。少し大げさに言えば、“シネコンは上映作品を選べない”と言ってもいいかも知れません。ほとんどの上映作品は“おつきあい”の中で決められるのです。だから日本全国“どこも同じ”になってしまうのです(ただそれぞれの劇場が全然違う作品を上映していることが必ずしもお客様の望むことではないとも思いますが)。

 そのような状況の中で、IMAXや4DX、MX4D、ULTILA、D-BOXなどは、上映作品こそ同じでも、他館となんとか差別化を図るための施策なわけです。シネマシティが仕掛けている【極上音響上映】【極上爆音上映】も同様です。

 しかし作品選択も、本当に全部が全部ガチガチに決まってしまっていて、もうどうにもならないというわけではありません。繁忙期を過ぎれば少し余裕も出てきます。余裕と言ってもせいぜい全体の2割ですが、上映作品を選ぶことだって出来るのです。その気にさえなれば、全国で10館とか15館程度の公開館数のミニシアター作品だって上映させてもらえるかも知れません。あるいは過去作品のリバイバル上映や、少し前の作品を遅れて上映することだって出来る可能性があります。そう、やるかやらないかなのです。

 そして、映画ファンの皆様、安心してください。あなたのお近くのシネコンにも「よし、やろう」という、映画が大好きなスタッフがきっといるはずです。本当はシネコンだって“どこも同じ”なんかではありません。例え集客が難しいのがなんとなくわかっていても、どうしても紹介したいから、お客様からリクエストが多かったから、と独自の上映を試みようというシネコンはたくさんあります。

 派手な大作が話題になりがちな繁忙期に情報を見ることが多いから“どこも同じ”に感じられるだけで、本当は各館いろいろやっているのです。やり方の巧拙や地域性などで、結果を出すことは難しいことも多いですが、これからのシネコンはもっと多様化していくはずです。なぜならインフラとしての映画館の館数は、しばらく前に飽和したように見えるからです。

 かつての“シネマコンプレックス”という業態自体が魅力的だったステージは過去のものとなり、映画をより魅力的に観てもらうための競争や、他の劇場では上映していない作品で差別化を図る競争のステージが始まっています。

 例えば立川シネマシティでは、8月27日(土)からイタリア映画『神様の思し召し』を上映します。東京ですらシネマシティて含めたった2館だけでの公開作品です。なぜ上映するのか? 今作は今年の東京国際映画祭で観客賞を受賞しました。つまり映画ファンに愛される映画だと確信できるからです。

 優秀な外科医と風変わりなチョイ悪神父の、中年のおっさん同士のバディムービーで、派手でポップな要素は少ないですが、笑わせられホロリとさせられて、そしてはっと胸を突く幕切れを迎える、素晴らしい作品です。冴えないように思えるタイトルですが、見終わった後にはこの題名しかない、と深く納得させられます。

 効率よくヒットしている作品だけを上映していくことこそビジネスの王道のように思えますが、しかし“どこにも似ていない”上映ラインナップで劇場自体にファンを作ることも、中長期的には功を奏すという考え方もできるはずです。

 この先のシネコンは新刊の雑誌の棚のような状況から、きっと少しずつ変わっていきます。You ain't heard nothin' yet!(お楽しみはこれからだ)

遠山武志

最終更新:8/21(日) 12:42

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