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大手運送会社とネット通販――物流の覇権を巡る戦いに火花を散らす。〈インタビュー〉楡 周平『ドッグファイト』

Book Bang 8/22(月) 6:30配信

悪のヒーロー・朝倉恭介を描いた『Cの福音』でデビュー、『フェイク』 などコミカルな作品から『スリーパー』などの国際謀略小説まで執筆の幅をひろげてきた楡周平さん。米国企業に所属していた経験を生かし、経済小説でも高い評価を得ています。物流の世界を舞台に、企業同士のドッグファイト(空中戦)を描いた最新刊についてお話を伺いました。

▼物流を握る者が一番強い

――『再生巨流』や『ラストワンマイル』などで物流の世界を描いてきた楡さんが、ネット通販と運送会社の生きるか死ぬか、呑み込まれるか否かの攻防を描いたのが新刊『ドッグファイト』です。ネット通販を取り上げた理由は何ですか?

楡 少子高齢化が進んでいく日本という国を考えると、ネット通販なくしては生きられない人たちがたくさん出てくる、という現状があります。かつて大手スーパーの進出により、地元の家族経営によるパパママストアがどんどん閉店に追い込まれました。しかし今ではスーパーがネット通販によって潰されようとしています。特に過疎化した地方ではより深刻です。近所にスーパーがなくなってしまうため、車の運転ができなくなったらすぐに買い物難民となってしまいます。

――主人公はコンゴウ陸送の経営企画部課長、郡司清隆です。コンゴウ陸送の現状は、取扱量は増加していますが利益率が低下しています。その理由は大口顧客による配送料金のダンピング。それを是正しない限り未来はないと上司に進言した郡司は、営業部に異動させられ、利益率低下の元凶である外資系ネット通販会社スイフト・ジャパンの担当になります。

楡 ネット通販は最先端のテクノロジーを駆使して、とことん効率を追い求めてやっているIT企業の典型のように見えますが、とどのつまりは物流業なんです。情報だけは瞬時に行き交う世の中になりましたが、最終的に物を届けるには運送業者がいないと話にならない。アナログの極致で、すごく原始的なんですが、最後の行程を握っているところが本来は絶対的に強いはずなんです。

――しかし、そのいちばん強いはずの運送業者の状況が、現実でも悪化しているようですね。

楡 コンゴウ陸送のモデルとなった大手運送業者は、全国を網羅した宅配便の配送システムを完備しています。つまり自社でインフラを作ってしまったわけです。そうすると固定的な維持費がかかってきます。そこで、利益を上げるために取扱量を増やさなくてはいけなくなる。物を運ぶ商売って、空気を運ぶより少しでも金になった方がマシだという考えが根底にあるんですね。そこで営業の問題が出てきます。

私も会社勤めをしていたからわかるのですが、営業以外のセクションの人間からみると、なんでこんな仕事を引き受けてくるのかということがよくありました。営業マンにはノルマがあり、上司から売上を上げろと散々言われる。そうすると利益率を考えずにノルマの達成のみに目が行くため、売上を確保するために大口顧客にとって無茶苦茶な好条件を出してしまう。そういうケースがすごく多いと思います。

――営業マンにとってはノルマ達成が至上命題でしょうからね。

楡 私がいた会社も、昼の十二時までに発注すれば夕方六時までに配送するなんてことを当たり前にやっていました。配送専用車両を契約しているんだから、使わないと損じゃないかという考え方で。しかしそのために、物流倉庫の中ではものすごい無駄が生じます。発注が読めないので人を張り付けておかなければならないし、急いで物を集めなければならない。イレギュラーな仕事が増え、倉庫内の作業効率が落ちる。それにエリア内の注文が少なければ配送コストがべらぼうな金額になる。そういう間接的なコストの意識が欠如している営業マンがすごく多くて、分析してみると売上は上がっても収益にはまったく結びついていないってことが多くありました。

それと同じことが、いまのネット通販の世界で起こっているのではないかと思っています。

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最終更新:8/22(月) 6:30

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