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【隔週連載】森博嗣 道なき未知〈第21回〉一歩踏込んだ想像をする

BEST TIMES 8/22(月) 12:00配信

第21回
一歩踏込んだ想像をする

 

想定して考える

 「考える」について考えている。予定を立てるときに、最初にこれをして、次はあれをして、といった「手順」くらいは誰でも考えるだろう。あるときは、「作戦」などとも呼ばれる。さき回りして考えておく。あとはそれを実行に移すだけだ。なにごとも戦略が必要である。
 しかし、いくら綿密に考えても、相手がどう出てくるかは精確に予想できない。相手だって考えているだろうし、戦略を持っているはずだ。また、相手がないものでも、いろいろなトラブルが起こる。すべてのステップを順調に進めるわけではない。「予定どおり」なんて奇跡だ。
 そんなときに、相手がもしこうしたら、もしここでトラブルが発生したら、と想像をして、その対処を考えておくことが重要となる。「考える」ことが最も威力を発揮する場面でもあるだろう。
 人間は普通、嫌なものを考えたがらない。自分にとって都合の良い場面ばかり想像し、「上手くいったら良いなあ」と夢見ている。これは「考える」ではない。ただ、ぼんやりと思い浮かべ眺めているだけだ。
 いろいろな場合を想定して考えておくことで、予定や計画どおりに実行できる。結局この確率の高さが、その人を成功へと導くのである。
 この、自分が思ったとおりになることを「自由」という。自由に必要なものは「想定」だといっても良い。そして、何が起こりうるのかを想定するときには、経験による知識がものを言う。でも、前人未到の領域へ初めて踏み入るような場面では、経験はなく、知識や計算で予測できないものも多々あるだろう。その最後のギャップを埋めるものが、人間だけが持っている「発想」という能力なのである。

 

「発想」というマジック

 素晴らしい成功例を見ると、そこには綿密な「計算」や積み重ねた「努力」が必ずある。大部分がそれらの集合体だといっても良い。しかし、ほんのちょっとした部分に目を留めることになるだろう。それは「ああ、よくここでこれを思いつきましたね」と感心する部分である。すると、その成功者はにんまりとして答えるのだ。「そうなんですよ。これを思いついたときには、絶対に上手くいくと感じましたね」と。
 これが「発想」である。「アイデア」と呼ばれることもある。全体からすればほんの僅かにすぎない部分だから、「成功には九十九パーセントの努力と一パーセントのインスピレーションだ」などと言われているが、実際には、その一パーセントが勝敗を分ける。その一パーセントがあったからこそ、九十九パーセントの努力ができたのだ。
 では、どうすれば「発想」できるのか。ここが大事なところだが、しかし「手法」というものはない。
 とにかく、そのことばかり考えて、熱中してことを進める。なにかないか、なにか使えないか、なにか道はないか、なにか、なにか、と悶々として考える時間を過ごす。あるときは何年もそればかり考える。頭脳は計算のときのように働いていない。むしろ空回りしているように、脈絡もなく、あれもこれも、と連想している。しかし、とにかく、関心を持った対象のことだけで頭がいっぱいだから、なにを見ても、そのことへ考えが及ぶのである。
 たとえば、プログラミングをしていた頃には、目を瞑ってもアルゴリズムやコードが見えた。寝るときには天井にリストが現れた。それくらい「没頭」していると、ふとした切っ掛けで生まれてくる発想がある。普段ならば見逃すようなことかもしれないが、「え?」と息を止め、「今のは何だ?」と思考を振り返る。自分の目の前を通り過ぎたものをもう一度確かめにいく。そして、それが「使えるかもしれない」と感じる。ここは、勘である。
 「閃き」というのは、こういうものだ。日常生活や趣味での発想は、「おお、そうだそうだ」くらいの興奮だが、研究上の閃きとなると、思いついても、それが本当に使えるものかを見極めるのに何日もかかるから、喜びなどは後回し、興奮もできるだけ抑えて、とりあえず検証の計算をすることになるだろう。
 想定する、発想する、といった行為を、あなたはしているだろうか? 

 

毎日土いじり

 庭園鉄道には、ゲストが大勢訪れる日がある。このときには、沢山の列車が同時に運行するから、信号が必要だ。ここ数日は、その信号機の工事をしていた。主な作業は、信号機どうしを結ぶケーブルを地面に埋めること。全長数百メートルに及ぶ長さなので、何日もかけて地道に進めるしかない。これが実に楽しい。子供のときに砂場遊びが好きだったことを思い出しながら……。

 

文/森博嗣

最終更新:8/22(月) 12:00

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