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PCデポ「高額請求」問題で炎上中。純利益10倍ビジネスの思わぬ落とし穴とは!?

HARBOR BUSINESS Online 8/22(月) 16:20配信

 決算書や財務諸表などの公開情報をもとに、さまざまな企業を分析し、その知られざる実態を明らかにする本連載。第10回目に取り上げるのは現在、絶賛「炎上中」のあの家電量販チェーン店。問題視された高額なサポート契約の背景にあったのは、同社の純利益10倍ビジネスモデルの大転換の落とし穴だった――

 PCのサポートサービスとして、高齢者に月額1万5000円の契約をさせ、解除時には20万円もの解約料を請求。こうした経緯がtwitterで明らかになり、批判が殺到している家電量販チェーン店「PCデポ」。すでに公式HP上で謝罪と対策を発表しているが、いまだに事態の沈静化の見通しは立っていない。

 解約料に20万円というのは明らかに高すぎだが、そもそもなぜこんなことになったのか。決算書を読み解くと、同社が急速な事業転換によって掴んだ成功、そして早くも迎えてしまったそのビジネスモデルの限界が見えてきた。筆者はここに原因があると考えている。早速、詳しく見てみたい。

◆好調だったPCデポの業績

 そもそも同社の株価は、アベノミクスのあおりを受けた’13年以来高騰しており、たった3年余で15倍以上になっている。その理由は、純利益がなんと10倍に増えたためだ。純利益は売上高から、売上原価、販管費、営業外収益/費用、特別利益/損益、税金などあらゆる要因を引いて算出される数値のことだ。

 なんと、その純利益がこの4年間で10倍も増え、1%にすら満たなかった売上高純利益率が今年は5%を超えているのだ。

 ところが、その一方で、売上高の推移を見てみると、常に500億円前後で全く成長していない。

 なぜ売上高が上昇していないのに、純利益が増えているのか。それは「売上原価」が急速に低下しているからだ。背景には同社の抜本的な業態転換がある。

◆サポート契約で稼ぐビジネスモデル

 ただ単に電化製品を売るだけでは利幅を出すことが難しい昨今、PCデポは初期設定やメンテナンスなどのカスタマーサポートをきめ細やかく行うことに注力し、高齢者層をターゲットにサービスでお金をとる方向に思い切ってシフトしたのだ。

 この経営戦略自体は、ヤマダ電機など業界大手と比較して、規模ではるかに劣るニッチプレイヤーが、分野の絞り込み(高齢者向けサービス)によって差別化を図るという点と、かつてのIBMのようにハードウェアを捨てサービスで稼ぐ道を選んだという点で、正しい戦略といえよう。

 実際、PCデポの利益は伸び続けた。このまま何も起きなければ、経営学の教科書にも載るような事例になったかもしれない。しかし、現実はそう甘くない。同社の有価証券報告書からは厳しい指標がいくつも読み取れた。

 まず筆者が気になったのは、借入と返済による現金の増減を表す指標「財務キャッシュフロー(CF)」だ。つまり、資金調達の状況がわかるのだが、財務CFは5年連続で黒字。つまり借入超過を示している。多い年では年間30億円弱も資金を調達している。

 にもかかわらず、全資産における負債以外の割合を示す自己資本比率は伸び続けている。

 通常、負債を増やせば、自己資本比率は低下するはず。さらに、分析を進めたところ、その一方で同社が度重なる増資を行っていたこともわかった。

 要するに、PCデポは株式の発行数増しを何度も繰り返し、市場からもお金を集めまくっていたのだ。その額が銀行借入よりも多いため、自己資本比率は上昇しつづけたのである。現在の自己資本は4年前と比べて倍以上である120億円強だ。そうして銀行や市場から調達した多額の資金は、前述した経営戦略実行のカナメである店舗改装に使われた。

 典型的な家電量販店そのものだった内装を、立ち寄りやすく心地よくサービスが受けられる空間に変えるべく、既存店舗に巨資を投じていたのだ。「PCデポスマートライフ」店と名付けられた新型店舗は、確かに旧来の家電量販店のイメージとまったく異なっている。

 増資を行うと株式は希釈される。例えば100円の株を1000株分保持していた場合、さらに1000株増資されると株価は理論上、半額の50円になる。しかし、市場はPCデポの積極的な姿勢を高評価していたため、株価も時価総額は伸び続けてきた。

 これはひとえに純利益の激増という結果を出し続けてきたからに他ならないのだが、今回の一件でその源泉が詐欺まがいのボッタクリかもしれないという懸念が出てきた。事実、同社の株価は問題のツイートが拡散して以降、3日間で3割近く値を下げている。世間の厳しい目に晒され、継続性に疑問符がつけば、PCデポの企業価値は一気に地に落ちるだろう。

◆事業転換が招いた新たな問題

 同社の懸念材料はこれだけではない。実はもう1つ、すでに顕在化している懸念材料がある。これまで述べてきたように、(手法はどうであれ)純利益をどんどん増やしてきたPCデポだが、本業によって稼いだお金と、出て行ったお金の差分の増減を示す「営業キャッシュフロー」が、最新の決算でもプラスに転じていないのだ。なかにはマイナスという年もあり、事実、ほとんど稼げていないのだ。

 原因は売上債権。すなわち、まだ顧客から回収できていないお金の増加にある。売上債権は主に売掛金と受取手形からなるが、売掛金は過去4年で約4倍、140億円弱にまで増えている。PCデポが「家電量販店」だった頃は店舗で商品と代金の交換が行われるのでほとんど売掛金は発生しなかったが、月々のサービス料や解約料で儲けるシフトチェンジをしたおかげで、すぐにお金が入ってこなくなったのだ。

 それにしても、年間売上の4分の1以上が売掛金というのはかなりの負担になってくるはずだ。同社にとって最も懸念され、かつ充分に起こりうる事態が今回の高額請求が明るみに出たことによって、各地で解約金の支払い拒否が相次ぎ、消費者庁の指導などで債権回収が進まなくなることだ。

 そうなってしまった場合、多額の貸倒損失を計上する必要が生じ、現在30億円程度の純利益は一気に吹き飛んでしまう。

 PCデポの今回の一件は、必要以上にお金を取られた顧客はもとより同社の成長を信じて株を買っている株主にも影響が及ぶ。幸か不幸か、市場からの大量の資金調達のおかげで、今回の事件とその余波を受けても、PCデポの手元にはなんとか再建に必要な資金が残っているはずだ。その残された資金を元に今度こそ、正しい業態転換を進めてもらいたいと筆者は切に願っている。

<文/大熊将八 photo by Aimaimyi via Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0>

おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok

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最終更新:8/23(火) 18:51

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